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詰め合わせギフトパック  作者: たまさ。
おあそび企画
10/58

人生相談

「まずはじめに言いたい」

 キリシュエータは口元を引きつらせ、冷たい瞳で面前のマイクを睨みつけた。


「どうして私が他人の人生相談など聞かなければいけない!」

「まぁま、殿下。色々と考察した結果、まともな人が居なかったんです」

 どうどうっと馬でも抑えるように彼の副官であるティナンは苦笑した。

「なんでしたらぼくがしてもいいんですが」

「……おまえは駄目だろ。人間的に欠陥がある」

 びしりと付きつけられたティナンは壁になついた。


「人生相談を受けるならそれなりに人間として厚みがあるほうがいいのではないか?」

まだぶつぶつと言うキリシュエータ。

彼は若干往生際が悪い。

「じゃ、ぼくが!」

はいっと元気よく手をあげた明るい髪のルディエラを、キリシュエータは冷たい一瞥で押さえ込んだ。

「黙れにんじん。おまえは人間としての厚みも胸の厚みも無い」

「何わけの判らないこと言うんですかっ!」

「じゃ、じゃあ私が致しましょうか?」

 おそるおそる手をあげたのは、ナシュリー・ヘイワーズ中尉だった。


咄嗟にキリシュエータは「いや、胸の厚みがあればいいという話では――いや、すまない。忘れてくれ」出てしまった失言に詫びを入れ、溜息をついた。

「なんでしたらうちの長男を呼んで参りましょうか?」

ティナンがふと思い立ち言えば、ルディエラも嬉しそうに瞳をきらきらと輝かせる。

「クイン兄さまなら適任!」

「呼ぶな! 私はあいつが苦手なんだ――表面上にこやかに応対するくせに、絶対にあいつは私を敬っていない! 内心で激しくこき下ろしているに違いないんだ」


何か激しいトラウマでもありそうです。


「いい。判った。私が聞く」


「とういうことで、キリシュエータ殿下の人生相談のコーナーです」

「ティナン、私が人生につまづいているような説明はいらない。おまえ達は出て行け」

 しっしとその場の人間を追い出し、もう幾度目かの深い溜息を吐き出してキリシュエータはばしりと机を叩いた。


「相談者、前へ」

 まるで謁見のように横柄さだった。


退場!


***


「……それで私ですか」

 某侯爵嫡男の子爵家に仕える執事、クレオールは慇懃に呟き、指定された席についた。

「クレオなら立派にお仕事をこなせますわよ」

「ありがとうございます。奥様」

「だってクレオは優しくて何でも知っていて素敵ですもの」

 心からの称賛の言葉にクレオールの目元が和む。

それを冷たい目で見つめながら、彼の主であるところのヴァルファムは冷ややかな調子で言った。

「私が引き受けてもいいのですがね」

「あら、ヴァルファム様は駄目ですわ」

 あっさりと彼の義母、ファティナは言った。

「だってヴァルファム様は他人の悩みを聞きながら怒りそうなのですもの」


ぐうの音も出ない事実だった。


「……義母うえには何か悩みがあおりですか?」

「私の悩みは。義息がおこりんぼうで時々ちょっと困ります。ほんのちょっとのお散歩も駄目なんて酷いと思いませんか? まるでわたくしがちいさな子供みたいに。それに最近ちょっと義息がナマイキです! もう少しお義母さんを敬ったほうがいいとおもいますわっ」

 ラスト辺りにあまりにも熱が入ってしまったファティナに、ヴァルファムは口の端に笑みを浮かべて腕を組んだ。

「第一に、私を怒らせているのは義母うえの阿呆な行動や発言です。私に問題はありません。あなたを散歩に出すなどとんでもないですね。どこの道端で野垂れるか判ったものではない。私がナマイキ? そんなことはありませんよ。私は十分に義母うえを敬っている」

 きっぱりと言い切るが、腕を組んで威圧的に義母を見下ろすその姿をみれば明らかに敬っているというのは嘘くさい。


 クレオールは額にそっと手を当てたい気持ちになりながら、

「人生相談に行ってきますので、お二人は仲良くしていて下さい」

思わずそう口にしていたが、現在下らない舌戦を繰り広げている二人が聞いてくれていたかはどうも不明だった。


***


「どうぞ」

 クレオールは穏やかな調子で来客を迎え入れた。

「はじめまして」

 通された男は、クレオールと同年代かそれ以上に見えたが、実際は年下だったりするロイズ・ロック。

 警備隊の隊服に、腰には拳銃を吊り下げた相手は、親しげにクレオールに手を差し出したが、クレオールはそれを受けはせずにただ席を示した。


「それで、どのような相談ですか?」

「いや、初対面の貴方に言うようなことでもないんですが」

――じゃあお帰り下さい。

 内心で思ったところでそれを口にしたりはしない。クレオールの外面はいつも、いつでも爽やかです!

