03
音はない。警備員の巡回は、屋外がある分、屋内の頻度が低いらしい。
ここから先、脅威となるのは監視カメラだけになる。
「サイラス、先導お願い。カメラがあったら潰していって」
「さすがに気付かれるんじゃないのか?」
「これだけ広ければ、確認作業を怠ってしまっても仕方ないんじゃないかしら? 元々、練度は低いみたいだし」
「なるほど」
短く応え、サイラスはするりと扉を潜りぬける。
空気の抜けるような発砲音が数回してから、扉が大きく開いた。
先を進むサイラスに続いて、ローザ、キースが廊下を進む。化学繊維のじゅうたんが床を埋めているため、三人の足音はほとんど消えている。一定の距離を進むごとに聞こえる銃声以外は沈黙が保たれていた。
非常時用の扉を開き、普段は使われない階段を上りはじめると、監視カメラがない代わりにじゅうたんがなくなって足音が大きくなるようになる。発生する音を最小限に抑えながら長い階段を無言でのぼる。地味ではあるが、最も確実で見つかりにくい方法だった。
七七階ぶんの階段をのぼり、扉を開けると、エレベーターホールに敷かれていたじゅうたんは上質な毛の長いものだった。昼間には秘書が控えているであろうカウンターの間を通り抜ければ、そこがマドンナの社長室だ。
見るからに重厚な木製の扉が行く手を塞いでいる。
ローザに促され、キースは息を整えながら社長室の扉へと向かう。上着から工具を取り出し、鍵穴に刺せばそのあとは指先に集中するだけの作業が続く。
細かい金属音だけが鳴る、静かな時間が数分ほどすぎたところで、
「キース、落ち着いて聞いて」
硬い声が、背後から投げかけられた。
ローザの声に反応することができないことにいら立つが、キースはなんとかこらえて作業を続ける。