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救いのない世界  作者: Fall44


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第8章 : 侵入の代償

 サーバールームは、機械の低い唸りと冷気に満ちていた。

 整然と並ぶ黒いラックが無表情に立ち並び、その一つ一つが犯罪組織の“心臓”のようだった。


「クレハ、データ端末を接続する」


『了解。君の位置、問題なし。

 ……それじゃあ“吸い上げ”を開始しようか』


 ゼロは渡された小型端末をサーバー基部に差し込む。

 直後、画面に赤いバーが走り始めた。


進行率 6%──12%──18%


 数字が増えるごとに、ゼロの胸の奥で緊張が締め付ける。


 その時。


 “カツン……カツン……”


 規則的な靴音が、廊下の方から近づいてきた。


「……巡回が早い」


『予定より二分前倒しだね。どうする?逃げてもいいよ?』


「やると言っただろ」


 ゼロは声を殺し、部屋の照明を落とした。

 暗闇に溶け込むように棚の影に身を滑らせる。


 扉が開く。

 懐中電灯の白い光が室内を舐め回すように動いた。


 男が、一歩、また一歩と踏み入ってくる。


進行率 51%


「……間に合えよ」


 手汗がじわりと滲む。

 中園直属の警護に見つかれば、問答無用で射殺されるだろう。


 男の靴底が床を叩く音が近づく。


65%


 呼吸さえ敵だ。

 静かに、肺の奥に押し込むように息を止め──。


 そのとき。

 端末がわずかに電子音を漏らした。


 “ピッ”


 警備員の懐中電灯が一瞬でゼロの隠れる方向へ向く。


「……誰だ?」


 銃を構える音。


70%


『ゼロ、そろそろ判断を──』


「まだだ」


 警備員の足がさらに近づき──

 影が重なった瞬間、ゼロは床を蹴った。


 無音の飛び出し。

 訓練場で叩き込まれた“初撃の感覚”が体を貫く。


 手刀が警備員の首筋に吸い込まれるように走り、

 男は短い息を漏らして倒れた。


 受け止めるように抱きかかえ、床に静かに寝かせる。


 銃声を一発でも鳴らせば終わる。

 だからゼロの指先は震えていなかった。


98%──100%


『……完了。やったね、ゼロ』


「よし、撤収する」


 端末を抜き、倒れた警備員を避けて扉へ向かう。


 しかし──。


『ゼロ、止まって』


「?」 


 クレハの声がいつになく低い。


『上層階のカメラ、死角のはずなのに……“動いてる”』


「誰か来るのか?」


『来るのは──巡回じゃない。

 “中園本人”だよ』


 胸に冷たいものが走る。


 標的を殺す任務ではない。

 だが、奴に見つかれば計画が破綻するだけじゃ済まない。


 復讐の“線”が、断ち切られる。


「……リュウガは?」


『外で待機中。呼べば動くけど……

 中園は臆病な男じゃない。“武装してる”よ』


「俺は逃げるつもりはない」


『ゼロ……?』


「ここまで来て、ただ逃げろって?

 復讐の相手の“顔”を、この目で確かめずに帰るのか?」


 静かな怒りが声を震わせる。


 廊下の奥、重い足音が響いた。


 ゆっくりと──確実に近づいてくる。


『……いいよ。君が選んだ道だ』


 クレハの声が諦めでも止めるでもなく、ただ“観察”に戻る。


『じゃあ、ゼロ。

 初めての“本物”との対面だ』


 ゼロは息を整え、扉に背中を預ける。


 その向こうに──

 家族を奪った“組織”に繋がる男がいる。


 復讐の火は、もう消えない。


「……来いよ」


 ゼロは、ゆっくりとナイフを握り直した。

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