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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
天才(?)になりました
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プロローグ

 レトロゲーム【聖剣の勇者】。古いゲームで、典型的RPGだ。

 その内容をざっくり言えば、聖剣に選ばれた勇者様が魔王を倒して世界を救いましたと言うどこにでもある英雄譚かな。


 もうちょっと詳しく言うと、主人公が王国の新米騎士に選ばれてすぐ、かつて聖剣の勇者によって封印されていた魔王が復活し、軍勢を率いて攻めてきたのだ。

 王国騎士総出で迎撃に出るも、魔王の力は圧倒的であり、人間たちは瞬く間に壊滅状態に追い込まれてしまう。所詮新米である主人公も例外ではなく、魔王傘下の魔族によってあっさり倒されてしまう。

 そのまま命を落とすと思われたが、そこへ王国騎士団長にして人類最強の称号を持つ若き天才聖騎士、レオンハートが間一髪で助けに来てくれる。

 その助力によって命を拾った主人公は、そのままレオンハートに助太刀をするつもりだったのだが、既に重症を負っている上に実力不足。足手まといだと突き放されてしまう。

 そして、レオンハートは更にこう言った。既に大勢は決した。もう、今の王国に魔王を退ける力は無いと。

 だから生きろと、せめてお前達若き希望だけは生き残ってくれとレオンハートは主人公に背を向け、一人足止めの為に魔王軍に立ち向かう。自分は命散るまで戦い、一人でも多くの国民が逃げる時間を稼いで見せると言い残して。


 だが、主人公はそれでも逃げる事ができなかった。自分だって騎士なんだと、国を守る為に戦うんだとレオンハートの後を追ってしまう。

 こっそり後をつけた主人公が見たのは、魔王と一騎打ちをするレオンハート。さすが国一の騎士なだけあり、魔王相手でも善戦して見せていたのだ。

 しかし、やはり相手は伝説の魔王。その力は絶対的で、徐々に本気を出す魔王にレオンハートは追い詰められていく。

 それを見た主人公は居ても立っても居られず、助太刀しますと魔王に戦いを挑んでしまう。

 だが、勝てるわけもない。圧倒的な力を誇る魔王に、新米騎士如きが相手になるわけもない。絶対的力の差の前に、主人公は容易く一蹴されてしまう。

 一撃で殺されなかったのは、魔王の余裕。そして、ジワジワ人間を殺してやりたいと笑う残虐な思考によるもの。

 そんな理由で瀕死ながらも生き残った主人公を救う為、レオンハートは最後の力を振り絞る。光魔法の力で主人公を別の場所に転送したのだ。


 こうして、主人公は生き残った。だが国は滅び、魔王は世界を恐怖のどん底へと突き落とした。

 生き残った主人公は自らの命を魔王打倒の為に使うと誓う。そして、唯一魔王に対抗できる可能性のある【勇者の聖剣】を求めて旅を始めるのだった――――


 とまあ、こんな感じプロローグで始まる物語だ。

 戦闘はコマンド入力形式のオーソドックスタイプ。昔懐かしいドット絵で表現される、剣と魔法の王道ファンタジーである。


 何でこんな事を突然思い返しているかといえば、一つは俺が今なお愛するゲームだからってのが一つ。そして、古いくせにやりこみ要素満載で、500時間を越えるプレイ記録を残したほどにやりまくったゲームだからってのが一つ。

 更にもう一つ、俺にとって冗談でもなんでもなく、ゲームではなくなってしまったかもしれないからだな。


「×××××!」

「■■■■■■!」


 俺には全く理解できない言葉で、俺を抱いている金髪の女性と男性が話している。

 そう、俺は抱っこされている。もちろん本来の俺――身長175センチメートルの男を抱きかかえるなんて不可能。だが、今の俺なら誰でも腕の中に収められるだろう。

 なんと言っても、今の俺は生まれたての赤子になってしまってるのだから。


「××××××」


 母親と思われる女性が俺になにやら語りかけている。当然、何言ってるかはわからない。

 わからないが、とりあえず喜んでいるのはわかる。赤子の前で夫婦らしい男女が喜んでいる以上、それはその子の両親だと考えるのが妥当だ。

 その子と言うのがつまり俺なわけだから、俺の両親って事になってしまうのかもしれないけど。

 まあいい。そんなこと考えるよりも、本当はかなり優先的に考えなきゃいけないことなんだけども、とにかくそれは一旦置いておく。

 俺的に気になっているのは、この部屋の壁に立てかけてある紋章なのだ。自分でもなんでそんなもんが優先なんだと思うけど、気になるんだから仕方がない。

 だって、物凄く見覚えがあるんだもの。


(赤を基調とした布地に、獅子を模した紋章。これは……レオンハートが生家とするシュバルツ家の家紋だよな……)


