02
青年がいるのは、この辺りでは特に古い建物の並ぶ一帯だった。といってもさびれた様子はほとんどなく、中世の風景が残る石造りの通りは観光名所にもなるような場所だ。昔ながらのレトロな街灯が残っている辺りは夜になっても人通りが絶えないが、青年のいる建物周辺は近代的な電灯となっているために観光にはあまり適さない。加えて、零時をすぎた深夜帯であることも、青年を目撃する人間がいない原因になっていた。
しかし、古典的な風景が広がるのも、人通りが少ないのもこの一帯だけ。電車で一駅分の距離もないほど近い場所には、近代的な百貨店や飲食店の立ち並ぶ繁華街、レジャー施設の集まる歓楽街がある。電飾で彩られた街は、周囲の暗さもあって浮いているようにも見えた。その向こうには、さらに背の高い超高層ビルの並ぶオフィス街がある。
青年は街から目を反らし、屋根の上を慎重に歩く。建物に外付けされた階段を降りて細い路地を走れば、すぐ近くで仲間のワンボックスが待機していた。中から開けられた後部座席のスライドドアに青年が滑り込むと、ワンボックスはすぐさま発進する。
シートに座りこんだ青年が一息つくと、隣に座る男が窓の外へ目を向けながら短く問う。
「どうだった」
「アタリでしたよ。小粒だけどダイヤばっかりたくさん。他の宝石類はありませんでした」
報告と共に二人の間に置かれた小さな袋を一瞥して、男は無表情のまま前に向き直る。街灯に照らされた男の右腕は、木製の銃身を持つ猟銃を抱えていた。侵入の際、障害となりかねなかった警備員を催眠弾で眠らせ、ペイント弾でカメラを潰した銃だ。
狙撃手として活動している男は、常に表情を動かさない。ただ、青年は、こういった「仕事」が終わるとき、男のまとう空気が少し柔らかくなるような気がしていた。