01
小さな開錠音が聞こえて、青年は長く息を吐きながら手を止めた。
時間にすればわずか数分ではあるが、細かい作業を敵地で行うというのはそれなりに精神力を削られる。とくにダイヤル式の金庫を開けるときには神経を使うのだが、のんびりしている暇はない。重い扉を手早く開いて、中身を確認する。
金庫に収まっていたのは、小粒ではあるが数の多いダイヤモンドだった。ブリリアントカットが施されているせいか、わずかな光しか差しこんでいないのに金庫内部が明るく見えてくるほどの輝きを放っている。
冷や汗で滑る黒ぶち眼鏡のブリッジを押しあげ、青年はダイヤモンドを乱暴に掴みとる。小さいが上質な布袋に流し込み、口を堅く縛ると上着のポケットに入れて立ちあがった。
金庫のある部屋は、少し豪華な事務室を思わせる内装だった。古風なミントグリーンの壁紙に、オーク材の床板と大きなデスク。どこか使い古した感のある家具類に囲まれている中で、ダイヤモンドが入っていた金庫だけが妙に新しい。
それもそのはずで、事務所のような社長室を有するこの宝飾品デザイン会社はペーパーカンパニーに近い。突然宝飾品業界に手を出した貿易会社を親会社に持っているあたり、怪しまれても仕方がないし怪しまれるだけのことは行っている。
青年が手に入れたダイヤモンドは、本来この国に流れるべきものではなかったのだ。
「ブラッディ・ダイヤモンド……って言うんだっけか」
ポケットの上から袋を叩きながら、青年が呟く。
ペイント弾で目を潰された監視カメラを横目に開いたままの窓に歩み寄り、身軽さを感じさせる動作で窓枠に足を乗せる。そのまま窓枠に立って建物の外側へ身を乗り出し、窓のすぐ上にある屋根のふちに手をかけた。懸垂の要領で、屋根の上へ。それなりの傾斜はあるが危なげなく立ちあがる。