 ご丁寧にもその隣に、所属する王国の紋章旗まで立ててあるおまけ付きだし。

 俺が生粋の聖剣の勇者――略して聖勇――のファンだからそうだとわかったわけで、またそんな俺だからこそ考えてしまうことがある。

 ひょっとして、俺ゲームの世界に転生しちゃったんじゃね? と……。

 いや、俺だっておかしいとは思う。主に頭が。今すぐ頭の病院に行きたくなるレベルで。


 だってありえないだろ?


 ゲームの世界に生まれ変わるとか現実逃避にしても無茶苦茶で、しかもそれを現実に体験しているなんて夢かやばい薬キメてるかとしか思えん。

 と言うか、さっきから転生といっているが俺はそもそも死んだ覚えがない。まあ、本人も気づかないほど一瞬で死んだんだと言われれば否定する材料は無いんだが。


(いや、そんなことよりも考えるべきことがやっぱあるよな……)


 起こってしまったことは仕方が無い。これが夢ならそれでいいし、現実なのだとすれば真面目に考えなければならないことがある。

 すなわち、俺は誰なのかってことだ。


(あそこにあるのは、間違いなくシュバルツ家の家紋。つまり俺はシュバルツ家の子として産まれた……?)


 まあ、こう考えるのが妥当だ。妥当ではあるのだが、他にも考え方はある。

 例えば、転生こそしたがファンタジーの世界になんてやってきていない。実はこの夫婦は聖勇の大ファンで、ファングッズなんざ存在していないレトロゲームグッズを自作してしまった、とか。

 うん、案外ありえるのではないだろうか? 少なくともゲームの世界が現実になったなんて考えるよりは現実的だ。


 できれば自分の目でもっと詳しい情報が欲しい所なのだが、産まれて間もない赤子の目なんてほとんど役に立たない。自分でも不自然なくらいに鮮明に思い出せる聖勇関連の何かでもない限りまずわからん。

 両親(仮)の服装を見てみたいのだが、やはり細部はよくわからない。だが、漠然とした情報だけでいいのなら、民族衣装か何かのようなダボダボした服のような気がする。

 とりあえず、現代人の着る服とは思えない。


(いやいやいや。現代にだって、そんな感じの衣装を伝統的に身につけている人は普通にいるはずだ。世界を超えたなんて非現実的なことを認めるよりは、そっちのがよっぽど可能性がある)


 まず自分が赤ん坊になったなんて事実自体が非現実的なのだが、とりあえずそれは置いておく。都合の悪い事なんて考えないほうがいい。

 逃げられない話ならば、どうせまた考えなければならなくなるわけだし。


「■■■■」


 今度は父親と思われる男性が声をかけてきた。やっぱり何言ってるかはわからないが、よく考えたら全くわからないのも変な話だ。

 確かに俺は英語とか話せないけど、完全に一から十までわからないということは無いはず。まあここが英語圏じゃないだけかもしれないけど、とにかく俺は日本の義務教育を信じる。

 耳を澄ませて、何を言っているか頑張って聞き取ってみよう。


「○○○○?」

「■■■レオンハート■!」


 ……ん? 今一瞬なんか聞き取れたような。気のせいだったか?


「○○○レオンハート! ○○!」

「■■■! レオン!」


 あー、うん。注意するとそこだけはわかるな。確実に『レオンハート』って言ってるな。

 ……非常に聞き覚えがある名前だね、うん。


「○○レオンハート。レオンハート・シュバルツ○○」


 母親らしき人が俺に再び優しく語り掛けてくれた。なんと言うか、言葉はわからんけどなんて言ってるのか大体予想つくなこれ。

 多分『貴方の名前はレオンハート。レオンハート・シュバルツよ』とか言ってるよねこれ。ついでにその前を予想すると、『この子の名前はなんにします?』とか『この子の名は、レオンハートだ』とか言ってる気がする。愛称はレオンに決まった気がする。

 つまり俺は、シュバルツ家のレオンハートになったわけか。いい名前だねうん。未来の勇者を守って死にそうな名前だね。


(ハハハ……。筋金入りの聖勇ファン? 作中で死亡するとは言え、人気の高いキャラだもんね。ちょっと縁起悪いけど……)


