第8話 一次試験
一次試験初日。
「守る事こそ騎士の真髄! やはり僕にはこちらが相応しいと天が囁いたんだろうね!」
「……はぁ」
白い箱を手にしつつ装飾過多な魔術師服に身を包む金髪の青年クルーク。これが俺の相棒だ。そう、結局こいつと俺がパートナーになったのだ。
(他にいなかったとは言え、選択肢としては圏外レベルなんだがな……)
俺には、あの時既にクルーク以外に組める奴がいなかった。だから仕方ないのだが……姿を隠して身を守る白の騎士側となったのに大声で叫んでいる姿を見ていると早くも後悔したくなってくる。
あの時部屋に残っていたペア候補の中に、俺と組もうと言ってくれそうな奴はいなかった。と言うか、俺とクルーク以外の奴と何とかしてペアになろうとしていた。
あのままだと残り三人まで待ちぼうけをくらい、そしてクルークと俺のどちらかがペアあぶれ失格者になっていただろう。いや、もしかしたら俺達と組んで命がけの試験に挑みたくは無いと三人で失格になっていたかもしれない。
それだけは避けたかったので、俺は内心嫌々ながらクルークと組んだのだった。
「さて、ではどうするかねレオン君? やはり天才の僕としては堂々と黒の諸君を返り討ちにしたいと思うんだが!」
「……とりあえず、飲み水と食料の確保かな」
ペアとして対等な関係を保つ為にも敬語はやめようとクルークの方から提案されている。俺はそれを飲み、砕けた口調で話していた。改めて思うと、俺がこんなフランクに話すの12年ぶりかもしれない……。
そんなわき道に逸れた思考やクルークの頭が痛くなる発言を無視しつつ、俺はこの三日間を生きぬくための最低条件をクリアすることを提案した。
この試験、水食料の持込は許されていない。全て現地調達する必要があるのだ。
……一応、魔法薬と言った飲み水としても使えないことはないアイテムくらいなら許容されているが、そんなものを飲み水として使わなきゃいけないほど追い込まれたらもうダメだろうしな。
「ふむ、食糧確保か。よしよし、ではこの僕の華麗な魔法でちゃちゃっと獲物を仕留めて見せよう!」
「確か炎の魔法使いとか言ってたよね?」
「その通り! 僕は炎の芸術家にして偉大なるフレイムウィザードなのさ!」
ゲーム時代なら、魔法職の中でも攻撃魔法に特化したウィザードは全属性の攻撃魔法を所得できた。だが、この世界では少し違うのだ。
レベルが上がったら勝手に使える魔法が増えるわけではない。そして使えればいいと言うわけでもない。全て訓練が必要なのだ。
そのため、多くのウィザード達は自分の属性を一つか二つに絞っているらしいのだ。
つまり、口ぶりから察するにコイツは火の魔法だけしか使えない魔法使いなんだと思った方がいいと言うことだ。ジジイのように空間魔法からあらゆる魔法を使いこなすバケモンなんてそうそういないのである。
と言うわけで、差し当たって俺が言うべき事は――
「火の魔法、緊急時以外使用禁止ね」
「なぬっ! 何故だね!?」
「こんな森の中で火なんて使ったらあっという間に燃え上がって危険。ついでにそれで動物でも焼いたら匂いがそこら中に広まって的にされる」
攻撃に特化すればいい黒の騎士ならばともかく、身を隠して敵をやり過ごす能力が求められる白の騎士では火の魔法は非常に使いづらい。ぶっちゃけ、俺達にとって防衛側の白の騎士は物凄く相性悪いのだ。
(俺はまだまだ子供……スタミナ面での不利は否めない。そして、魔法職が戦士職よりも体力面で劣るなんて誰でも知ってる常識だ。どう考えてもこの組み合わせで持久戦になる白の騎士は最悪の選択だな……)
俺は黒の騎士希望だった。だが、真に残念ながら既に黒の騎士枠は埋まってしまっていたのだ。
それをここで愚痴ってもどうにもならないんだけど、せめて状況が悪いことくらいは認識して欲しい……。
だが、こいつの脳みそは自分に不利な条件なんて認識しないようだ。
「そんな事を気にする必要は無いさ! 森の中でだって開けた場所はあるだろうし、水辺なら火事になる事は無いはずだからね!」
「いや、まあそりゃそうだけど……」
「そして何よりも、この天才である僕が魔法の威力を誤るなんてありえないさ! そしてもちろん、敵が襲い掛かってくることなど心配する必要すらないよ。この僕が全て撃退するからね!」
「……はぁぁぁ」
もし奇跡が起こって無事に三日間箱を守り通したとしても、絶対その後の足きりで落とされるなこりゃ。
だって、守る任務についてる奴が自分から敵をひきつけようとしてんだもん……。
「とりあえず、その水辺を探そうか。飲み水だけは確保しないとね……」
「うむ! ではついて来たまえ!」
そう言って、クルークは自信満々に先を歩き始めた。俺もそうだから何も言えないんだけど、コイツは川とかの場所わかって歩いているんだろうか……?
