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詰め合わせギフトパック  作者: たまさ。
おあそび企画
14/58

魔法使い。小話つめつめ(8)

「大変だよ、リトル・リィ!」

突然背後から抱き寄せられ、あたしは条件反射で肘鉄を繰り出した。

「ぐふっ」

「ああ、ごめん。いたの?」

「いや、いたよね。判ってたよね?」

「そんなことないわよー?」

棒読みですが、悪意は無いですよー。ほら、誰だって害虫を見たらスリッパを振りかざすでしょう? それと同じ。

「で、何がたいへん?」

「ううう、そんな貴女が大好きです。いや、うん大変なんだよ」

 気を取り直した男はぐっと拳を握りこんだ。

「本編のほうで【尊大な騎士~】がのってる」

「ああ、そうね。それのどこが大変なの?」

「ぼくらってば出番無いんだよ? 前編・後編で二週間もぼくの欲求不満がたまるっ」

「……」

「男っていうのはイロイロと溜まるものなんだよ。それでもって一定のサイクルでちゃんと出さないとだ――」

 

裏拳。

裏拳は痛いからもうイヤだって言ったのに! 


***


「【尊大な騎士といじっぱりな姫君】はマリーが二十一歳の話ってことは、現在から7年後ってことよね」

「そうだね」

 あら、顔いたそうですねー?

大丈夫ですかー?

顔面を軽く押さえながら心持ち一歩退いた変態は気をとりなおすように言った。

「でも7年後ってことは、その頃はぼくたちもきっと夫婦になって可愛い子供とかいるかもしれないね!」

「でもそんな話ちらっとも出てないわよ」

「そりゃ、本編とは関係が無いからはしょられたんだよ」

「もしかして神官長が代替わりしてるかも。もしかしてあたしは他の誰かと……」

 確かに神官長の話題とマリーの友人の話はちらっとだけ出ているけどねぇ。とあたしが冷たく言えば、変態はどんな涙腺をしているのかさめざめと泣き始めた。

「いいんだ。ぼく判ってる。そうやってぼくの心を傷つけてもてあそんでリドリーは快感を覚える性癖なんだ」

「違うわよっ!」

「大丈夫。ぼくちゃんと耐えられる。究極のMにだってなるよ」

「違いますってばっ」

「リドリーの為ならぼくは蝋燭だってムチだ――」


腹部の一発は本当に手馴れてますからね!

「あたしはSじゃないですからっ」

「……本気で言ってる?」 


***


「あー、もぉ我慢できない!」

一日中真面目に仕事していたかと思えば、突然発狂するように叫んだ神官長に、ルティアはいつも通りのぬるい眼差しを向けた。

「リトル・リィに触りたいぃぃ。匂いをかぎたいっ。舐めないと生きていけない」

「神官達が泣くようなことを叫ぶのは一人のときになさってくださいねー?」

「欠乏症だよ。リトル・リィが足りないっ。って、どうしてぼくってば仕事してるの? 意味判らない」

「――重症ですわねぇ」


「ああ、もういいや。行ってくる!」

「どちらに? なんて聞くのも野暮ですわねぇ?」


突然立ち上がる男に、ルティアは嘆息した。

「窓から眺めるだけでもちょっとは補給になるかもしれない。いやいやちょっと触ってもいいかな。きっと今頃寝てるから。舐めてもいいかもっ」

「知らぬ間に妊娠だけは止めてあげてくださいねぇ?」


「いやだな、それはつまらないよ! やっぱり意識があってこそだよねっ」


その会話を耳にいれなければいけない神官達が泣いてますよ? あなた達の後ろで必死にイロイロ耐えてますよ!


***


「馬車一台分の花! なんて素敵」

なんて言う女はまずいない。

しかも三日も続けばそれはある種嫌がらせの部類だろう。

「また届けないといけないんですか?」

王宮御用達といわれる花屋の配達職人だが、ここまでやる人物は珍しい。

贈り主は名前も伝えられていないが、それでも相当の財力と地位をもっていることは簡単に知れる。しかも届ける先ときたら貴族ではないのだ。


愛人か?


