第7話
なんと先生!
あたしに気づいて手を上げた。
「何してんですか?」
「花に用あって待ってた。」
「あたしに?」
「うん。着替えたら出て来れないか?」
「・・・いいですけど。」
「あっちに公園あったな。そこで待ってる。」
「はい。」
あたしに会いにきてくれたの?
あたし、急いで家に帰って着替えてママに
「本屋行ってくる!」
って言って家を飛び出した。
なんでこんなに急いでんだろ。
先生が会いに来てくれたから?
やっぱり好きだから・・・?
あたしに用があるってなんだろう。
駅の近くにある公園に行くと、先生はベンチに座って本を読んでいた。
「先生。」
「おっ、早かったな。」
「近所ですから。」
「そっか。」
先生は笑いながら本をしまった。
先生のくせに若い格好して。
先生っぽくみえない。
「で、用って・・・?」
あたしが聞くと、先生は両手をあげた。
「え?」
「ハイタッチ。俺だけしてもらってない。救急箱取りに行ってたから。」
え?
それだけのために来たの?
「あ、はい。」
とりあえず、あたしは要望に応えてハイタッチをしてあげた。
パチンって音立てて手と手を重ね合わせた瞬間、先生はあたしの手をギュって握った。
ドキン・・
先生のあったかい手があたしの手を包んでる。
「そっけなくするなよ・・・」
「・・・」
気にしてくれてたんだ。
「クラスの男子と楽しそうに笑うなよ・・・」
「先生?」
「テニス部の男子と肩なんか組むなよ。俺以外の奴に頭なでさせるなよ。」
え?
ずる〜いっ!
「先生、何言ってんの?」
「俺・・・ヤキモチ妬いてんだ。」
「先生だってみんなに優しいくせに。頭なでてたじゃん。」
「花。」
先生は手を離すとあたしを抱き寄せた。
「せ、せ、せ、せ、せ、先生?」
うそぉ〜!
先生の腕の中にすっぽり。
「あれは花のこと考えながら質問聞いてたんだ。無意識に花と間違えて頭に手乗っけてた。ごめんな。」
「じゃぁ、みんなにしてるんじゃないの?」
「してないよ!唯一花にごく自然にアピールできる手なんだぜ!」
“ぜ!”って・・・(笑
でも、あたしにだけしてくれてたんだ。
「花にさ、先生のこともっと好きになっちゃうから優しくしないでって言われたとき、どうしたらいいかわかんなかった。」
だって・・・。
「俺は花に好きになってもらいたかったから。優しくすんなとか無理だよ。俺は花が好きなんだから。」
嬉しいけど・・・
でも、亜理紗は・・・?
「担任になったときから気になった。でも、俺教師だし。ましてや担任じゃ、自分のためにも、花のためにも表にだせなかった。」
あたしのために考えてくれてたってこと?
「自分のためって?」
「立場もそうだけど、自分の気持ち押し殺しとかないと授業やHRできないよ、先生として。」
そっか。あたしも、授業に身が入らなかったっけ。
「でも、今は私服の花であって清南の花じゃないからな。」
だから着替えてから来いって言ったのか。
「もう、遅いか?村上の彼女になるのか?」
「祐一?」
「授業サボったとき、屋上に一緒にいたし。」
やっぱ見られてたんだ。
探さないわけないと思ったんだ。
屋上なんてまず探すもんね。
「体育祭の日、一緒に遅刻してたし、借り物競争で花を抱っこしてたし。」
「祐一は気持ちに嘘つけないからって。」
「花が好きだって?」
「うん。振られても。」
「もう手遅れかと思った。よかった。」
「先生こそ、亜理紗と噂になってるけど。」
「あぁ。亜理紗か。」
“亜理紗”だって。
「待ち合わせて一緒に出かけてるって。」
「だから花の様子がおかしくなったのか!なんだ。」
「なんだ・・・って」
ちょっとムッとしてみた。
だってあたしにとってすごーい問題だったんだから!
「亜理紗は従兄弟なんだよ。」
はい?
「従兄弟?」
「うん。でかけてたのは・・・」
先生、頭をかきながら照れくさそうに、
「モデルの仕事でな。」
「は?」
「通販雑誌のモデルやってるんだ。顔出てないけどな。」
「マジで?」
すごーい!
「みんなには内緒な。」
「うん・・・」
「だから、避けないでよ。なんも手につかない。」
あたしの右手をギュって握った。
今までの悩みなんてもうどっかいっちゃったよ。
先生が“好き”って言ってくれたからかな。
「花は?」
「へ?」
「もう、おれのこと嫌いになっちゃった?」
首を横に振った。
嫌いになんかなれなかったよ。
いつも先生が気になってた。
傷つくのが嫌で逃げてただけで。
「よかった。卒業までお預けな。」
先生はあたしのオデコにチュって軽くキスをした。
恥ずかしくてまともに先生の顔みれないよ!