「うちの猫が……」

「猫が?」

「時々喋るんじゃないかとか……実は中身が魔女じゃないかとか、いや判ってるんですよ。ただの希望とか妄想だっていうのは。判ってるんだが――」


 クレオールはしばらくじっとロイズ・ロックが一人でわたわたとしているのを見ていたが、やがて胸のポケットからピルケースを取り出し、中身を幾つか取り出してにっこりと相手の手に落とし込んだ。

「過労にはお気をつけ下さい」

「いや、あの……」


「では次の人!」


***


「うわっ」

 クレオールは突然自分の面前に現れた真っ白い猫に声をあげ、ついでその猫が女性の姿に変化したことに胸元に手を当てて動揺を鎮めた。


「その猫耳は……オプションですか?」

「悪かったわね! 気を抜くと出っ放しなのよっ。あたしだって好きで猫耳つけてるわけじゃないのよっ」

 ばさりと自らの髪を後ろに跳ね上げ、魔女ブランマージュは足を組んで空中に座るようにして浮いた。


「あたしはブランマージュ、悪い魔女よ」

「悪い魔女? 何か人を呪い殺したり毒薬を作ったりするんですか?」

 素で問い返したクレオールだが、相手は機嫌を損ねたのか顔をしかめた。


「なんで呪い殺したりすんのよ? 魔女は非力な人間を守るのよ? 毒薬?そんなもの作って何か楽しいの?」

 じゃあ何してるんですか?

問いかけようかと思ったが、懸命なるクレオールは止めておいた。


「で、あなたはどうしてここに?」

 穏やかに問いかけると、途端に猫耳が伏せた。


「あたしの中に猫がいるのよ」

「……いや、中といわず外にも出ていらっしゃるようですが」

「うるさい! この猫耳と尻尾のことはもうほっときなさいよっ」

がうっと噛み付き、けれどすぐにブランマージュは肩を落とした。


「とにかく。あたしの中に猫がいるの。それで分離しなくちゃいけない訳なんだけど! やりかたが難しいのよっ」

 失敗したら色々危なそうだし。

と切々と語られたところで、執事であるクレオールといえど、魔女の生態などわからない。

「魔女の研究者とかに助力を仰いでみては?」

「――それ、もうとっくにした」

「役に立ちませんでしたか?」

「現在進行形で研究対象になってるけど……最近怖いのは、体内で猫の体を再構築して体外に取り出す方法とやらを考え付いたみたいなんだけど、うっかりしてると実践しようとするのよ」

 あの野郎っ。と拳を握り締めるブランマージュに、クレオールは「何か問題ですか?」と問いかけた。


「問題は大ありよっ! ようはあたしが妊娠出産してみればいいっていうのよっ。

信じられる? 魔女なのよ、あたし? しかも、妊娠出産って、一人でできるもんじゃないでしょっ」

「はぁ……」

「あのぼけなすの子供なんて生みたいものかぁっ! 悪魔類鬼畜目なのよっ。てか、あのボケは猫の子でいいのか自分の子がっ」


 なんだかやたらややこしい話になり、意味がつかめず困惑したクレオールの前で部屋の扉が無遠慮に開き、黒髪の青年が顔を出した。

「ブラン、こんなところで油を売るな。研究時間が減る」

「今日は休みって言ったでしょーがっ」

 言いながら、突然魔女は白い猫へと変化した。

途端に青年の黒灰の瞳が陰り、口元に皮肉な笑みを刻みつける。


「そうやっていつまでも猫の姿で逃げていられると思う程愚かではあるまいに」

「さすがに猫は襲えないもんねー」

「人を変態扱いするな」


 猫をつまみあげてさっさと退場する相手を見送り、クレオールは無意識に自分のポケットを撫でた。


 なんだろう、煙草吸いたい……――


***


「あの、いいですか?」

そっと【人生相談】の扉をたたいた少女の姿に、クレオールは表情を改めた。

――どうでもいいです。

 と内心では思っているが、とりあえず仕事であれば完璧にこなす自信はある。金銭の発生する仕事とは思えないが、少なくとも最後には彼の女主の労いの一つの言葉くらいは受け取ることができるだろう。