まったく特権階級のやることは判らない。

「エディ様、そろそろぉおやめになってはいかがですぅ?」

呆れたように侍女服の女が言う。

「花を喜ばぬ女はおらんだろ。公だとて花を届けよと言っていたではないかっ」

「――嫌がらせですわよねぇ? 男の嫉妬は見苦しいですわよぉ」

 侍女の言葉に騎士姿の男はぎゃんぎゃんと吠え立てた。


どうやらやっぱり嫌がらせだと知り、花屋は逆になんだか安堵した。

それにしたって、どういう嫌がらせだ?


***


「帰らないのか?」

 今日もルティアのもとに泊まろうと思っていたアマリージェに、アジスはじっと視線を向けた。

「わたくしはこちらに居ようと思いますけれど、アジスは戻ったほうがよろしいわ。お祖母さまが心配さるでしょうし」

「私は構いませんわよー? あちらに使いも出しますしぃ」

 お茶を飲んでいたルティアは微笑み、アジスの瞳を覗き込んだ。


「泊まるのでしたら部屋を用意しましょうねー? なんでしたらエルディバルト様の邸宅に部屋を用意してもよろしいですわよ?」

 しばらくは養父の家にいるつもりのルティアがそう提案すると、アマリージェは慌てて声をあげた。

「エルディバルト様のところは駄目ですっ」

「まぁ、でも男は男同士ですわぁ」

にっこりとルティアは言ったが――


「駄目なオトナがうつったら困ります!」


アマリージェの咄嗟の叫びはあまりにも正直すぎた。


***


「エディ様は駄目なオトナではありませんわぁ」

 ルティアは安心させるように若干十二歳の少年に微笑みかけた。

「ちょっと生まれが良くて、ちょっと偉そうで、ちょっと大きくて、ちょっとうざくて、ちょっと声が太くて、ちょっと女好きで、ちょっと思考回路が単純で、ちょっとご主人様が大好きな駄犬なだけですぅ」


「……どのへんがちょっとでどのへんがフォローなのか俺には判らないんだけど」

「ちょっと、というところがフォローですわよぉ。それがないと駄目人間ぽいのですぅ」

「ルティア様、ほんとーにエルディバルト様のこと好きなのか?」

 実は嫌いなんじゃないだろうかと弱冠十二歳は不安になった。


「ふふふ、完璧な人間なんて駄目ですわよぉ。これくらい人間が甘いから良いのですぅ」

「ヒトの趣味にとやかく言う俺が間違ってた」


アジス、ちょっとオトナになりました。


***


どくんっと心音が高鳴った。

中央階段の踊り場に置かれている巨大な姿見の前でドレスの裾をつまんで幾度もチェックしているアマリージェの姿に、アジスは一瞬見とれて、ついで苦い気持ちになった。


「あら、アジス」

「姫様、やけにめかしこんでるな」

 声音が、いつもと違っていませんように。

一生懸命押さえ込んでも、震えそうになる。


だというのに、相手は少しも気付いていないようにもう一度くるりと回った。

「どこかおかしなところはありません?」

「……ねぇんじゃないか?」

「もぉ、男はこういうことにうといからイヤですわ」


 気付けよ。

俺が動揺していることを。

俺が……傷ついていることを。


気付かれないように自分を抑えながら、気付いてくれないことに苛立つ矛盾。


「はじめての舞踏会ですもの。楽しみですわ」


――くそったれ!


なんなんだよ、ちきしょうっ。

十六歳のアマリージェ、十三歳の俺はいつまでたってもあんたの年齢を超えられない。


俺はいつからこんなガキ臭いヤツになっちまったんだろう。

昔のほうが絶対にオトナだった。

絶対に!


***


十六歳――陛下に拝謁をすませ、初めての舞踏会。

用意されたドレスはルティアが吟味してくれた最高級のドレス。絶対に似合うと太鼓判を押されたものの、それでも不安はぬぐえない。


どきどきする心臓を押さえ込み、階段の踊り場にある大鏡でくるりと回って自分の出来を確かめる。


大丈夫――今日もわたくしは美しい。


だって兄さまの妹ですもの。

麗しい兄さまとよく似た面立ち。わたくしはわたくしの価値を知っている。

だというのに、

「どこかおかしなところはございません?」


褒めて欲しいの。

おかしなところなんて無いでしょう?