 認めん。認めんよ俺は。俺がいろいろあって死亡する運命とか、認めんよ。

 そりゃ、聖勇ファンのファミリーネームがシュバルツだったらレオンハートって名づけるよね。わかるわかる。


「○○○○○」


 今度は父親らしき人がさっきまでの緩みきった顔を正して、偉くまじめな顔で俺を覗き込んでる。いや、そこまで見えてるわけじゃないんだけどね。

 ともあれ、何か小さなアクセサリーのような物を取り出して神妙な顔をしている。更に何かブツブツと呟きながら、それを俺の首にかけてきた。


(何だ? 上手く首が動かせなくてよく見えん……)


 まだいろいろ不安定なんだ。赤子ってきつい……。

 まあそれはいいとして、考えてもどうしようもないとして、俺の首にかけられたのは一体なんなんだろう?

 いや、それこそ考えてもわかる訳がないのだが、何となくわかってしまう気がするんだよね。こう、ファンとしての知識で。


(もしかしなくても、これって聖騎士の紋章だよな。……凝ってるなーこの人たち……)


 聖騎士の紋章。所謂、イベントアイテムだ。それも、結構重要な。

 レオンハート――俺じゃなくて、ゲームキャラの方ね――が持っていた首飾り。序盤のイベントで主人公はレオンハートの光魔法で飛ばされるわけだけど、その際にその首飾りを投げ渡されるんだ。

 簡単に言うと、レオンハートの生家シュバルツ家の子供が産まれたときに渡されるお守りのような物。持ち主を災厄から守る聖なる力が宿っているとされ、主人公が無事生き残れるように祈りを託し、死を覚悟したレオンハートが渡してやるわけだ。

 設定を忠実に再現すれば、まあ産まれたこの瞬間に渡すのは間違ってない。うん。間違ってない。

 ただ……ねぇ? ちょっと用意周到すぎやしませんかねお二人さん……ん?


「●●●●●」

「×××××」


 多分両親に、別の人が話しかけてた。二人じゃなかったんだね、ここに居たの。

 と言うかよくよく見てみると、お手伝いさんと言うかメイドさんと言うか、とにかく使用人っぽい人たちがいっぱい居た。

 これ、もしかしなくても超金持ちの家だよね。わーい、勝ち組決定ー……。空しいな、これ。


(なんてアホな事考えてる場合じゃない。つまり、この異常なレベルでの聖勇設定忠実再現をやってる人たちは、これを人前でやってるわけだ。いや、別にやっちゃいけないわけじゃないんだけど……)


 それでも、変な顔をされるのは避けられないと思う。

 俺が言うのもなんだけど、聖勇なんて知る人ぞ知ると言うか、知らない人の方が遥かに多いゲームだ。ゲームそのものへの偏見はこの際除外して考えるにしても、この完璧トレースに引く人は少なくないだろう。

 でも、この部屋にいる人たちからはそんな感情を感じられない。そこまでよく見えているわけじゃないんだけど、とにかく全員祝福モードなのだ。

 もはや異常としかいいようがないゲームマニアっぷりを前にしても、一切それに関する嫌悪感の類が感じられないんだよねこれが。


(つまり、この人たちがやっていることは一切おかしな事じゃない。それがこの場での共通認識。家紋やら国旗やら聖騎士の紋章やら、これは全てあって当然やって当然のもの……?)


 なに、それ? そんなの、ありえるの?

 いや、現実から目を背けるのはよそう。この場において、聖勇設定に従った行為は一切おかしな事ではない。それを認めるところから始めよう。

 で、認めた結果考えられるのは……夢か。夢だな。夢としか考えられない。

 まさか幾ら聖勇ファンだと言っても、ここまでリアルな夢を見るとは思わなかったぜ。イヤーまいったまいった。

 と言うわけで、寝よう。丁度赤子だし、寝るのも仕事の一つみたいなもんだろう。そうすりゃ気づけば元の体に戻っているさ。




 と、思い始めて早三日がたった。

 今日も俺は何百年か時間を遡ったような建物の中で、中身的にはそれなりに自立した大人であるつもりの俺は超ごわごわしたオムツを替えられていた。

 まあそれは記憶の彼方に流すとして、流石にこうなるともう言い訳も現実逃避もしてられない。と言うか俺が逃げるまでもなく勝手に現実がどっかに行ってしまって幻想(ファンタジー)とこんにちはなわけだが、ともあれ俺は認めなければならないだろう。