クレオール、時々ちょっと安い男。


「どうぞ」

「はじめまして、リドリー・ナフサートと言います」

 ぺこりと頭をさげた相手は十代の後半辺りと思われる「そのへんにいそうな庶民」的な雰囲気をかもしまくった少女だ。

 リドリーは示された椅子に座り、どう口を開こうかと思案している様子がほのぼのしい。クレオールは先ほどまでの疲れを飛ばし、

「何か相談ごとがおありですか?」

と、やんわりと促した。


「相談というか――あの……」

 リドリーは視線をさまよわせ、けれど意を決するようにやっと口を開いた。

「好きな人が、いるんです」

 思わずクレオール自身照れてしまいそうになった。


リドリーは膝の上においた手をもそもそと組み合わせたりつまんだりしながら「好きな人がいるんですけど」と続ける。

 なんか可愛い――クレオールが笑いたいような気持ちに浸っていると、彼女は言った。


「変態なんです」

「……」

「相手が変態なんです。で、相談というのはですね。明らかに頭のおかしい変態を好きというのはあたしも変態なんじゃないかという大きな問題に直面してしまったのです!」


あたしは変態でしょうか?


と、半泣きの顔で訴えられてしまったクレオールは鎮痛な気持ちになり、一瞬言葉を詰まらせた。

「変態というのにも種類があると思いますし……もしかしたら、貴女が思う程相手の方は変態ではないかもしれませんよ? 思い込みじゃないですか?」

 それを言うならクレオールのもう一人の主、ヴァルファムも変態と言えなくも無い。

だが、ヴァルファムを好きだから自分も変態という方程式は成り立ちそうには無い。

 思いのままに告げれば、けれどリドリー・ナフサートは少しばかり納得仕切れない様子で眉根を潜めた。


「そうでしょうか?」

「そうですよ」

「……変態じゃないのかな?」

「そうですよ。きっとあなたの強い思い込みです」


 リドリーは益々眉を潜めてぶつぶつと口の中で繰り返したが、やがて息をついて「そうかもしれませんね」と無理やり納得した様子で立ち上がり、ぺこりと頭をさげた。

「ありがとうございました」

「いえ。その相手の方とどうぞお幸せに」

 クレオールが見送ると、リドリーは更に眉間に皺を寄せまくっていたが、そのまま退出した。


***


がんがんっと扉がたたかれ、入室を促すとひょこりと顔を出したのは黒髪の少女だった。

耳の左右で三つ編みを編み、それをぐるりと後ろに引っ張って結わえてある。

 灰黒の透明感のある瞳は光の角度で透明な青灰にも見える。

恐ろしく綺麗になりそうな少女だが、生憎とまだ十二・三という年齢だろう。未だ幼さばかりが目立つ。


「ちょっと聞いてくれる?」

 と、少女は言いながら断りもえずにさっさと席についた。

「あたしはファウリー・メイ――未来の大召喚魔導師よ」

 魔女だとか魔導師だとか……クレオールはそっと吐息を落としたものの、相手に先を促した。


「何か相談が?」

「相談がなければこんな場所にはいないわよ」

 高飛車な物言いにクレオールはびきりと眉間に一瞬皺を刻み込んだ。


小生意気な子供は大の苦手だ。

やはり子供は素直で愛らしいのが一番。

彼の女主のように。


世界は女主を中心に巡っているクレオールは一生独身だろう、おそらく。


「隣のレイシェンをぎゃふんといわせたいんだけど、いかんせん十歳も年齢が違うものだからなかなかうまくいかないの。何かいい方法はない?」

 しかし相手が真剣な様子で可愛らしいことをいうものだから、クレオールは苦笑を浮かべた。

「そういうことは建設的ではありませんよ。もっと人生を楽しまなければ」

「あたしだってね、いつまでもレイシェンにかかずらってなんかいられないのよ。なんといってもあたしは未来の大召喚魔導師なんだから。でもレイシェンってばあたしが嫌がってるのに何にでも首を突っ込むんだもん。ここは一つぎゃふんって言わせてもうあたしのことに口出ししないようにさせたいの!」

