Scene 7:悪意の覚醒
スカーレットは、迫りくる無数の刃の中で、心底がっかりしたような顔をしていた。
「それが、お前の奥の手か?」
「な……に?」
「稚拙だな」
スカーレットの瞳が、冷たく光った。
「脳の領域を分割し、思考を並列化させる?
……その程度のこと、俺が考えていないと思ったか?
お前のように魔力で無理やりブーストするような雑な設計じゃ、すぐに熱暴走するのは当たり前だろう?」
瞬間。
スカーレットの剣速が跳ね上がった。
いや、速くなったのではない。「処理」が変わったのだ。
彼女もまた、日常的に行っていた【思考領域A】と【思考領域B(劉)】の並列処理を、戦闘用に完全同期させたのだ。
「他人をなめるのも大概にした方がいいな」
ガガガガガガッ!!
バルカスの「多次元攻撃」が、全て撃ち落とされた。
無理な並列処理で動きが雑になったバルカスに対し、洗練されたスカーレットのカウンターが炸裂する。
「が、あ、あぁぁぁ……ッ!?」
剣を弾き飛ばされ、両腕の関節を極められ、地面に叩きつけられる。
完全なる敗北。
バルカスは仰向けに倒れ、虚ろな目で天井を見上げた。
(負ける……? この私が……システムが……バグに……?)
彼の意識が薄れかけた、その時だった。
『――使えない器だ』
バルカスの口から、バルカスではない「誰か」の声が響いた。
低い、地獄の底から響くようなノイズ混じりの声。
「……!」
スカーレットが反射的に飛び退く。
倒れていたバルカスの体が、糸で釣られるように不自然に起き上がった。
その瞳から「知性」の光が消え、代わりに漆黒の闇が満ちていく。
『だが、ここで潰えるには惜しい。……そして、目の前の貴様』
バルカス(だったもの)が、スカーレットを指差す。
『貴様は危険だ。私の計画にとって、最大の障害となる』
周囲の空気が一変した。
空中庭園のガラスが震え、美しい薔薇が一瞬で枯れ果てる。
それは、武術や科学といった理屈を超えた、純粋なる「呪い」の気配。
【悪意の真実】。
かつて王家が封印した災厄が、宿主の敗北を悟り、その体を乗っ取って表層へと浮上したのだ。
「……なるほど。ここからが本当の『化け物退治』というわけか」
スカーレットは剣を構え直す。
その顔には、先程までの余裕はない。
だが、武人としての笑みは、より一層深く刻まれていた。
「いいだろう。ロジックの次はオカルトか。……まとめて灰にしてやる」