 すなわち、ここがゲームの世界、あるいはゲームに酷似した世界であり、俺はそこでレオンハート・シュバルツと言うご大層な名前の別人になってしまったのだと。

 要するに、気がついたら異世界人になっていたわけだけど、それを確信したのはやっぱアレだね。多分が付くけど父親が貴族的な衣装――現代人の感覚で言うと装飾過多な服装――を平時から身につけ、銃刀法を正面から斬り殺す気かって立派な剣を持ち歩いていたからだね。

 それに耳をよく澄ませてみれば、あちこちでゲームか漫画の世界にしか存在しないはずの単語を聞き取れたわけだし。

 まだまだベビーベットの上から見える範囲で集めた状況証拠しかないんだけど、もう数え役満かってくらいにいろいろ見ちゃったのでそう考えるのが妥当だろう。

 ああ認めよう。俺の名前はレオンハート・シュバルツ。そしてここは、聖勇の舞台である剣と魔法の世界だと。

 それを踏まえて、俺が考える事は一つだけだ。すなわち――


(俺、死ぬ。このままだと享年25歳確定)


 レオンハート、つまり俺は12歳で騎士の称号を授かり、14歳で中級騎士に、16歳で上級騎士に、20歳で聖騎士の力を得、22歳で国最強の騎士団長としての地位を築いたって事になってる。

 まあ要するに、序盤で死ぬキャラだからこそ許されると言うか、超天才設定のキャラだったわけだ。そのせいで25歳の若さで魔王と正面対決し、最後まで騎士道を貫いて死ぬことになったわけなんだけどな。


 とにかく、そのレオンハートの人生を人の敷いたレールの上を行く人生なんてレベルじゃないくらいになぞって生きたとすれば、俺が25歳――つまり今から25年後――にやってくる魔王に殺されるわけだ。

 しかも、実はレオンハートの災難はそれで終わらないのだ。

 人間にしては強いなと魔王に認められてしまったレオンハートは、その死体を闇の力で蘇生され、闇騎士として魔王の配下に加えられることとなる。要するに、ゾンビだ。

 当然洗脳されており、ゲーム終盤に主人公パーティーの前に立ちふさがるのだ。

 その強さといったら、闇騎士レオン戦後に手に入る最強装備や最強技で強化された状態で戦う魔王戦よりもきついと全プレイヤーに認識されるレベルである。

 ネット上にある攻略サイトでも、間違いなく聖勇シナリオ最難関と書かれているほどだ。クリア後に戦う裏ボスを除けば一番難しいポイントと言っていい。

 闇騎士レオンとの戦いを負けイベントだと勘違いし、そのままゲームオーバーになったプレイヤーは数知れずである。

 その激戦を凌いだ後、レオンハートはかつて主人公に託した聖騎士の紋章によって正気を取り戻す。そして、仮初の命が消えるほんの僅かな時間を使って主人公に剣技最強の技を託すことになるのだ。

 これが事実上主人公の主力となる技で、物凄くやりこんだ末に習得できる――この最強剣技も習得条件の一つ――主人公専用最強の技を除けば主力となる技なのだ。

 大抵のプレイヤーはこの技を主軸にして魔王とも戦うこととになる。闇騎士レオンはこれを普通に撃ってくるのもまた、闇騎士レオン戦が理不尽無理ゲーと言われる所以の一つなのだ。

 ちなみに、正気に戻った――つまり闇の力から解放されたレオンハートは、世界を主人公に託して安らかに昇天する。ここはゲームとしてみれば非常に感動的な場面なのだが、レオンハート視点で考えればつまり散々死体を利用された挙句に結局死ぬのだ。

 その最後まで高潔で、そして強い生き様から聖勇の中でも非常に人気の高いキャラなわけだが、いざ自分がなってみると冗談ではない波乱万丈すぎる人生ってことだな。見ている分にはいいけど絶対自分は体験したくない人生であると断言していいだろう。


(正直、いくら天才だろうが若くして成功を掴もうが、そんな休む暇もなく戦い続けましたの見本みたいな人生断固拒否だぞおい)


 若かりし天才と言うキャラだが、当然の事ながら才能だけでそこまでのし上がったのではない。

 物心ついたときから代々優秀な騎士を輩出してきたシュバルツ家の英才教育を受け、努力を欠かさなかったからこそ辿りついた地位なのだ。

 そんなの、所詮一般人でしかない俺にできるわけ無いでしょ? 要するに努力した天才ってことなんだから。

 努力イコール机の前にしがみ付くが常識のインドア派が、ちょっと異世界に転生したからって肉体を酷使する鍛錬なんてできるわけない。まあ騎士の家に産まれた以上強制的に鍛錬を積むことになるかもしれないけど、その過程で体を苛め抜くことにも慣れるかもしれないけど、根本的に俺が俺である限りレオンハートの領域にはたどり着かないだろう。