 ぐぐっと拳を握り締めるその様子は――微笑ましいといえなくも無い。

「少し距離をとってみては?」

「できればそうしてるわよ! レイシェンは隣に住んでるし、レイシェンの職場は学園の隣だし、毎日毎日あたしの髪を結い上げるしっ。口やかましいし、すぐぱぱにチクるし」

 口にすればするほど憎しみがつのるのか、ぐぐっとファウリーはその拳をふるふると震わせ、声を高くした。


「あたしは忙しいの。召喚士としての勉強だってあるし……それに」

 ふっとファウリーは声を潜めた。

「……人を探しているの」

「人?」

 落とされた声音の響きに、クレオールが問いかけるとファウリーは戸惑うようにその瞳を揺らした。

「あたしと同じ、黒髪に黒い瞳の人。一度だけ会ったの。あたしの国にはこういった色彩が無いから、できればもう一度……会いたい」


 切なそうな言い方に、クレオールはファウリーの瞳に合わせるように身を沈めた。

「願って叶えられないことなどありませんよ。貴女はまだお若い。何事もゆっくりとでいいのです。でも、他人に向けるマイナスの感情はあなたにとって良いものではありません。どうぞ、ぎゃふんとさせるなどといわずに健やかに日々をお過ごしなさい。他人を妬んだり、嫌ったりなどという心にまみれて日々を無駄に過ごすなんてもったいのないことです」


穏やかに諭す言葉に、ファウリーはその透明な眼差しでじっとクレオールを見つめ、やがて溜息を吐き出した。


「大人ってすぐにそういうキレイゴトを言うのよね」

「――」


子供なんて嫌いだ。

クレオールは思わず胸元でぐっと拳を握り締め、引きつった微笑を浮かべながら自らの女主を思い浮かべて自身の平穏を求めた。


***


「すみません、よろしいでしょうか?」

控えめなノックと共に入室したのは、色素の薄い青銀かと思わせる金髪の持ち主。長い髪の一筋を後ろに結わえた騎士姿の青年は、物事も柔らかに一礼した。


騎士団所属のどこかの誰かとは違う穏やかな空気の持ち主は、クレオールに一つうなずきかけるようにして名乗った。

「ティナンと申します。王宮騎士、第三騎士団所属の現在は騎士団長として第三王子殿下キリシュエータ様の副官として勤めております」


――国が違うと物腰も違う。

クレオールは内心でヴァルファムに爪の垢を煎じて飲ませてしまいたい気持ちになった。後で実際に爪の垢をいただき、こっそりヴァルファムの茶に入れてしまおうか。

時々普通にこんなことも考えているクレオールだった。


「それで、どのようなご相談でしょうか」

 気をよくしたクレオールがやんわりとうながすと相手は躊躇するように一旦開きかけた口を閉ざし、唇を湿らせる。

その様子に、クレオールは安心させるように言葉を重ねた。


「ご安心下さい。受けた相談をよそにもらすなことはありませんから」

 守秘義務とかではなくて、まったく興味ありませんから。


「そうですか」

 ティナンは小さく確認するように言葉にし、こくりと喉を上下させて視線をあげた。


「イモウトが可愛すぎるんです」


――うちは奥様が可愛いですよ。

最近ちょっと大人びてしまって実に寂しい限りです。

「もぉ本当に可愛くて。お兄ちゃんは毎日心配なんです。世の中には悪い男が山といるというのに、あの子ときたら男ばかりのところで生活しているんです。もしあの子に何かあったらと思うとお兄ちゃんは気が気じゃありません」

「ああ、兄妹愛はとても素晴らしいですね」

「そうなんです。これは兄妹愛なんです。純粋な――だというのに、殿下ときたらぼくの思いを邪推するんです。まったく、ご自身の心が汚れているからといってぼくの心まで汚れているように言うのは間違いです。そう思いませんか?」


