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救いのない世界  作者: Fall44


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16/16

エピローグ : 灰と静寂のあとで

 翌朝のニュースは、中園の死を一切報じなかった。

 昨夜、ヘリポートで倒れた彼の身体は、夜鴉の清掃班によって無言で運び出され、記録から削除された。


 その処理の早さは、まるで最初から“いなかった人間”を片づけるかのようだった。


 風に散った血も、割れた床も、戦いの跡すら数時間で跡形もなく消えた。

 空には薄い雲が流れ、世界は何事もなく朝を迎えていた。


 そして──

 ビルの屋上に、魁はひとり座り込んでいた。


 手はまだ震えている。

 指の隙間には、中園の最後の温度が残っていた。


(……全部終わった……はずなのに)


 胸の奥は、ひどく静かだった。

 勝利の実感も、復讐の達成感もない。


「失うばかりだな……俺の人生は」


 自嘲気味に呟いた声は風に消えた。


 遠くでサイレンが鳴る。

 街は今日も息をしている。

 誰も、昨夜の戦いを知らない。


 中園が消えても、彼が率いていた影の組織はすぐに別の者が座るだろう。

 巨大な闇は、形を変えて続いていく。


 魁が殺した“黒幕”など、所詮ひとりに過ぎない。


 すべてを終わらせたつもりでも、世界は変わらない。

 まるで最初から彼の復讐など、世界にとってどうでもいい出来事だったかのように。


 背後で足音がした。


「……みつけた」


 振り返らずともわかった。

 クレハの声だ。


 彼女は魁の隣に腰を下ろし、しばらく黙っていた。

 責めるでもなく、慰めるでもなく、ただ同じ空気を吸っている。


「……終わったね」


「終わったよ」


「なのに、そんな顔で座ってるんだ?」


「どういう顔に見える?」


「そうだね……

 “やっと戻ってきたのに、帰る場所がなくなってる顔”」


 魁は苦笑した。それは否定できない。


「……俺は、何を取り戻したかったんだろうな」


「家族?」


「違う。

 復讐だって、違ったみたいだ」


 クレハは少しだけ考えるように空を見上げた。


「ねぇ、魁。

 あんた、ゼロって名前どう思う?」


「……ゼロ?」


「全部失って、何も残ってない状態。

 でも逆に言えば、そこから何でも作り直せるってこと」


「……作り直す、か」


「そう。

 復讐も終わった。

 家族はもう戻らない。

 じゃあ次は……自分を作ればいい」


 魁はゆっくりと目を閉じた。


 ゼロ──

 何もない場所。


 そこには絶望もあるが、同時に始まりもある。


 昨夜の戦いで、魁は確かに“すべてを失った”。

 けれど、同時に中園の手を離れ、誰のものでもない自由な「無」に立っている。


 それは復讐よりもずっと重い事実だった。


「……クレハ」


「ん?」


「俺は……これからどう生きればいい?」


 クレハは小さく笑った。

 いつもの、少し意地悪で、でも温かい笑い方で。


「知らないよ。

 魁が決めなよ。

 ゼロから何を積み上げるかなんて、あたしでもわかんない」


 風が吹き、空気が少しだけ暖かくなる。


 魁はゆっくりと立ち上がる。


 復讐は終わった。

 闇も、怒りも、血も、一度ここで置いていく。


 失ったものは戻らない。

 だが、何もない場所からなら進める。


 ゼロからなら──やり直せる。


「……行くか、クレハ」


「うん。帰ろ。

 あんたの“これから”を始める場所に」


 二人は屋上を後にした。


 誰にも知られずに散った血も、燃え尽きた復讐も、

 世界のどこかの底で、微かな灰のように沈んでいく。


 そして魁の物語は、静かにゼロへ還り、

 新しい名前を探すために再び歩き始めた。

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