 そのレオンハートですら魔王に殺され、闇騎士として使役されてしまったんだ。俺が中身の宝の持ち腐れじゃあ、精々普通に殺されて闇騎士にならなかった程度の違いしか生まれまい。


(じゃあ騎士になんてならずにもっと別の道へ行けばいいんだけど……それはそれでダメなんだよなぁ)


 俺が騎士にならない。つまりレオンハートが聖勇の物語に登場しない。これはこれでまずい。

 何故ならば、レオンハートの物語における役割は大きく分けて三つ。その全てがとんでもなく重要なのだ。

 一つは序盤での魔王軍侵攻から主人公を、つまり未来の聖剣の勇者を守ること。

 この時点でもう言い訳不可能なんだけど、要するにレオンハートが居なければ主人公新米騎士として犬死するってことだ。どう考えてもダメすぎる。

 聖勇は一人用RPG。主人公は唯一絶対の存在であり、主人公以外に魔王に勝てる者は居ない。それが当然のルールとして存在しているのだ。

 仮に『主人公がもたもたしてたらどこかの誰かが魔王を倒しちゃいましたー』なんてのがあったら、それもうゲームオーバー級のイベントだろうし、これはまあ当然だと思う。

 当然なんだけど、つまり主人公がいなくなれば魔王の一人勝ち確定ってことなんだよね……。


(そして魔王の目的は、アイアム魔王な世界滅亡計画だ。征服どころか、この世界に生きる者全てを殺そうってんだから笑えないよなぁ……)


 魔王がやりたいように動いた場合、待っているのは人類を含めた全生物の滅亡だ。より正確に言えば、全ての生命を生け贄にした儀式が行われることになる。

 その目的は神を殺すこと。このゲームの主題でもある聖剣を作り出した“聖剣の女神”を殺すための力を得るのが魔王の目的なのだ。

 まあそこまでしないと倒せない女神が居るんだったら自分で魔王倒してくれって話なんだけど、なんでかはわからないが聖剣の女神はこの世界に自らやってくることができないらしい。

 だからこそ、自分の力を宿した聖剣を勇者に託すわけだ。主人公は魔王軍との戦いの中でその才覚を目覚めさせていき、聖剣の勇者としての試練をクリアすることで女神の聖剣を手にすることとなる。

 まあそれはこの際関係ない。とにかく重要なのは、女神に選ばれし勇者が居ないと俺を含めた全人類デットエンドを迎えるということだ。

 実際、ゲームオーバーになると『せかいは まおうによって ほろぼされた』の字幕と闇に包まれて消滅する世界地図って演出だし。それをそのまま考えれば、勇者の死と世界の滅亡はイコールで結ばれていると思ったほうがいいだろう。


(要するに、俺が命惜しさに騎士にならなきゃ連動して世界が滅ぶと。でもただ騎士になるだけだと、俺は尊い犠牲になってしまうと。……産まれたときから惨めに死ぬか気高く死ぬかの二択しかないって、ちょっと辛すぎる気がすんだけど)


 いかん、涙出てきた。オギャーとは言わんが、涙腺崩壊しそうだ。

 でも諦めちゃいけない。レオンハートとして生を受けたとしても、その一級品の才能を無駄にしてしまいかねない俺と言う名の呪いがかかっていたとしても、それでも俺には俺だけの武器がある。

 すなわち、総プレイ時間500を越えた経験から来る知識。この世界で生まれ育ったとしても知る訳がない様々な魔法、技、アイテムに関する情報。立ちふさがる魔王軍幹部達の攻略法。全て俺の魂に刻まれている。

 それを駆使すれば、生き残れるかもしれない。要は主人公が立派な勇者になって魔王を倒してくれればいい訳で、俺が死ぬ必要は無いはずだ。

 それを信じて、俺は知識で本物のレオンハートを超えてみせる。それが俺の決断だ。


 こうして、俺は一人ベビーベットの上で世界を救う決意を固めた。頑張って主人公に魔王を倒してもらおうと言う、超他力本願な決意を……。

何もしなくとも死。でも頑張っても死。

そんな状況に産まれた瞬間追い込まれた男が悪戦苦闘する様子を書いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで主人公しか魔王を倒せないの?1番大事なところなのになんで詳しく説明しないの?それが書いてないだけでもうこの小説駄作だよね
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