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雨の日に始めよう(2)

 ばりっ。


「ぎゃああああああ!! 何すんの!!」

「うるせえ!! 何するはこっちのセリフだあああ!!」

 色気も何もない叫びに、俺の悲痛の叫びが重なる。

 そのまま二分割した紙片をさらに破る。ええい、こんな物はこうやってこうやってこうしてやる!!

 ただの紙くずになったそれを盛大にゴミ箱に放り込み、俺は背後で不満そうな顔をした彼女に向き合う。

「ひどい……。あれだけ書くのにどれだけ時間がかかったか…っ」

「ひどいはどっちだ! …てか、お前今のプリントアウトしたやつじゃねーか!! データ消してやるからそのノーパ寄越せ!!」

 危ない危ない、もう少しで誤魔化される所だったぜ。原稿を破棄されたかのような様子の演技に、もう少しで元原稿の存在を忘れる所だった。

 背後にあるノートパソコンを指さすと、ちっと舌打ちしやがった。

「冗談!! そう言われて渡せられる訳ないでしょ!?」

 まあ、しっかりロックかかってるから立ち上げた所で消したくても消せないんだがな……!!

 流石にハードごと破壊するほど俺も鬼じゃない。

 第一、パソコンも値下がりしてるにしたって安いものじゃないから気軽に弁償だって出来ないし、なんて事を何処か冷静に考えているから彼女に『策士』って言われるのか。

 だがしかし、世の中には許せる事と許せない事がある。

「俺言ったよな? どんなに煮詰まってもノンフィクションはやめろ、と」

 俺の言葉に、彼女はうっと顔を強張らせる。後ろめたい自覚はあるらしく、しょんぼりと項垂うなだれる。しかしすぐさま顔を上げるときっぱりと言い放った。

「うう…だって、だって…もう締め切り目の前なのよ!!」

 開き直るな。

 俺の彼女は小説家志望だ。いわゆる少女向け小説の作家を目指し、日々文章を追いかけている。それはいい。問題はそれに俺を巻き込む事だ。

「いいじゃない、ノンフィクションって言ったってシチュだけじゃん」

 唇を尖らせ、ぶーぶーと文句を垂れる。

 ああ、確かにそうだな。その言葉はあながち間違いじゃない。

 梅雨の雨が降る中、図書室に呼び出されて告白── という流れまでは実際にあった事だ。だが、しかし、内容を改変してるからってやっていい事と悪い事がある。

「なんでこの流れで、『実はあたし、男だけどいい?』って流れになるんだよ!!」

 お前いつからBL作家志望になりやがった。

「ええっ、そっちのが面白いじゃない! 障害のある恋ってロマン!!」

「あほか! そもそも展開に無理がありすぎるだろ!? いきなり性別の壁越えてどうすんだー!!」

 第一、なんで俺視点なんだ!

 俺にとってはそれなりにウツクシイ思い出をそういうネタにしないで欲しい。

 ちなみに実際との違いは他にもいろいろある。

 『付き合って欲しい』という言葉はストレートに『好きです』だったとか、実際は彼女の顔どころか名前までばっちり知っていたどころか、自分もずっと気になっていたとか。

 普通どころか、そこそこ可愛い、とか。

 ── まさかその告白が本気じゃなくて、『告白する側の心情を知る為』だったなんて思わなかったけどな!

 彼女は自分の書く小説にリアリティを追求する。その為には手段を選ばない。…そのお陰で、俺と彼女は今こうして一緒にいられる訳だが。

「うー、しょうがないなあ。相手は女の子のままでいくか……」

 なんでそんなに残念そうなんだ。

 というか、どうして毎回毎回、書いた小説を俺に読ませたがるかな。自慢にもならないけど、俺はそこまで国語の成績良くなかったし、読解力なんぞないんだけど。

 …なんて考えている事が伝わったのか、彼女がもそもそと近づいてきた。ぽすっと肩に頭を載せて、嬉しそうに笑う。

「…ちゃんと覚えてたんだ」

「は?」

「あれ読んで、あの時の事ってわかるとは思わなかった」

 ── 忘れる訳ないだろう。俺の純情を返せ的な、実に衝撃的な事だったというのに。その後、こんな風に付き合うようになるとはとても思えない始まりだった。

「今更言うけど、あれ…本気だったんだよ」

 何が。

 …なんて言ってやりたかったけど、残念ながら俺は思った事がすぐに顔に出る。

「ぷっ、耳まで赤いよ」

「う、うるさいな!!」

 本当に今更だ。なんで付き合いだして何年も経ってそんな事言うんだよ。ちくしょうめ。

「だってさ、いくら実際に体験しないとわからないって言っても…本当に好きじゃないと、流石に出来ないって」

 ああ、本当はわかってる。彼女が俺に読ませるのはいつだって恋物語。それが、この変わり者の彼女なりの『告白』なんだって事は。

「…知ってるよ。だから今、こうしているんだろ」

 気恥ずかしさを振り切るように彼女を睨みつけようとして── 俺はそのまま固まった。いつも飄々ひょうひょうとして、淡白な彼女の顔が俺以上に真っ赤になっていたのだから……。

 そっちこそ、と言うのは簡単だったけど、こんな珍しい姿を次にいつ見られるかわかったもんじゃないから。

 俺は黙って視線を戻した。彼女は肩に頭を預けたままじっとしている。

 今日も外は雨模様。始まった日を思い出させる、静かな雨音。その中に身を置くのは、今でも好きだけれども。

 でも今はそれよりもこうして彼女と二人で過ごす方が、ずっと好きになっているって事は── 墓の中にまで持って行く、俺だけの秘密。

二度目の企画参加作品です。

シチュ限定でいろんな作者が短篇を書くという趣旨が楽しそうで参加させてもらったのですが、いろいろあってろくにプロットも立てられずに実質一日で書くという羽目に…。

(1)だけアップしても良かったのですが、書きだした当初から(2)の設定がぼんやりあったので結局形にしてしまいました。

シチュを超える部分なので別ページにしましたが、規定違反かも(反省)

面白い企画を立ち上げて下さいました、そうじたかひろさまに感謝を。

憂鬱な季節、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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