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詰め合わせギフトパック  作者: たまさ。
おあそび企画
12/58

にーちゃんと嫁2

『ここどこ? 私帰りますっ』

 ナーナは突然連れてこられた屋敷に戸惑っていた。

父親は顔を出さないということは、自分は売られてしまったに違いない。長女でもないナーナの扱いなどそんなものだと理解してはいたが、だからといって言葉も判らない異国の人間のアイジンになど突然なりたくなかった。


たとえ相手が綺麗な男でも。


『ひどいわっ』

 悲観して言う言葉に、クインザムは家人にナーナの部屋を用意するようにと告げて、上着を脱ぐと置かれている書棚から一冊の辞書を引き出した。

『ねぇ、私をどうする気?』

 ぱらぱらと辞書をめくりながら、クインザムは微笑を浮かべ、

「さて、どうしよう」

『女をお金でやりとりするなんて最低なことだと思わないの?』

「金銭授受は無かったよ。安心するといい。君は売り買いされてない」

『なに、何を言ってるの?』

「さて、何かいい単語は……ああ、あった」

 クインザムは指先で辞書の文字を追い、ある単語でとめると、ちょいちょいっと指先でナーナを招いた。


ナーナが眉を潜めてその手元を覗き込む。

『自由』

 ナーナはその単語をぎこちなく拾い上げ、不信な様子でそっとクインザムの顔を見た。

『自由、私――自由』

「そうだ」

『……つまり、じゃあっ、あなたが買い取ってあたしを自由にしたの? あたしを自由にしようって魂胆ねっ』

「いや、なんか微妙に違うんだが、いや、ちがく無いような……」


 ナーナはふと思い立ち、クインザムの手にある辞書を奪い、同じようにぱらぱらとめくってみた。

言葉が通じないというのはもう本当に厄介だ。

そして何より、ナーナの国では識字率も低い。

自国の言葉だろうと、単語一つ抜き出すのはたいへんな作業だ。

かろうじて判る単語から『イヤ』を抜き出すと、ずいっとクインザムに示して見せた。


トントンっと示す。


クインザムはその単語をじっと見つめ、ついでナーナの顔を見た。


トントンっともう一度文字を示す。


「愛してる」

「アイ、シテ、ル?」


 異国の言葉は言いづらい。

うんうんとうなずき、ナーナはぱたりと辞書を閉ざした。


「クイン、アイ、シテ、ル!」


よし、はっきり言ってやったわ!

『判った?』

誇らしげに言うと、クインは「うっ」と小さく呻いて横を向き、小刻みに肩を震わせたかと思うとがばりとナーナの両肩を引っつかみ、するりとそのベールを落とした。


「ああ、もう、なんていうか可愛い」


 そのまま首筋に顔をうずめてくる男にわたわたと慌てながら逃れようとしたが、クインザムは一向に気にするそぶりを見せずにナーナの腰を引き寄せた。

『な、何するのっ』

「何しようかな」

『私の国では、男に肌を見せたら駄目なのよっ』

「うちの国でもだいたいそんな感じだよ」

『結婚できなくなるっ』

「私の妻になればいい」

『アイジンはイヤっ』

 さすがに愛人では無いと言ってあげようかと思ったものだが、勘違いさせておくのも面白い。

 クインザムは一旦突き進む手を止めたがすぐに再開した。


 異国の衣装は一枚布を巻きつける形で、それをとくのはもどかしい。

差し込んだ手が地肌に到達すると、しっとりとしたその肌触りと共にナーナが涙声でやめて欲しいと訴えてくる。

「ナーナ、欲しいと言って」

『なに? 何なのっ?』

「欲しい」

「……ホシ、イ?」

 大きな瞳に涙粒を浮かべてたどたどしく呟かれた言葉に、クインザムは笑みを浮かべた。


「欲しい?」

「ホシイ」

 ナーナは自分の上にのしかかる男が繰り返す言葉を『止めて欲しい?』という確認なのだと捉えた。

 暴れる娘を前に、さすがに理解を示してくれたのだろうと。

だから相手の言葉を、嬉しそうに繰り返して見せた。


「クイン、欲しい、アイ、シテル」

――クインザム、ヤメテ、イヤ!   


***


「ナーナ、クイン、アイ、シ、テル」

必死に訴えるナーナに、ルディエラは、


「もぉ、判ったってば。ナーナは本当にクイン好きだよね」

と、あてられたようにはたはたと指先で顔をあおいだ。


『人の体を好き勝手するあんな人嫌いなのっ』


一生懸命訴えていますが、なかなか理解は得られません。


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