◆
「迷ったね!」
「迷ったな……っと、もう合図か」
やっぱりクルークは何にもわかってなかった。ただどこから湧いてくるのかさっぱりわからない自信を原動力に適当に歩いていただけだった。
そして、そうこうしている内に空の上に一発の花火が上がった。あれは白の騎士が森に入って三時間が経過した合図であり、同時に黒の騎士が森に入る時間であることを知らせるものだ。
「防衛側である白の騎士には三時間の準備時間が与えられるのだったかな?」
「その間に拠点を見つけるなり罠を仕掛けるなりするのが理想だったんだけど……まさか三時間で体力を消耗しただけとは」
最初から手痛い失点。いきなり躓きスタートである。まあ俺だって道がわかるわけじゃないから偉そうなことは言えないんだけど……。
「おや? 水の音がするぞ!」
「えっ?」
「こっちだ、来たまえ!」
俺には何も聞こえないが、クルークには何か聞こえたらしい。山篭りでそう言った感覚は磨き上げたつもりだった俺としてはちょっとショックだが、まあいいかとクルークに続いて走るのだった。
そして、その先にいたのは――
「な? 来ただろ、白の騎士がさぁ」
「策士だね。まさか森に入って10分でもうクリア目前とはさ」
腕に黒の腕章をつけた二人組み。片方は盗賊風の軽装で、もう片方は魔術師風のマントをつけた男達だ。
そして、魔術師の杖の先からは魔法で作られた水が地面に向かって放たれていたのだった。そりゃもう、湧き水でもあるんだろうなとしか思えないように。
「――罠か!」
「クッ! 僕ともあろう者がこんな子供だましに!」
三日もの間森に篭らねばならない白の騎士は、当然水と食料を求める。こいつ等はそれを計算して水の音を演出したのだ。
これで俺よりも先にクルークが水音に気がついた理由もわかったな。魔法で作られた水だったせいで、魔法に関しては俺よりも優れた感覚を持つのであろうクルークがより早く感知したんだろう。
だが、今はそんなことよりもこの状況をどうするかだ。ここにわざわざ誘い込んだってことは、多分盗賊風の男が仕掛けた罠があちこちにあると思っていい。ゲームでも盗賊の得意技は罠作りだったしな……。
「だが、相手がこの僕だったことを後悔するのだな! 食らえ【炎術・フレイムボール】!」
「ばっ!!」
クルークはさっきの俺の忠告なんて思いっきり無視して火球を放つ魔法を発動した。魔法の構成スピード、威力共々思っていたよりも遥かに優れてこそいるが、しかし敵の領域内で迂闊な攻撃は――
「【水術・アクアシールド】!」
「そしてトラップ発動ってかぁ!」
「ぬわっ!? 何だこれは!!」
さっきから魔術師が垂れ流しにしていた水が盾を作り出し、クルークの火球を受け止めた。
そして、盗賊は魔法の攻防と同時に腕を振り上げた。その瞬間、俺達に向かって複数の矢が飛んできたのだ。
「あっちこっちから矢が!?」
「多分、糸か何かで仕掛けを操っているのだろ!」
「その通りぃ! でもさぁ、それがわかったからどうにかできるのかなぁ?」
想定していなかった多方角からの攻撃。それに一瞬慌てるが、しかし一瞬以上の隙をさらすわけには行かない。
この程度の苦境、日常生活に比べれば鼻で笑って大したこと無いと貶せる程度のものだ。日常生活と敵の罠にはめられるのでは日常の方が危険と言う状況に何か違和感を覚えないでもないけど、とにかく俺はいつものように体内の魔力を素早く活性化させるのだった。
「クッ! 早く次の魔法を――」
「無理無理。魔法を使った直後の魔導師なんてただの的だってのぉ!」
魔術師にとって絶対の隙。それこそが魔法を発動した直後だ。
魔法を発動した直後、つまり魔力を体外に放出した瞬間は絶対に魔法を使う事はできない。厳密に言うと【二重詠唱】のようなアビリティ持ちならそれも可能なのだが、そんなレアな能力持ってる魔術師なんて早々いる訳がない。
そして、魔法の無い魔術師など一般人みたいなもの。故に魔術師を倒すのならば、魔法を使った直後が最適なのだ。
だからこそ、その隙を埋めるのは前衛の戦士の仕事なわけなんだけどさ。
「【加速法――倍速】!」
「あん?」
「瞬剣・蜂落とし!」
全身の魔力を活性化させ、短時間の間通常の倍速での行動を可能にする。その状態で放たれる剣技こそが俺のメインウェポンにして切り札、瞬剣だ。
