Scene 2:同郷からの招待状
森に静寂が戻る。
三つの死体からは、異様な熱気と、何かが焼け焦げたような刺激臭が立ち昇っていた。
それは、酷使された魔導回路が焼き切れた臭いにも似ていた。
「……さて、中身を拝見させてもらいましょうか」
スカーレットは膝をつき、リーダー格だった男の衣服を裂いた。
胸部には、皮膚に直接埋め込まれたような、幾何学模様の刺青――いや、人工的な魔導回路が走っている。
その回路は過負荷により黒く炭化していたが、スカーレットは自身の魔力を細い針のように変え、残留する魔力痕跡を慎重にトレースした。
(……複雑ね。この世界の魔導技術体系とは根本的に設計思想が違う)
彼女の脳内で、劉玄雲の人格が興味深げに唸った。
『面白いなぁ。この演算式、明らかにこの世界の魔法論理ではないな』
スカーレットの視界に、劉の知識を通して解析された回路図が浮かび上がる。
そこには、条件分岐、ループ処理、そして並列化といった、魔術というよりは「数式」に近いロジックが組まれていた。
『俺の前世の演算が使われている。それも、かなり高度に最適化されたやつだ』
(……やっぱり。敵は「あちら側」の知識を使っているのね)
スカーレットは確信を深める。
魔法的な証拠は揃った。次は、物理的な証拠だ。
彼女は遺体から目を離し、戦闘中に閃いた思いに意識を向けた。
「……あの構え」
彼女は脳裏で、先程の戦闘を再生する。
男たちが最初に見せた、剣の切っ先を喉元へ向ける正眼の構え。
そして、踏み込みの際の重心移動。
あれは、この世界の騎士や傭兵が使う剣術ではない。
(肘の角度、足の開き幅……あれは教科書通りの【柳方流剣術】の『型』だ)
スカーレット(劉玄雲)の記憶にある、扶桑国の道場で学んだ基礎動作そのものだった。
偶然の一致? あり得ない。
骨格も筋肉の付き方も違う異世界人が、何千回もの試行錯誤の末にたどり着く「理」を、三人が三人とも同じ形で再現するなど、天文学的な確率だ。
つまり、これは「発明」されたものではない。
誰かがこの世界に持ち込み、彼らに「教育」したのだ。
(北方の貴族で、これだけの技術力を持ち、柳方流を知る者……)
答えは一つしかない。
バルカス公爵家。
かつて「北の賢公」と呼ばれながら、近年急速に軍備を増強し、王家への敵対姿勢を隠さなくなっている最大の懸念材料。
「私への刺客というよりは、『邪魔な石ころを掃除するついで』といったところか」
スカーレットは冷ややかな推測を立てる。
だが、彼女の思考を真に刺激したのは、政治的な黒幕の正体よりも、その背後にいる個人の存在だった。
(私と同じ転生者が、敵側にいる)
その事実は、復讐者としての彼女に、新たな感情を芽生えさせた。
警戒心。そして、武人としての昂ぶり。
この世界で唯一、自分と対等に渡り合えるかもしれない「同郷」の人間。
「……なるほど。これは暗殺ではないわね」
スカーレットは口元を歪め、獰猛に笑った。
死体を見下ろし、見えない敵に向かって返答する。
「わざわざ同郷の剣技を見せつけてくるとは。……随分と熱烈な**『招待状』**じゃないか」
メッセージは受け取った。
お前も転生者か、と。
ならば答えに行かねばなるまい。
スカーレットは燃え上がるような紅い髪を払い、北へと足を向けた。
逃げるためではない。
その「招待主」の喉元へ、お返しの刃を突き立てるために。
狙いは定まった。
目指すはバルカス公爵領、その本拠地。
虎の尾を踏みに行くのではない。虎そのものを狩りに行くのだ。




