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救いのない世界  作者: Fall44


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第13章 : 再会と断罪

 夜空の下、ヘリポートは異様な静けさに包まれていた。


 風が吹くたび、鉄製の床が低く唸り、雨の残り滴が光を反射する。

 その中央に、ゼロと中園が向かい合って立つ。


 動くものは、二人の呼吸と、はためくコートだけ。


 中園がひとつ、靴音を鳴らして近づいた。


「カイ。

 ──よくここまで来たね。

 期待以上だよ」


 ゼロは答えない。

 ただ無言で、血に濡れた指をぎゅっと握りしめた。


「君の家族が死んだ、あの夜──覚えているかい?」


 その言葉に、ゼロの内側で黒い何かが震えた。


「……当たり前だ。忘れるわけがない」


「そう。あれは“計画通り”だった。

 君が覚醒し、こちら側へ歩くための──最初のトリガーだ」


 ゼロの視界が揺らぐ。

 怒りではない。

 その“理解”に身体が拒絶反応を起こしている。


「……計画……? 俺の家族を殺したのは……」


「あぁ、私だよ」


 あまりにも軽く言われた。


 その瞬間、ゼロの世界から音が消えた。

 胸の奥に穴が開き、そこから激しい冷気が噴き出した。


「ようやく“核心”にたどり着いたね。

 君は最終的に、私の後継者となるはずだった」


「…………俺が……?」


「そうだ。

 怒りに燃え、復讐を糧に、倫理も過去も捨てて強くなった。

 “ゼロ”という名は、君が生まれ変わるために私が与えたもの」


 クレハが通信越しに震えた声を発する。


『嘘よ……そんなの……そんなの、許されるわけ……!』


「許される?

 ふふ……クレハ。君も優秀だったが、所詮は“余剰の駒”だよ」


 ゼロは前へ踏み出す。


「……じゃあ……俺の人生は……全部、お前の都合で……?」


「あぁ、そうだ。

 そして──」


 中園は静かに腕を広げ、夜空を背に笑った。


「君は私が作った“最高傑作”だよ、カイ」


 その一言で、何かが切れた。


「…………黙れ」


 ゼロの声は、凍えるほどに低かった。


「俺の家族は──“道具”じゃない」


「道具だよ。君を研ぐための刃にすぎない」


「黙れ……!」


「無価値な人生だった。だが、君を作った功績は称えよう」


「──黙れッ!!」


 その叫びと同時に、ゼロは地を蹴った。

 瞬間、風が爆ぜる。


 中園は余裕の表情で身体をずらす。

 ゼロの刃がわずかに空を切る。


「速くなった。だがまだ軽い」


 中園の肘が、ゼロの腹にめり込んだ。


「っ……!」


 胃の中が逆流し、膝が折れそうになる。

 だがゼロは歯を食いしばり、再び踏み込んだ。


 切り上げ。

 突き。

 回転蹴り。


 中園はすべてを紙一重で躱す。

 まるで未来が見えているような無駄のない動き。


「いいね。それでこそ私の作品だ」


「作品じゃねぇ……!」


 呼吸が荒れ、肺が焼ける。

 視界が赤く滲む。


 それでもゼロは攻撃を止めない。


 中園が乾いた溜息を吐く。


「仕方ない。そろそろ終わらせよう」


 次の瞬間。

 中園の動きが変わった。


 重い。


 一撃ごとに、骨を砕くような殺意が込められている。

 ゼロは防御に回るのが精一杯だった。


 胸、肩、脇腹──次々に拳がめり込む。


「ぐ……ぁ……ッ!」


 膝が崩れ、ゼロは片膝をつく。


 中園が見下ろした。


「終わりだよ。

 君は“ゼロ”のまま死ね」


 精密に狙いを定めた蹴りが、ゼロの首へ向けて振り下ろされる。


 そのとき──


『ゼロッ!!』


 通信越しのクレハの叫びが頭を揺らした。


 意識の闇に沈みかけていたゼロの中で、何かが一筋、光る。


(……俺は……)


(本当にここで終わるのか?)


(家族が……この結末を望むか?)


 拳を握る。


 血まみれの手が震え、床に落ちそうになる。


(復讐だけが、生きる理由じゃない……)


(あいつは言った……俺の“名前”を教えてほしいって……)


(だったら──)


 ゼロは顔を上げた。


 瞳の奥に、炎のような光が灯る。


「俺は……ゼロじゃない……!」


 振り下ろされる中園の脚を、ゼロは片手で受け止めた。


 骨が軋む。皮膚が裂ける。


 それでも腕は折れない。


「俺の名前は──カイだッ!!」


 怒号とともに、ゼロ──いや、魁は中園の脚を払いのけ、全身を燃やすように立ち上がった。


 中園の表情が、初めて揺らいだ。


「……それでいい。ようやく“壊れた殻”から出たね。

 さぁ──本当の戦いを始めようか」


 ヘリポートに、ふたつの影が再びぶつかり合う。


 復讐と罪。

 過去と未来。

 創造主と、その反逆者。


 刃と拳がぶつかる音が、夜空に火花のように散り続けた。


 断罪の時は、すぐそこだった。

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