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救いのない世界  作者: Fall44


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第7章 : 初任務

 薄暗い作戦準備室に、冷たい電子音が響いていた。

 壁一面のモニターには都市の地図、出入り口、巡回ルート、死角が赤く表示されている。


 主人公──ゼロは、その中央で静かに立っていた。


「さて、初任務だよ、ゼロ」


 クレハがタブレットを操作しながら振り返る。

 いつもの柔らかい笑み。しかし目の奥は冷たい観測者のままだ。


「標的は“九条グループ”の幹部の一人。

 君の家族を殺した連中の“枝のひとつ”だと思っていい」


 その言葉に、ゼロの胸奥で何かがひとつ、低く燃えた。


「……やっと、一歩か」


「そう。一歩。ただし足を滑らせたら死ぬよ」


 クレハは軽く指を弾く。

 直後、部屋の奥の扉が開き、影のような男が歩み出てきた。


 無駄のない筋肉、硬い表情。

 訓練で何度もゼロを床に叩きつけた男──リュウガだ。


「現場には俺も行く。死ぬなよ、ゼロ」


 その声はいつも通り低く、感情がほとんどない。

 だが……ほんのわずかに、興味のようなものが混じっていた。


「作戦内容を説明するね」


 クレハが画面を切り替える。


 標的の名は「中園修一」。

 九条グループ傘下で資金洗浄を行う裏会計士。

 犯罪組織を支える上で欠かせない“根”のひとつ。


「直接殺すのか?」


「違うよ。今日は“仕事”としての初任務。復讐はその先」


 クレハの指先がマップの一点を示す。


「ターゲットのデータルームに潜入して、

 彼が管理している資金の流れ──九条グループの“血液”を奪う。

 これができれば、君の復讐の糸口は一気に広がる」


「……わかった」


「潜入ルートはここ。

 巡回の隙は七十秒。逃げ道は二つ。

 どちらを選んでもいいけど、選んだ瞬間に運命が変わるよ」


 クレハはそう言って、ゼロの胸に軽く指を当てた。


「君はもう“普通の人間”じゃない。

 選択は常に、生と死の境目だと思って」


 ゼロは静かに息を吸った。

 恐怖は……もうなかった。

 代わりに胸の底を満たしているのは、冷たい決意。


「……やる。必ず成功させる」


「いいね、その目」


 クレハが満足そうに頷く。


「じゃあ、ゼロ。出発だ」


 


 夜の街は風が冷たく、ネオンが濡れたアスファルトを照らしている。


 ゼロはフードを深く被り、ビルの影を滑るように進む。

 耳のインカムから、クレハの軽い声が届いた。


『心拍、安定してるね。君は本当に面白いよ』


「お前は楽しんでるだろ……」


『もちろん』


 軽口を叩いている間にも、ゼロの体は無駄なく動く。

 リュウガとの訓練で叩き込まれた動きが、すでに“自分のもの”になり始めていた。


 指定地点へ到着すると、リュウガが影から現れた。


「時間だ。行くぞ」


「ああ」


 二人は、音もなく建物の裏口へ滑り込んだ。


 七十秒。

 それが今夜、ゼロを生かす時間。


 薄暗い廊下。

 監視カメラの死角。

 巡回の靴音が響く。


 ゼロは息を殺し、一気にサーバールームへ。


 そして──扉のロックを外した瞬間、胸の奥に“熱”が走る。


 復讐の道が、確実に開かれていく“感触”。


「クレハ、侵入成功」


『さすがだよ、ゼロ。じゃあ……始めようか?』


 静かに、しかし確実に。

 ゼロは“殺しの世界”の第一歩を踏み込んだ。


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