「そうですね」

というか、その殿下とやらはこの男性の主ではあるまいか。

自分の主を悪く言うのは良くない。

――普段からヴァルファムに対しては心の中で色々と思ってはいたりするが、クレオールは外見上、表面上いつでも完璧な執事です。


「そう、そうですよね? ぼくはいつだって純粋にルディエラのことを思っているのです。誰かに虐められてやいないか、誰かに泣かされてやいないかと」


実際問題毎日虐めているのも、泣かせているのもティナンであるが、クレオールは勿論そんなことは感知していません。 

「ぼくはですね。他に誰かにあの子が虐められたり泣かされたりなんて我慢できないんです」

 力説するティナンに、なんだかちょっぴり疲れを覚えるクレオール。

「でもあの子もお年頃です。そのうちに恋人ができたなんてお兄ちゃんに紹介しようとするかもしれないじゃないですか」

「ああ、そういうこともあるかもしれませんね」

「でも、それを想像するとぼくはとても辛いんです。だって恋人って、キ……キスとか、してしまう訳でしょう?」


何故その年齢でキスで照れるのか。

言葉をどもらせた挙句に頬を染めるのはやめて頂きたい。


「キスなんてっ、そんな破廉恥なことは兄として許せない訳ですよ!」

「まぁ、それは確かに兄として許せないこともあるかもしれませんね」

「そうなんです。ぼくは兄としてそこは許してはいけないと思う訳です」

 なんて面倒くさい兄。

ちょっとクレオールが呆れていると、ティナンはまるで賛同者を得たとばかりに力強くうなずいた。

「可愛いルディの唇をどっかの馬の骨に奪われるくらいであれば、兄としてぼくが奪ってしまったほうがルディだって安心だと思うんです」


「――その兄としての使い方は間違ってます」


というか、認識とかもう諸々全てにおいて駄目だ。

とりあえず「守秘義務」云々よりこれはどこかに通報したほうが良いだろうか。クレオールはにこやかにさくっとそんなことを考えてみた。


爪の垢を煎じて飲ませる?

さらにタチが悪くなるので却下。


***


「ああ、今の方で最後ですね」

 予定されていた相手が全て終わったことにやれやれと呟いたクレオールだが、実質人生相談として何も解決していないことは気付いていた。


どうでもいい――


という理念で彼は他人の行動など気にしない。

片付けをしてしまおうと思ったクレオールの面前に、一人の青年が立っていた。

阿呆な魔術師のような格好で。


「……」

思わず言葉を失うクレオールに、相手は頭に乗せてあるトップハットをひょいっとつまみあげて礼をした。


「こんにちは」

「……こんにちは。えっと、あなたは?」

「さっきリトル・リィ、リドリー・ナフサートが来てたでしょ? どんな相談だったか教えてくれる? ぼくのこと言っていた? ぼくが好きすぎて困ってなかった? ぼくのことならぼくに相談してくれればいいのにね?」


 ではコレが彼女曰くの変態か?

クレオールは眉間にちょっとばかり皺が寄るのを感じた。

変態というか、変人?


「ついでにぼくの相談も聞く?

あのね、ぼくってばリトル・リィの為なら三日三晩励める自信があったんだけど、一晩で三回続けてすると実際は結構体力的に色々大変だということに気付いたんだよ! ちょっとインターバルが欲しいし、三日続けてってちょっときっつい。ぼくも年かな? それにね、自分で仕方なくすますのと愛するハニーをせっせと抱きながらするのとは色々と違う訳でしょ?

 一回づつちゃあんとリトル・リィだって気持ちよくなって欲しいし。やっぱり鳴かせたいっていうかさ、わかるかなー」


だらだらと相談なのかよく判らない戯言を実に楽しそうに吐き出し続ける男を前に、クレオールは内心で呻いた。


「今まで気付かなかったけど、一つ一つの反応が凄く胸にクルよね。必死に我慢しているのに喉の奥からそれでも漏れちゃう声とか、眉間に寄せた皺とか! あ、次は目隠しとかどうかなー。ぼくの友人が目隠しされると不安と期待で凄い感覚がイイって言うんだけど、お兄さんはどう思う?」


――変態というのは思い込み。


思い、込み……?

 

クレオールは瞳を伏せてとりあえずこの仕事は自分には向かないことを悟った。

少し前に不安そうにしていた少女を思い出し、ちらりと彼女に「すみません」という気持ちを一瞬だけ思い描いてみたものの、今はただ――


自分の女主人とまったりとお茶がしたい、自分の為に。 





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