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第2話

こうしてあたしの一人掃除当番が始まった。

一人で広い教室の掃除。

掃き掃除、床の雑巾がけ、黒板、机を並べ・・・


もういやぁ!

 

でもね、3日目の掃除中のこと。

 

「ごめん!遅くなった。」

 

朝霧先生が教室にやってきたの。

 

「何が?」

「いくらなんでも机とかまで一人でやらせるつもりはなかったよ。ただ、ここ二日間は手が離せなくて。ごめんな。」


先生が今までに見たことないような優しい顔してる。

でも、よく考えりゃ先生の顔ってこんな近くでまじまじ見たことないかも。

実年齢より若く見える先生の顔。

こんな優しい顔もするんだ。

先生ね、普段あんまり話す機会がないからって、いろいろお話してくれたの。

あたしの授業態度とか・・・なんか個人面談みたい。


「花は進路どうすんだ?」

「一応、進学ですけど。」

「花の成績ならある程度の大学なら大丈夫だろ。」

「ほんと?」

「遅刻さえなきゃ完璧!」


ですよねぇ・・・(汗)


「がんばります。」


あたしだってしたくてしてるわけじゃないんだよ・・・。


シュン・・


ポン。


先生あたしの頭に手を乗っけた。


トキン・・

トキン・・


何?今の。


「そう、ヘコむな!俺も起きれない一人だ。」


黒板を掃除し始めた。


「うそぉ?」

「あぁ。高校生の時、やっぱ一人で掃除当番やらされたよ。」


そうだったんだ。

あたしも変われるのかな。


「よしっ!終わり。」

「ありがとうございました。」

「はい、ご褒美。」


先生、カバンの中からパックのジュース取り出してあたしにくれたの。


「いいんですか!わーい。」


先生が微笑んで、


「また明日な。」


って言って教室を出ていった。


なんか先生思ったよりいい人!

知らなかった。

掃除の時間、案外いいかも♪



4日目の放課後。

また途中から先生が手伝いにきてくれたんだ。

床の雑巾がけしてるとき、前見てなくてそのまま壁に激突したんだよね。

 

「いったぁ〜」

 

頭をさすってると、人の気配がして見上げたの。

扉のとこで目が点になってる先生が立ってたの!

 

「見た?」

 

あたしが言うと、吹き出してゲラゲラ腹抱えて笑い始めた。


「見た!お前面白いなぁ!」

「一生懸命やってたの!笑わなくたっていいじゃん!」

 

あたしが顔真っ赤にして言うと、先生がしゃがんであたしの頭をナデナデ。

先生の大きな手があたしの頭をすっぽり覆いかぶさる。

 

トキン・・

トキン・・


まただ!

何これ!!

不整脈?


「そうだな。ごめん。」

「う、うん」


急に真面目に謝る。

なんか調子狂うな。


「花のテニスする姿、楽しみにしてんだ。」

「え〜!なんで?」

「壁に突進して雑巾がけするくらいだもんな、どんなプレイすんのかなって。」


うわぁ、むかつく。

先生、超―いじめっ子の顔して楽しそうに言うんだよ。


「びっくりするよ、あまりにかっこよくて。」

「そりゃ楽しみだ。」


先生が机を運びだした。

あたしも机を運んで並べた。


「今日は、机が終わったら帰っていいぞ。」

「え?いいの?」

「うん。思ったより綺麗にしてくれてるからな。明日もよろしく。」

「はぁ〜い。」


先生、実は優しい人だったんだ。

これが人気の理由か。

あたしだけ知らなかったのかな・・・。

なんか胃の辺りがぎゅぅ〜ってなる。


なんだろう?




「はぁ〜」

「はぁ〜って・・・かおり?」


ママが眉間にしわ寄せて言った。


「ん?」

「ご飯進んでないみたいだけど。」

「え?」


見ると、全然夕飯に手をつけてない。


「おいしくない?それとも具合でも悪い?」

「まさか!なんでもないよ!」


大食いのあたしがご飯に手をつけてないんじゃ、そりゃ心配するよね。


「そう?ならいいけど。心配事あるなら言いなさいね。」

「うん」


この家にはママとあたし二人だけなんだ。

パパが早くに病気で死んじゃって。

ママとは友達みたいな関係なんだよ!


「もしかして、好きな人できた?」


ママが目を輝かして言った。


「え?なんで!」

「ため息ばっかりついてるから。恋わずらいかと思ったの。」


“恋”


先生に恋?


「ねぇ、ママってパパのこと好きになる前、他にも好きな人っていたんだよね?」

「そうねぇ。初恋は小学生だったから、たくさん恋したわよ。」

「へぇ!その中に年上とか、先生とかいた?」

「かおり、やっぱり好きな人できたのね!」

「へ?いや!友達が・・・ね!」

「高校生のとき、担任の先生のこと好きになったわ。」

「ママも?」

「かおりも?」

「うん・・・あ・・・」


ママ微笑んでる。

あたし慌てて、


「でもね、まだわかんないの!好きなのかなんなのか。」

「そうなの?」

「だって、特にタイプじゃないし、掃除手伝ってもらっただけだし。」

「好きになるのに理由はいらないわ。」


あたしはママを見た。


「そんなもんじゃない?昨日までなんとも思ってなかった人なのに、なんかのきっかけで好きなるって。」

「そうなのかなぁ。」

「理想の恋と現実の恋は違うものよ。かおりから恋の話し聞けて嬉しいわ!」


ママは嬉しそうにお茶を飲んだ。



お部屋に戻って明日の準備を始めた。


“理想と現実は違う”かぁ・・・。


今まで先生と絡みがあるとしたら、“遅刻”のこと。

それ以外、この掃除当番がなかったら卒業まで先生と絡むことなかったんじゃないかな。

これが“きっかけ”。

恋って突然やってくるものなのね!


明日の時間割・・・

明日金曜日か。

はっ!

明日で掃除当番最終日じゃん。

明日で先生と掃除するの最後・・・。

今日が金曜だったらよかったのに!

遅刻した日が火曜だったらよかったのに!

はぁ〜。

このがっかりなキモチも“恋”してるからなの?


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