04
「エレベーターが動いてるわ。上に来てる」
わずかに手元が狂った。慌てて元の位置に戻し、さらに指先に集中する。
背後は見えないが、エレベーターの扉上部にある階数表示はよどみなく進んでいるはずだった。サイラスが銃の安全装置を外す音がする。指先に神経が集中する。ピッキングツールから感じるわずかな振動から内部構造を読み取り──
リン、と甲高い電子音が鳴った。
エレベーターが到着したことを知らせる音は、大きくはないものの静寂に包まれたエレベーターホールにはよく響く。
金属が擦れる音が、警備員の歩みと同じリズムで鳴り、三歩目で止まる。二言三言の会話が交わされたのち、金属音はもう一度三回鳴って、
──リン、と電子音が響くと同時、キースは止めていた息をようやく吐き出した。
隣に立つローザも一息つき、サイラスは無表情のまま安全装置をつけなおす。
「間に合わないかと思ったわ……」
キースには謝る余裕もない。
彼らの背後には開錠したままの木製扉があった。鍵が開いてからエレベーターが到着するまでに三〇秒。エレベーターから降りた巡回の警備員が社長室の扉を開けようとしなかったという幸運もあり、間一髪、相手に見つかることは免れたといったところだ。
もし、巡回警備員が扉を開けようとしていたら──戦力に数えられるのはサイラスだけ。ローザはナイフの扱いに長けているものの、銃を相手に立ちまわれるとは言えず、キースに至ってはピッキングでしか活躍できないために足手まといにしかならない。
圧倒的な戦力不足。とはいえその原因は、ローザ自身が「人殺しはしない」という主義を持っているからなのだが。
「もらうものをもらって、はやく帰りましょう。また巡回が来たらたまらないわ」
内側から扉に鍵をかけなおし、ローザはうんざりした口調で言った。