【第1話】《夢は叶った!?》 ―6―
「はあ! へぇ! ひえ!」
翌日……わたし達が普段住む居住区から《【HOP】管理管制室》までは歩いて30分ほどの場所にある。そこへ向かい、幾つもある《セキュリティー・ゲート》をわたしは認証されると同時に何度も走り通り抜け、時間ギリギリでどうにか間に合うことが出来た。
到着後、息切れをし「はぁはぁ!」とヨレヨレに自分の席に着くわたしを、上司の神垣ミヤ先輩がゆっくりと近づいて来て、それで叱る風でもなく。その目の前に淹れたてのコーヒーをそっと置いて、「おはよーさん」と落ち着いた様子で軽く挨拶をして来る。
「あ、おはようございます!!」
実は、あれから昨晩は三人で遅くまで付き合って遊んでいたので、寝坊をしてしまったのだ。
入所二日目にして、なんという不覚なのだろうか……。つくづく自分に呆れちゃうよ。
「それにしても意外に、随分とギリギリの時間に来る奴なんだなぁ~……お前って」
神垣ミヤ先輩は、ふと時計の方を見つめながらニヤニヤ顔で愉しげにそう言って来たのだ。
「もう少し、お堅い奴だとばかりに思っていたんだがなぁ……案外と気楽そうな奴で、安心したよ♪」
「あ、いえ、違いますっ! 普段は全然そんなコトありませんから!!」
「まあ~まあ~いいじゃないの♪ わたし的には、この位の方がやり易いんだし」
「よくなんか、ありませんよ!」
「まあ遅刻した訳じゃないから、別に良いって! そう気にするなよ♪ ハハ。
それよりもこれから朝会だ。今日はお前の紹介もあるから、早く来いよ」
「あ……はいっ!」
なんだか納得のいかない気分は残るけれど、何を言ったところで結果がこれでは言い訳にしかならないし。どう言った所で、今朝の件は、明らかに自分のミスだから何をどう言われても仕方がなかった……。
はぁ~……なんだか嫌になっちゃうよぅー。
普段は自分の目の前の仕事に集中する為、暗めに設定してある管制室内の照明が、朝会の時だけは明るく切り替えられ。一番奥の正面にある大型VRモニターの前にて、ここの責任者であるパトリック・オークナー管理室室長が挨拶を始めていた。
わたしにとっては、それら一つひとつの事が全て刺激的で合理的で納得だったが、どうやら他の人はそうでもないらしく。みんな何だか死んだマグロの様な目をして、どこか退屈そうに聞いている……。
その後、今回配属されたわたしを含む数名が並んで紹介され、わたしはその場で凄く緊張した。そうして、ここのみんなから拍手にて正式に迎えられたのだ。
そして最後に、ある唱和があったんだけど。それがわたしには、とても印象的に思えた。
《再び、AZ208便の様な惨事を二度と繰り返すな!》
AZ208便……確かそれは、もう八年も前のこと。
マリアナ宙亜航空社の亜・宙旅客機AZ208便が、《【HOP】チャリアビティーポリス》から《【HOP】ホウスパークンス》へと亜空間移動を行う際、システム上のトラブルにより《消息不明》となった事件……それが確か、AZ208便だった、と思う。
一部の噂では、《テロ》という噂も聞いているけれど。詳細については、未だ公式公表されていない。
当時、まだ8歳だったわたしは、そのニュースを見ていて悲しくなった。
自分が夢にまで見ていた【HOP】が、結果として社会的なバッシングを受けていたからだ。
しかし、幾ら批判をしてみた所で、この快適な移動手段に勝るものは未だに開発されていなかった。
その後、《【HOP】管制システム》は是正と対策を繰り返し、未だに当時の事件を忘れない努力を積み重ね続けていたのだということを、ここに来てわたしは初めて知ることになったのだ。
そして、あのいい加減だと思っていた上司である神垣ミヤ《F-IS監視技師》でさえも、その時の唱和の時だけはとても真剣で後悔に満ちたような複雑な表情を見せていたのである。
この時はまだ、上司の神垣ミヤ先輩があの事件に関係していた人物の一人だったなんて、まさか考えもしなかった。
そして……この日も。
「だから! ここも、《システム手順書マニュアル》を修正してくださいよ!」
───ゴンンッツツ☆!!
「い、痛いじゃないですかあー!! 昨日も言いましたけど、一々叩かないでくださいよー!」
「今朝は遅刻して来た分際で、颯爽と生意気言うからだ」
ち、ちこくって……!?
「遅刻なんかしてません!! ちゃんと始業前には居ましたー!」
───ゴンンッツツ☆!!
「ちょっ! だから、なんでそこで叩くんですかあー!?」
「『なんで』じゃない! 社会人として、『始業の5分前には、当然に来て』『始業のベルと共に、仕事を開始する』ってのは、と・う・ぜ・ん!(当然)の心構えだ。
ハルカ、お前は今日、始業の30秒前に来ていたよなぁ~?」
「う……」
そ……そこを突かれると、流石に言い返せないよぅ~。
「大体が、だ。『してください』ってなんだよ? そこは、『修正の方、よろしくお願いします』だろ!」
あ……言われてみると確かに、そうだったかも?
「……どうもすみません。じゃあ、その修正の方をよろしくお願いします」
「い・や・だ♪
土下座までしてくれたら、考えてやってもいいぞぉ~。ハルカちゃん♪」
「……うへ。じゃあー、もぅいいですよ……自分一人でやりますから」
この人に土下座までして修正なんて、やってらんないよー! そんなコトやる位なら我慢する。若しくは自分でやるから、もういいや『IR=IN』で、昨日その手順やルールも覚えていたし。全然、問題ないからいいよ、もぅー。
あとは、上長確認と承認だけお願いしたらいいんだし。それでも断られたら、総務のヘイコックさんにでもお願いする。だからもう、いいや。
───ゴンンッツツ☆!!
「い、痛いじゃないですかあー!! なんでそこで、叩くんですかあー?!」
「『土下座しないから』だ」
うえええええぇぇえぇええぇええぇぇぇ───!? ぬわっ、なによ、それーッ!?
「この厳しい今の世の中を生き抜く為には何よりも、先ずは《ジャンピング土下座!》これに限るんだよ!
それをこれからお前にキッチリと、『教育者後見人』として、わたしが責任持って伝授してやるよ♪」
じゃ……じゃんぴんぐ土下座、って……なによ、それっ!??
その後、何度もその《ジャンピング土下座!》ってのを半強制的にやらされて、もう泣きそうで悔しくって。そして、もう何度も頭をド突かれ過ぎて、頭がどうかなっちゃいそうだよぅ~……もぅ~イヤだぁあ~こんな上司なんかヤダぁあ~辞めたいよぅ~~大嫌いだぁああ~~~~!! ここ最悪だぁあああ~~~~!!!
《【HOP】管理管制室》勤務……これは、わたしにとっての夢だった。その夢は確かに『叶った』けれど、何だかどうにもこうにもどこか納得のいかない複雑な心境のハルカであった。
『クレイドル』 ―時空のハルカ―
《【第一話】 夢は叶った!?『完』》




