第7章 : 初任務
薄暗い作戦準備室に、冷たい電子音が響いていた。
壁一面のモニターには都市の地図、出入り口、巡回ルート、死角が赤く表示されている。
主人公──ゼロは、その中央で静かに立っていた。
「さて、初任務だよ、ゼロ」
クレハがタブレットを操作しながら振り返る。
いつもの柔らかい笑み。しかし目の奥は冷たい観測者のままだ。
「標的は“九条グループ”の幹部の一人。
君の家族を殺した連中の“枝のひとつ”だと思っていい」
その言葉に、ゼロの胸奥で何かがひとつ、低く燃えた。
「……やっと、一歩か」
「そう。一歩。ただし足を滑らせたら死ぬよ」
クレハは軽く指を弾く。
直後、部屋の奥の扉が開き、影のような男が歩み出てきた。
無駄のない筋肉、硬い表情。
訓練で何度もゼロを床に叩きつけた男──リュウガだ。
「現場には俺も行く。死ぬなよ、ゼロ」
その声はいつも通り低く、感情がほとんどない。
だが……ほんのわずかに、興味のようなものが混じっていた。
「作戦内容を説明するね」
クレハが画面を切り替える。
標的の名は「中園修一」。
九条グループ傘下で資金洗浄を行う裏会計士。
犯罪組織を支える上で欠かせない“根”のひとつ。
「直接殺すのか?」
「違うよ。今日は“仕事”としての初任務。復讐はその先」
クレハの指先がマップの一点を示す。
「ターゲットのデータルームに潜入して、
彼が管理している資金の流れ──九条グループの“血液”を奪う。
これができれば、君の復讐の糸口は一気に広がる」
「……わかった」
「潜入ルートはここ。
巡回の隙は七十秒。逃げ道は二つ。
どちらを選んでもいいけど、選んだ瞬間に運命が変わるよ」
クレハはそう言って、ゼロの胸に軽く指を当てた。
「君はもう“普通の人間”じゃない。
選択は常に、生と死の境目だと思って」
ゼロは静かに息を吸った。
恐怖は……もうなかった。
代わりに胸の底を満たしているのは、冷たい決意。
「……やる。必ず成功させる」
「いいね、その目」
クレハが満足そうに頷く。
「じゃあ、ゼロ。出発だ」
夜の街は風が冷たく、ネオンが濡れたアスファルトを照らしている。
ゼロはフードを深く被り、ビルの影を滑るように進む。
耳のインカムから、クレハの軽い声が届いた。
『心拍、安定してるね。君は本当に面白いよ』
「お前は楽しんでるだろ……」
『もちろん』
軽口を叩いている間にも、ゼロの体は無駄なく動く。
リュウガとの訓練で叩き込まれた動きが、すでに“自分のもの”になり始めていた。
指定地点へ到着すると、リュウガが影から現れた。
「時間だ。行くぞ」
「ああ」
二人は、音もなく建物の裏口へ滑り込んだ。
七十秒。
それが今夜、ゼロを生かす時間。
薄暗い廊下。
監視カメラの死角。
巡回の靴音が響く。
ゼロは息を殺し、一気にサーバールームへ。
そして──扉のロックを外した瞬間、胸の奥に“熱”が走る。
復讐の道が、確実に開かれていく“感触”。
「クレハ、侵入成功」
『さすがだよ、ゼロ。じゃあ……始めようか?』
静かに、しかし確実に。
ゼロは“殺しの世界”の第一歩を踏み込んだ。