そして加速状態の俺ならば、高速の連続突きによってこんな矢如き全部簡単に撃ち落せる。この程度、興奮状態の蜂が満載の密閉空間に押し込められた時に比べれば屁でもない障害だ。
「馬鹿なぁ!? 俺の矢が全部弾かれぇ――」
「魔術師の弱点、知ってるよね?」
「し、しまっ!?」
矢を弾いた後、加速状態を維持したまま俺は盗賊を無視して敵の水魔術師へと突っ込んだ。クルークの魔法を魔法で防いだ以上、こいつもまた今が無防備状態なんだからな。
「瞬剣・一ノ太刀!」
「ぐぼぉ!?」
盗賊がガードに入る隙すら与えず、俺は水魔術師を胴斬りにする。もちろん峰打ちだが、加速した剣で思いっきり殴られた以上骨の二三本は覚悟してもらおう。
ここで俺は加速を解除し、盗賊に向けて剣を構える。だが、既にその必要はなくなっていたのだった。
「既に魔法待機時間は終了しているよ! 【炎術・炎槌】!!」
「馬鹿なぁ! 速すぎ――ギャァァァァァ!!」
「天才である僕を舐めないで欲しいね!」
俺が加速して水魔術師を斬ってる間に、素早く体内魔力を整えたクルークが盗賊をこんがり焼いていた。
魔法待機時間は使用した魔法によって、また術者本人の実力によって変わるはずだが……クルークはかなり速い部類だ。使ったのがフレイムボールと言う最下級レベルの魔法だったとは言え、まさかこんなに早く魔法を連発できるとはな。どうやら天才と言うのもあながち嘘じゃないらしい。
ま、知識を詰め込まれただけで実際に知ってる魔術師はジジイくらいの俺が言うものなんだけどさ。
「お疲れさまといった所かな! 思った以上に凄い剣士だね君は。一瞬見失ったよ!」
「……速さだけがとりえの小僧なんでね」
俺は焼かれた盗賊を横目に見つつ、クルークの賛辞に答えた。
……どうやら威力制御もしっかりできるらしいな。火傷を負ってこそいるけど死んではいないようだし、周囲への被害もゼロだ。
「いやいや、仮に君が素早さしかないとしても、アレだけの速さがあれば十分さ!」
「ははは……それよりも、こいつらどうする?」
俺は子供だ。そして子供である以上、どうしてもパワーで他に劣ってしまうのは避けられない話だ。
そこで俺が身につけたのが速さ。ゲーム風に言えば数ターンの間敏捷値をアップするだけの地味技であった加速法であった。
ゲームとして見れば敏捷値は確かに重要だが、しかしそれよりも強化しておきたいパラメーターはいくらでもあった。と言うか、前衛攻撃役は余計なことせずに攻撃した方が結果的に早いゲームバランスだった。
だが、現実では違う。速くなればなるほど敵の攻撃を避けることは容易くなるし、こちらの攻撃は簡単に命中する。
そして何よりも、破壊力とは重さと速さの掛け算だ。つまり、速いほど攻撃力までアップする理想的な能力なのだった。
もちろんノーリスクではないが、手っ取り早く強くなるのにこれほど適したものは無いだろう。俺の資質にもあってるらしいしね。
「ふむ……君達、まだ意識はあるかい?」
「ぐぅ……ああ」
「では、君達の救助要請信号弾を上げようと思うが……何か異論はあるかね?」
「いや、ない……頼む」
「よろしい。――火よ」
クルークは倒れ伏した盗賊の懐から耐火性の箱を取り出した。これは合否をわける白の箱とは別に配られたものであり、もしもの時に救助を要請する為の信号弾が入っているのだ。
その中から信号弾を取り出し、クルークは指先から出る火で打ち上げた。別に魔法を使わずとも火打石で魔力温存の方がいい気がするが、その辺は魔術師のプライドなのだろう。ジジイも極力魔法でできる事は魔法でやってたし。
「では、行こうかレオン君。我々はここにいない方がいいだろうからね」
「そうだな――痛っ!」
「ん? どうしたのかね?」
「いや……なんでもない」
加速法。スピードを飛躍的に高めてくれる夢の能力だが、当然メリットもあればデメリットもある。ゲーム時代に存在しなかった恩恵がある以上、その逆もあるのだ。
その欠点とは、肉体への負担だ。本来できない動きを瞬間的な強化で無理やりやる以上、その無茶が体に負担となって返ってくるのである。まあ日頃の鍛錬のおかげで瞬間的な倍速化くらいならちょっと筋肉痛くらいで済むんだけど、これ以上の力を出すのは本当に奥の手だ。