「送ってくよ。」
先生があたしのチャリを押して、片手はあたしと。
「1つ、謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
「え?」
「掃除・・・ホントはしなくてよかったんだ。」
なんのこと?
「罰ゲームの掃除が決まった日、HRの後、電話あってさ。そちらの学生さんが、この駅で倒れた自転車を一緒に直してくれたって。花だってすぐわかったんだ、ホントなら無しにしてやんなきゃいけなかったんだけど。ごめん。」
「言い訳は無用だってわかってましたから。」
「花と二人で掃除できるって思ったら、無しにできなかった。正直、花が遅刻すんの楽しみにしていた。」
楽しみにしてくれてたんだ!
「先生として最悪。でも許す。」
あたしは笑いながら言った。
そうでなかったら、あたしは先生のこと“好き”になることなかったんだもんね。
「ホント最悪な担任だ。花は、絶対俺の周りに来る生徒の中にいることなかったからな。
話すチャンスがなかった。どうしたら花と話すことできんだろって。花を知ることができるんだろって。」
そういうの苦手だからね・・・。
先生ね、あたしがちゃんと大学に受かって卒業したらちゃんと付き合おうって。
そこんとこしっかり先生なんだから。
でも!
ちゃんと大学進学決めたもんねー♪
あたしにとって、あの体育祭からもっとクラスの子たちと仲良くなれて、学校生活が楽しくなったんだ!
相変わらず祐一たちとも絡んでます(笑)
卒業旅行もまぁこと沖縄行った!
そんで・・・
「かおり!早くしなさい!」
ママが玄関で叫んでいる。
「は〜い!」
きょうは卒業式です!
しっかり寝坊・・・。
空もお祝いしてくれている!
超〜快晴!
「花!こんな日まで遅刻か!」
先生にこっぴどく叱られ(笑
卒業式はとってもたいくつだった・・・。
校長先生の話し、相変わらず長い!
祝辞や答辞、卒業証書授与でしょ。
早く謝恩会とクラス会なんないかなぁ。
式が終わって校庭に出ると、後輩達が花道作ってくれてて。
嬉しくてここでようやく涙がでちゃった。
最後に大きな花束もくれて。
「みんなありがとう!これからも頑張ってね!」
一番泣いていたのがあたしだったという・・・(笑
謝恩会は、クラスで担任に送る歌を歌って、バイキングでご飯食べて。
一度解散して、クラスの子の親がやってる居酒屋でクラス会!
もちろんお酒はでないよ。
貸切で使わせてもらったんだ。
みんなで少しずつお金出し合って用意したプレゼントを渡したり、先生の言葉があって、
学級委員の挨拶、一人一人思い出とか話して自由に談話しながら飲み食いが始まった。
あたしはまぁことテーブルの男子とおしゃべりしながらくつろいでいると、
「花田、ちょっと・・・」
「何?」
呼ばれて座敷の隅に移動。
「あのさ、」
「うん」
「好きです!付き合ってください!」
聞きつけた子が騒ぎ出した。
ちょっと!
その男子は頭下げたまま手を差し出している。
「ちょっと待った!」
別の男子も参戦してきた。
えぇぇぇぇ〜?
「僕も、テニスしている花田に惚れました、お願いします!」
右に同じで手を出している。
「ちょっと、悪ふざけ?」
周りは冷やかすし、恥ずかしいから!
「ちょっとまったぁ〜!」
今度は誰?
せ・・・先生!
先生マジかよぉ〜!って笑いが起こった。
手をあげながらこっちにくる。
「おねがいします♪」
って、女口調で男子の手を握った。
しかも両方に。
周りは爆笑になった。
「先生、こいつはしんないけど俺真面目っすよ。」
一人がむくれると、
「俺もだよ!」
だって。
したら先生ね。
あたしも肩に手をまわして、
「ほう・・・・悪いな。でも、俺の女。手ぇだすなよ。」
って言ったもんだから!
店中がえぇぇぇぇーーーーーー?って大騒ぎ。
「いつから!」
誰かが聞くと、
「今から」
「は?」
「卒業したら交際予約済み。」
先生得意げにVサインした。
ずるーぃ!
とか口々にでたんだけど、一人の子が、
「先生偉い!」
って言って拍手し始めたら、みんなも一緒になって祝福してくれた。
まぁこが涙して喜んでくれたよ!
今日から堂々と、彼氏と彼女。
恋する勇気。
“好き”って言う勇気。
泣いたり・・・・笑ったり・・・・怒ったり・・・・
1歩1歩幸せの道を歩んで行こうね。




