ある晴れた日
この作品は非常にわかりずらいです。
上を見上げれば、雲ひとつない空が少年の視界を蒼く染める。
正面からは太陽の日差しが頬を焼き尽くさんとばかりに、容赦なく照りつけている。それを阻止するものは何もなく、せめてもの抵抗か、風が体をなでつけるように一定のリズムを保って吹いている。
「あー、気持ちいいなぁ」
などと、率直な意見を述べる少年は背中を壁に擦りつけ、腰の位置を下にずらした。そして、ぼーっと、何の変化も見られない空を眺めていた。風もリズムを崩すことはなく、日差しも相変わらず強い。
少年はその動作以降全く動かなくなり、日光を反射して通常より余分に白い壁にアクセントをつけていた。
真昼間だというのに何の音もなく、変わり映えしないこの風景は、まるで一枚の写真のようだった。
そして、それは一人の少女によって動かされた。
どこからか現れた少女は、動かない少年に近づき簡潔に疑問を問いかける。
「あなたは何をしているの?」
少年は軽く顔を少女に向け、面倒くさそうに答える。よく見ると、顔がぼやけていて見えない。しかしそんなことは気にせず、
「さあ。君こそ、何をしているの?」
質問に対して質問で返し、考える時間を省く。そんな少年の適当な態度に少女は動じず、
「私は何もしていません。ただここにいるだけです」
と、これもまた適当に返す。
「……そう」
「あなたは」
簡単な会話が淡々と続く中、急に少女の言葉が途切れた。
そして少年をまじまじと見て、言いなおす。
「あなたはここにいてはいけません」
少女のぶっきらぼうの言い方に少しイライラして口論にでる。
「……どうして。僕はずっとここにいるよ」
「私は既に死んでいます。私は幽霊です」
全く会話が成立していなかった。意味のわからない言葉を連発する少女とこれ以上まともな話をするのは無理だと判断した少年は、「僕もだよ」と、言っておいた。
それから少年は座ったまま、少女は立ったままで、二枚目の写真となっていた。
そして、また少女が時を動かした。
「あなたはここにいてはいけません」
「……どうして」
先ほどの場面がリプレイされたような会話だった。少年はさすがにむっとした表情をつくったが、本当に面倒くさそうに、答える必要はないのだが律儀な少年は嫌々聞いた。
「あなたはまだ幽霊ではありません」
違う言葉が聞けて新鮮に感じていた少年が、(まだ……? 何のことだ)と思っていると、世界が暗転し、
いつの間にか少年は屋上の端にいた。気づけば少女と向き合う体勢になっている。
そして少女が手を伸ばした。少年の体は後ろに傾いていく。あっ、という声が少年の口から漏れ、伸ばしきった少女の腕の先は、しっかりと少年の右手を掴んでいた。
そして、そのまま少女と少年は体制を崩し、一緒に落ちていった。
少年が目を覚ました。
体は仰向けになっている。空は青く、大きな雲の塊がゆっくり流れている。
少し首を傾けると視野に校庭の木が一本映し出された。自分の頭上にあり、数本枝が折れている。
「夢……か」
そう言い、体を起こそうとしたが、動かなかった。所々に違和感が残っている。体が、景色が、この世界が。そんな違和感を無理やり押しのけて、首を最大限に右にひねってみた。
そして絶句した。
先ほどの少女が、自分のよく知っている少女が隣にいた。こちらも仰向けになっている。
頭の下敷きになっている雑草とコンクリートは、赤く染まっている。その赤は所々、乾いた部分だけどす黒くなっていた。
自分の周りには折れた枝が散乱していた。
「……」
少年は全てを悟り、目を閉じ、泣いた。
人のざわめきと救急車のサイレンが段々とうるさくなっていく中で、太陽の日差しだけは相変わらず強い。
今度は風も一緒になって、あふれる血と涙を乾かしていった。