そして、そんな弱点をクルークに語るわけにも行かない。今は協力し合う仲間だが、この試験を突破すれば敵なのだ。そんな相手に俺に取っては一番とも言える弱点を晒す訳にはいかない。
「では行こうか。今度こそ水を探さないとね」
「今度は罠じゃないといいな」
そうして、俺達の初戦は終わった。勝利と言えば勝利なのだが、しかし戦ったこと自体が敗北のような戦いだったのは考えない方がいいだろう。
◆
「何か言い訳はあるか?」
「フッ……! 僕が天才的な強さを誇っていることかい?」
「違う。ここまであらゆる罠に引っかかりまくったことに対してだ」
白の騎士を狙っている黒の騎士達は、それぞれがあの手この手で隠れている白の騎士をおびき出そうとしている。
そして、コイツは何故かあらゆる罠に引っかかり、初日だというのにもうやらんでもいい戦いを五度も行っていた。流石に加速しすぎて体が痛い……。
「いいではないか、全部勝っているんだから」
「やらんでもいい戦いに何連勝しても自慢にならないだろ! 疲れるだけだよ!」
この試験が他の受験者を何チーム倒せるかを競うものだとすれば、俺達はかなりの高評価だろう。だが、うまく立ち回れば戦闘回数ゼロで突破できる白の騎士にそれはない。
初日からこんな消耗しまくっちゃその内疲労で倒されそうだよホントに。
「まあそう言わないでくれたまえ。僕の力は十分わかってくれただろう?」
「まぁね……。想像よりずっと強かったのは認めるけどさ」
クルークは強かった。頭の中身はともかく、実力だけなら20歳以下の魔術師でランキングを作ったら上位に入るんじゃないかってくらいには。
……ついでに言えば、この試験に挑んでいる受験者は思ってたよりもずっと弱かった。未熟者である俺如きに、まあ外見から油断したんだとしてもここまであっさり倒されるなんて思ってなかったからな。俺もクルークも加速法の筋肉痛と勝手に転んで擦りむいた以外の傷がないのがその証拠だ。
「とは言えそろそろ疲れてきたね。そろそろ夕食の時間にしたいところだが……」
「メシどころか水もないぞ……」
白の騎士として、初日に準備しておきたいのは水と食料と寝床だ。そして、俺達は未だその内一つも手にしていなかった。
「この森は食料豊富だと聞いていたんだが……何もないとはね」
「そりゃまあ、あんだけ轟音響かせて戦闘しまくれば獲物も逃げるって」
この森は食べられる植物や果物、あるいは獲物にできる動物が数多く生息している。そう聞いていたのだが、残念なことに俺には食べられる植物の知識まではなかった。流浪の行でサバイバル体験をしたとは言え、基本飯は猪の丸焼きとかだったからな……。
そして、当然の事ながらクルークにもその手の知識は無かった。どうやら本人の言葉通りかなりのお坊ちゃんらしく、そう言う経験は皆無らしい。
「こうなったら、何とか狩りでもするしかないか……」
「ふむ、では僕の華麗な炎魔法で――」
「クルークは寝床の用意を頼む。くれぐれも魔法は使わないでな!」
「そ、そうかね……ん? あれはなんだろうかね?」
「え?」
爆音響かせる火炎魔法の使用を厳重に禁止しようとした時、またクルークが何かを見つけたようだ。こいつ、分析力は皆無だけど観察力は高いんだよな……。
そんなクルークが指差しているのは植物が密集しているだけでこれと言っておかしな点は無い場所だった。何を言いたいのかと俺は首を捻るが、クルークはそんな俺の心中を察したのか解説してくれたのだった。
「これはちょっと壊れてるけど、即席の家屋じゃないかね?」
「え? ……確かに、その辺の草や木で作った風除けみたいだな」
クルークが見つけたのはただの植物の塊ではなかった。ちょっと見ただけではわからないように巧妙に作られた寝床であったのだ。
ご丁寧に中に人が入っても外からはわからないように作られており、まさに隠れ家と言えるものだった。
「他の受験者が作ったものか……? 中には誰もいないみたいだけど」
「いや、これは作られてからかなりの時間が経過している。壊れ方も自然に風化した感じだし、恐らく2、3年前の試験で作られたものがそのまま残っていたんじゃないかな?」
