第13章 : 再会と断罪
夜空の下、ヘリポートは異様な静けさに包まれていた。
風が吹くたび、鉄製の床が低く唸り、雨の残り滴が光を反射する。
その中央に、ゼロと中園が向かい合って立つ。
動くものは、二人の呼吸と、はためくコートだけ。
中園がひとつ、靴音を鳴らして近づいた。
「カイ。
──よくここまで来たね。
期待以上だよ」
ゼロは答えない。
ただ無言で、血に濡れた指をぎゅっと握りしめた。
「君の家族が死んだ、あの夜──覚えているかい?」
その言葉に、ゼロの内側で黒い何かが震えた。
「……当たり前だ。忘れるわけがない」
「そう。あれは“計画通り”だった。
君が覚醒し、こちら側へ歩くための──最初のトリガーだ」
ゼロの視界が揺らぐ。
怒りではない。
その“理解”に身体が拒絶反応を起こしている。
「……計画……? 俺の家族を殺したのは……」
「あぁ、私だよ」
あまりにも軽く言われた。
その瞬間、ゼロの世界から音が消えた。
胸の奥に穴が開き、そこから激しい冷気が噴き出した。
「ようやく“核心”にたどり着いたね。
君は最終的に、私の後継者となるはずだった」
「…………俺が……?」
「そうだ。
怒りに燃え、復讐を糧に、倫理も過去も捨てて強くなった。
“ゼロ”という名は、君が生まれ変わるために私が与えたもの」
クレハが通信越しに震えた声を発する。
『嘘よ……そんなの……そんなの、許されるわけ……!』
「許される?
ふふ……クレハ。君も優秀だったが、所詮は“余剰の駒”だよ」
ゼロは前へ踏み出す。
「……じゃあ……俺の人生は……全部、お前の都合で……?」
「あぁ、そうだ。
そして──」
中園は静かに腕を広げ、夜空を背に笑った。
「君は私が作った“最高傑作”だよ、カイ」
その一言で、何かが切れた。
「…………黙れ」
ゼロの声は、凍えるほどに低かった。
「俺の家族は──“道具”じゃない」
「道具だよ。君を研ぐための刃にすぎない」
「黙れ……!」
「無価値な人生だった。だが、君を作った功績は称えよう」
「──黙れッ!!」
その叫びと同時に、ゼロは地を蹴った。
瞬間、風が爆ぜる。
中園は余裕の表情で身体をずらす。
ゼロの刃がわずかに空を切る。
「速くなった。だがまだ軽い」
中園の肘が、ゼロの腹にめり込んだ。
「っ……!」
胃の中が逆流し、膝が折れそうになる。
だがゼロは歯を食いしばり、再び踏み込んだ。
切り上げ。
突き。
回転蹴り。
中園はすべてを紙一重で躱す。
まるで未来が見えているような無駄のない動き。
「いいね。それでこそ私の作品だ」
「作品じゃねぇ……!」
呼吸が荒れ、肺が焼ける。
視界が赤く滲む。
それでもゼロは攻撃を止めない。
中園が乾いた溜息を吐く。
「仕方ない。そろそろ終わらせよう」
次の瞬間。
中園の動きが変わった。
重い。
一撃ごとに、骨を砕くような殺意が込められている。
ゼロは防御に回るのが精一杯だった。
胸、肩、脇腹──次々に拳がめり込む。
「ぐ……ぁ……ッ!」
膝が崩れ、ゼロは片膝をつく。
中園が見下ろした。
「終わりだよ。
君は“ゼロ”のまま死ね」
精密に狙いを定めた蹴りが、ゼロの首へ向けて振り下ろされる。
そのとき──
『ゼロッ!!』
通信越しのクレハの叫びが頭を揺らした。
意識の闇に沈みかけていたゼロの中で、何かが一筋、光る。
(……俺は……)
(本当にここで終わるのか?)
(家族が……この結末を望むか?)
拳を握る。
血まみれの手が震え、床に落ちそうになる。
(復讐だけが、生きる理由じゃない……)
(あいつは言った……俺の“名前”を教えてほしいって……)
(だったら──)
ゼロは顔を上げた。
瞳の奥に、炎のような光が灯る。
「俺は……ゼロじゃない……!」
振り下ろされる中園の脚を、ゼロは片手で受け止めた。
骨が軋む。皮膚が裂ける。
それでも腕は折れない。
「俺の名前は──魁だッ!!」
怒号とともに、ゼロ──いや、魁は中園の脚を払いのけ、全身を燃やすように立ち上がった。
中園の表情が、初めて揺らいだ。
「……それでいい。ようやく“壊れた殻”から出たね。
さぁ──本当の戦いを始めようか」
ヘリポートに、ふたつの影が再びぶつかり合う。
復讐と罪。
過去と未来。
創造主と、その反逆者。
刃と拳がぶつかる音が、夜空に火花のように散り続けた。
断罪の時は、すぐそこだった。




