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楽園の果て

「聞こえる……」

 琴音はどこか遠くを見るような虚ろな目で呟いた。

「え? 何が」

「爆発音」

 琴音はやけに冷たい声でそう言うが、俺には特に何も聞こえない。

「いや、俺にはさっぱり……」

「近付いてきてる。〈楽園〉を荒らす奴なんて――許さない」

 琴音の瞳にはっきりと殺意が宿る。琴音の放つ威圧感に押されるように、俺まで緊張感に包まれ思わず息を殺す。


 森の向こうから微かな足音が響いた。琴音と俺が振り向いたとほぼ同時に、木陰から人間の姿が現れた。

「星野!」

 崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ星野は、ボロボロになった制服の至るところから血を流している。

「おい、大丈夫か!?」

 星野は肩で息をしながら、痛みに歪んだ顔の口角だけを上げて笑った。

「ああ、大丈夫、だ……。漸く……見つけたぞ、〈アダム〉に、〈イブ〉……」

 俺は星野の元に駆け寄り助け起こそうとするが、星野は体に力がうまく入らないらしく、全く動かない。

「星野、いったい何が……」


「――危ない!!」

 琴音の叫び声が響き、直後赤い弾丸が迫って来るのが見えた。星野が素早く呪文のようなものを唱え始める。

「くそっ、結界が間に合わな――」

 動けずにいる俺たちと弾丸の間にスッと琴音が現れた。

 琴音のスカートがふわり、とはためき、次の瞬間赤いチェック柄の弾丸は粉々に砕け散っていた。


「もう大丈夫よ」

 琴音は勝ち誇ったような笑みを浮かべてこちらを振り返った。

「今結界も張ったから、しばらくは大丈夫だ。――助かったよ、〈イブ〉」

 星野が応える。俺は一人この状況について行けず、ぽかんとして弾丸の残骸を見つめる。よく見れば弾丸だったものは、チェック柄の細かい布切れに変わっていた。

「今の……何だったんだよ?」

 俺が思わず呟くと、星野はああそうか、と呟きこちらを向いた。結界を張ったからか、少し星野の苦痛も和らいでいるように見える。

「谷戸、……いや、今は〈アダム〉と呼ぶべきか。〈アダム〉、お前は何故このゲームの参加者が皆パンツを穿けなくなっていると思う?」

 星野の唐突な問いかけにたじろぎつつ、俺は上手く働かない頭で答える。

「それは……何か、異能の力を持った代償とかじゃないのか?」

「いいや、その逆だ。このゲームの中で力を持っているのはパンツのほうだよ。ゲーム空間に飲み込まれたパンツが力を発現した反動で、そのパンツの所有者にまで異能の力の一部が付与されたに過ぎない。多少異能の力を持った者では穿くことすらできない……パンツはそれだけ凄まじい力を持ってるってことだ」

 星野の意外な言葉に目を見開く。

「じゃあ、さっきの弾丸は」

「ああ、パンツに加速度と剛性を与えて飛ばしたものだ。パンツの力をもってすれば、どんな兵器より強力な攻撃も可能だからな。しかし、パンツそのものを投げ込んでくるとは……。あいつも相当焦っているようだな……」


 琴音は理解しているのかいないのか、感情のない目で星野の話を聞いていたが、少し目を見開き驚いたような表情で口を開いた。

「あなた、穿いてる」

「え?」

 琴音の言葉に驚いて星野を見ると、確かに破れたズボンの隙間からパンツらしきものが覗いている。

「本当だ、どうして星野がパンツを穿けるんだ……!?」

 星野はニヤリと笑う。

「おいおい、僕が主人公体質だってことを忘れたのか? アダムとイブが一対で存在するように、パンツを穿ける存在も一対で存在しているのさ。僕と、さっきの弾丸を撃ってきた奴は、パンツを操る〈プレイヤー〉だ。……パンツは凄まじい力を有する。つまり、そのパンツを集めれば世界の創造すら可能だ。

電話で殺された生徒のことを話しただろう?彼女たちはおそらく僕の敵――〈代行者〉に殺され、パンツを奪われたんだろう。“パンツを先にすべて集めたほうが、新しい世界を創造できる。”これはそういうゲームさ」

「星野……お前は、世界の創造者になるのか……?」

「いや、ゲームの結末を決めるのは君たちかもしれないよ。〈アダム〉に〈イブ〉、君たちはこのゲームでのイレギュラ―な存在だ。世界のパーツである知恵と恥じらいの象徴(パンツ)を爆散させてしまうのだからね。

このゲームの結末には3通りある。

僕が勝ち新世界を創造するか、〈代行者〉が勝ち新世界を創造するか、君たちが全てのパンツを破壊し、この戦いをはじめからなかったことにするか」

※谷戸くんは琴音ちゃんのスカートの優美な動きに目を奪われていたためスカートの中は全く見ていません。たぶん


白山雪

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