「なるほど……」
クルークは、今までのおちゃらけとは全く違う鋭い雰囲気でこの草の家屋を評価した。本当に観察眼は凄いな。
ちょっと見ただけで時間経過で壊れたかどうかなんて普通わからんと思うんだが……。
そんなことを考えていたのが顔に出ていたのか、クルークはいつもの爽やかかつ馬鹿っぽい笑みを浮かべて解説してくれたのだった。
「なーに、美を愛する芸術の徒としてはこのくらい当然のことさ! それに、物を見る目と言うものは磨いておいて損は無いしね」
「そ、そうか……」
説得力があるのかないのかわからんが、とりあえず大仰な身振りと共に放たれた自称芸術の徒宣言に迫力はあった。まあ俺の鎧がそれなりに凄いものだって見抜いた実績もあることだし、そっちの方面では信用してもいいのかもしれない。
……鎧や剣の価値を今一わかってない俺が言うものなんだけど。
「だが壊れていることも事実。ここは一つ僕の手で修復するとしようか!」
「え? そんな事までできるの?」
「当然だろう? 僕は天才だからね!」
……魔法の天才であることとこれは何か関係あるのかって激しくツッコミたいが、まあいいか。俺は俺でメシや水を何とかしないといけないし、元々寝床作りはクルークに任せるつもりだったんだからな。
「じゃあ、俺は近くに食べられそうなものがないか探してくるよ。誰かがここを拠点に選んだ以上、多分そう離れてない場所に水くらいあるだろうしさ」
「任せたまえ。最高にビューティフルな隠れ家を作り上げよう」
「……普通で頼むね。くれぐれも隠れてない隠れ家にしないように」
釘を刺した俺は、あまり離れないように注意しつつ周囲を見て回る事にした。もちろん水食料探しと言う目的もあるが、同時にあの巧妙に作られた隠れ家が罠じゃないだろうかと言う疑念を晴らす意味もある。
まあ俺は気づかなかったし、罠だとしたらもう少しわかりやすく用意されているだろう。だから心配しすぎと言われればまあその通りなんだけど……念には念をだ。
(しかし本当に何も見つからないな。親父殿の話だといろいろ食えるものがあるって事だったのに……)
このままだと、俺達は丸一日何も口にしないまま二日目を迎えることになりかねない。ただでさえ体力面に不安のある俺達がそんな状態で突破できるほどこの試験は甘くないだろうし、何とかしないとな……。
◆
「ククッ! 頑張って探し回ってるねぇ」
「しかし無駄だ。我ら幻術使いコンビに目をつけられてるのだからな」
俺は少し離れた場所からターゲットの小僧を見て笑う。自分の腕につけた黒の腕章を確かめながら。
目標は派手な魔術師一人とガキの剣士一人。そして、今はガキが一人で食料探し中だ。
今なら一人だし、たかがガキだと奇襲のメリットも考えて襲ってしまうのもありだろう。だが、それはしない。俺は戦闘能力ではそれほど自信がないし、何よりも獲物と定めるガキがただのガキでないことは既にわかっているんだからな。
「炎の魔術師……あれはヤバイ。正面から戦った所で俺達じゃ勝てないだろう」
「かと言って、あの子供も危険だ。あれほどの速度で動かれては我らでは対処できんよ」
「だからなんだ、って話だけどな……ククッ!」
俺は敵の強さを、そして自分の弱さすらも笑う。
派手な戦闘音のおかげで早期に発見できた白のペアだったが、同時にその戦闘能力を見せ付けられた。俺よりも、遥かに強いその力を。
だが、俺はあの二人を獲物と定めた。既に五組の受験者を下しているその力、それを取れば俺達の評価も鰻上りって寸法よ。
普通の奴なら無謀な賭けかも知れねぇが、俺だけは別だ。自分より強い何ざ、俺にとっちゃ脅威でもなんでもないんだからな。
「私の幻術、幻を見せる力【幻術・幻影投影】」
「俺の幻術、隠し、欺く力【幻術・幻影偽影】」
「この能力で、お前はありもしない虚像に惑わされる」
「この魔法で、テメェはあるはずの宝に気づけない」
「我らは力を誇るものでは無い。そして、我らの前で力を誇ることも意味がない」
「ジワジワ削ってやるよ。時間と言う名の刃でなぁ……!」
基本、主人公レオンハートはスピードタイプです。
まあ求める基準がおかしい(世界有数の騎士or魔術師or物語の英雄)ので自覚は無いですが、腕力も十分あるんですけどね。