わたくしは、あなたの目にもきちんと綺麗にうつっているでしょう?


「……ねぇんじゃねぇか?」


まったくがっかりさせられてしまう。


馬鹿ね。

――貴方がどう思うかが大事なのではないの。

これだからいつまでたっても子供でイヤ。

早くオトナになって――早く……なんて、馬鹿なのは、わたくし。


***


ぶえっくしょんっと突然でたくしゃみに、ルティアが顔を背けてハンカチを押し付けた。

「まぁ、風邪かしらぁ?」

「……」

「鼻かいでくださいませぇ。自慢の髭がなさけなーいことになりますわぁ」

 間の抜けた口調で言うものだから、ハンカチを受け取って鼻をふきつつ、ぶるりとエルディバルトは身を震わせた。


「どこかで噂されている気がする」

ぶすりと言えば、ルティアの瞳が面白そうに煌く。

「まぁ、エディ様ったら自意識過剰でらっしゃるわぁ」

「……」

「人より老けていらして髭面で無駄に偉くて意味不明に生まれの良い方の噂なんてだーれもしませんわ?」


***

ルティはエディ様大好きですぅ。


***


「エディ様の泣きそうな顔がとっても好物ですのよぉ」

幸せそうに小さな顔を両手で挟みこんで頬を染めるルティアを前に、アマリージェは率直に言った。

「……時々ルティア様はエルディバルト様の敵なのではないかと思いますわ」


「良いことに気付きましたわねぇ。 男と女の間はいつだって戦争なのですわぁ」

「……」

「男同士は宿敵と書いてトモと言い、男と女は宿敵と書いてアイというのですわぁ」


違うと思います。


***


「あまり世俗的なことは得意じゃないんだよ」

 淡い微笑を湛えて悠然と微笑む黒髪の青年はエルディバルトが示した報告書に視線を落としながら、もう片方の神経質そうな指先でこつこつとテーブルを叩いた。


「でもある特定の女性に対してはとてもあなた様とも思われない行動を見かけますが」

 世俗的というか、品性に問題が……

エルディバルトは控えめに進言してみたが、面前の主はにっこりと微笑んだ。

「ルティアに色々教えてもらってるからね」


「……それは絶対に駄目です。公、ルティアは悪い見本ですっ」

「しつれいですわぁぁ。私は良い教師ですのにぃ。男と女のことはエキスパートですわよぉ」


*ルティもエディもどっちも駄目な見本です。


***


 肩を落として溜息を落とす御領主様の様子にアジスは心配気に声を掛けた。

「御館さま? 何か……姫様と何か話していたようですけど」


十六歳という年齢が過ぎれば、領主の妹姫であるアマリージェと親しく会話を交わす頻度は明らかに減った。

 覚えることは多く、すべきことも多い。

聖都と主との間とを行き来しながら、それでも領主館に居を頂いて遠くからあの人を見ることはできた。


――窓辺に立つ姿を。東屋で休む姿を……


「見合いの話をね、また蹴られてしまった。今となっては自分のことよりもあの子のことが気がかりでしかたないよ」

ふっと、ジョルドは苦笑した。


「見合い……」

小さく口の中でその単語を転がして、自分の胸の痛みを無視しようと勤めた。

だが、それはとうてい無視などさせてはくれぬ。


騎士を目指せるのだと、その道を示してくれたヒト――

誰より綺麗で、誰より優しくて、誰より厳しくて、誰より……


ただ護ろう。

たとえいつか他の誰かのものになろうとも。

いつか、いつか、あなたの騎士に。


その思いと同時に湧き上がる。

――おまえなど要らぬと言って欲しい。

おまえのような騎士など要らぬと、捧げた剣をこの胸に深く突き刺して、優しい慈悲を与えて欲しい。


あなたの姿を、声を、最後に得られればそれは永遠。


*小話つめつめ7にも収録されていますが、忘れてましたが下のモノとセットであった為再録。


***


――もやもやと胸にある奇妙なモノ。

そんな気持ちはまやかし。

はかなく消える泡のようなもの。


優しい兄はわたくしを甘やかす。問答無用で誰にでもわたくしを贈りつける権限を持ちながら、兄は決してそんなことをしようとはしない。


