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「最近子会社……というよりはペーパーカンパニーを増やしていると言った方が正しいけど、そういう小細工をしているのは、やっぱり密輸品が多いからだったわ。こっちにいるマドンナ側は情報の隠し方がうまかったけど、相手の方はそうでもなかったわね」
ローザは小箱を棚に戻し、キースとサイラスに向き直って続けた。
「密輸相手はウェルスバンク。統治能力は内戦でボロボロ、ダイヤモンドをはじめとした鉱山の利権を狙って大国が政府と反政府に分かれて投資する、代理戦争みたいな状況になり始めている国よ。貿易会社マドンナが投資したのは反政府側ね」
細かい部分はそっちの方が知ってるんじゃないかしら、とローザは付け足すように問いかけたが、サイラスは表情すら変えずに沈黙をたもつ。
最初から単なる確認のつもりだったのか、ローザは特に気分を害した様子もなく身をひるがえす。コレクションルーム内の唯一の窓へと近づき、木枠に手をかけた。
狭苦しい街の中では、窓の外に見えるのも隣家程度のものだ。しかし、ローザの視線は目の前のレンガ壁を通り過ぎ、その向こうにある乱立した摩天楼を捉えている。
「全ては無理かもしれないけれど、払える悪があるなら払ってあげないとね」
ちょうどその方向に、貿易会社マドンナの本社ビルが建っていた。