わたくしはただそれに甘えながら、苛立ちをいつも抱えているだけ。

嫁に行くのはイヤだといいながら、そんな相手はイヤだといいながら、そんな言葉をねじ伏せて「嫁げ」と命じて欲しい。


年老いた男でも、下劣な男でも構わない。

「嫁げ」と命じてくれればそうする。

そうするから……


……手に入らないものを、求めるのは愚かしい。

愚かしいと理解しながら、見ないでいるふりもできない……だからどうか、兄さま。

わたくしはもう優しさなど求めていない。


あのヒトのいない世界にいかせて。


***


「最近のぼくってかっこよくない?」

 あー、背後に何か張り付いてますけどお気になさらず、リドリーです。

「ちゃんとお仕事だってしてるし」

 背後霊は除霊とか浄霊とかできないのかしらね。

成仏とか大歓迎なんですが。

「リトル・リィってば」

 ぎゅうぅぅっと圧し掛かってくる相手をあくまでも無視しながら、あたしはほっとしていることはナイショにしておく。


真面目なあんたなんて大嫌い――って、フドウトクなあんたがいいという訳では決してないですがねっ。


***


「また誰と話してたんだ?」

 アジスの言葉に、庭園から戻ったアマリージェは微笑んだ。

「庭師の方よ。花を頂きましたの。やはりあちらとこちらでは気候が少し違いますのね。花の種類も違いますわ」

「……庭師だとか騎士だとか、色々よってきて大変だよな、姫様は」

「男性は女性を心配なさるだけですわよ」


アマリージェは未だ社交界にデビューしていない。それを理由にして付添い人を連れ歩こうとしない為に他人は心配を示すのだ。

「この間だってどっかの貴族が声かけてたじゃないか」

 息子の妻にと請われた場面を思い出して顔をしかめるアジスだったが、アマリージェは微笑んだ。


「私面食いですから」

「……」

「――少なくとも兄さま以上、尊き人並みの男に嫁ぐ気はまったくありません」

 さばさばと言い切る相手に、アジスは沈黙で応えた。


いや、それはムリだろ。

「ああ、顔さえ良ければ性格は妥協しますわよ。わたくしそこまで強欲ではありませんもの」

「……」


妥協できるのはそこだけです!


***


 アマリージェ(10歳)はぎゅっと胸元で手を合わせて憧れの人に言ってみた。

「ルティア様、兄様のお嫁様になってくださいませっ」

 綺麗で可愛くて、時折やってきてはアマリージェと遊んでくれる姫君がアマリージェは大好きだった。

 だからそんな大好きなルティアになら、自分の大事な兄を任せられると願ったのだ。


「マリー、そんな失礼なことを言っては駄目だよ」

慌てたのはジェルドだった。

ルティアは少しも動揺しなかった。

身を屈めてアマリージェと視線を合わせてにっこりと笑う。

「ありがとうマリィ。ジェルドは嫌いではありませんわぁ」

「ならっ!」

「でも、たとえばジェルドは二つあるお饅頭の一つが毒入りだと、そつなく毒なしを食べてしまうでしょう?」

 諭すように言われたが、意味が判らなかった。


「50個ある饅頭の中からでもたった一つのハズレを引ける。そう言うおばかな男が好きなのですわぁ」


――ルティアの判断基準はある種難しい。

そしてこの時ジェルドは自分より運の無い男がいることに神様に感謝した。


***


のぞき厳禁! 痴漢撃退!

白い紙にばっちりと赤文字で記入し、がっちりと相手の額に貼り付けると、それをぺりりとはがして深い嘆息が返された。


「のぞいてないし、痴漢行為もしてないのに」

「どの口が言うか!」

「浴室の出入り口のとこにもいなかったし、そもそもリトル・リィが脱衣室に入ってきたんであって、ぼくは悪くないよ。

誓って言うけど、浴室はのぞいてないよ! 音だけでいろいろ想像したけどっ。そっちのほうが遥かに色々と――」

 

あたしは相手の紙を引ったくり、がしがしと文字を書き足した。


「変態滅べっ!」

「……うわー、字画おおいなぁ」




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