表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いのない世界  作者: Fall44


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

第11章 : 天頂(てんちょう)

 階段を駆け上がるたびに、骨がきしむ。

 肺が潰れそうな痛みで悲鳴を上げているのが自分でも分かる。


 だがゼロは止まらなかった。


 ──ここで止まれば終わる。

 ──中園は絶対に逃がせない。


 その二つだけが、血の味にまみれた意識をつなぎ止めていた。


『ゼロ、右だ! そこの非常扉を開けて!』


 クレハの指示に従い、ゼロは肩で扉を押し開けた。


 ——瞬間。


 耳をつんざく銃声が廊下一面に響き渡った。


「……ッ!!」


 ゼロは即座に横へ飛び込み、壁に背中をぶつける。

 目の前を、何発もの弾丸が赤い閃光を引いて通過していった。


 煙の中から、黒い防弾装備の男たちが姿を現す。

 その人数は五人以上。


 先頭の男が銃口を向けながら叫んだ。


「目標確認! 生かす必要はない! 撃て!」


 銃火の音が廊下を満たす。

 ゼロは床を滑り、破壊された柱の影に飛び込んだ。


 頭上でコンクリートが弾け、破片が顔に当たる。


『敵は中園直属の“灰翼はいよく部隊”……!

 ゼロ、正面突破は無理! 引いて別ルートを――』


「……いや、行く」


『は!?』


「ここを突破しなきゃ……中園には届かない」


 ゼロの声に、迷いはなかった。


 ——自分でも驚くほどに。


 体はボロボロだ。

 血は流れ続け、呼吸は乱れ、視界は時折ノイズが走る。


 それでも、足は勝手に前を向いていた。


 その時だった。


 左腰のホルスターが、何かの重さを訴えた。


 ──中園の部下から奪った、残弾3発のハンドガン。


 ゼロはゆっくり息を吸い、呼吸を整える。

 銃声が雨のように降り注ぐ中で、静かに立ち上がった。


 クレハの声が震えていた。


『ゼロ……まさか正面から……いくつもりじゃ……』


「もう……逃げる気はない」


 ゼロは柱の影から飛び出した。


 ——同時に。


 世界が、異様なほど“ゆっくり”になった。


 銃口が自分に向く瞬間。

 敵の引き金にかかる指の動き。

 弾丸が火花を散らしながら飛び出す軌跡。


 一秒にも満たない動作が、まるで数秒に引き伸ばされたかのように見える。


(……やれる)


 ゼロは床を蹴った。


 世界が一気に加速する。


 弾丸を避け、敵の死角に滑り込む。

 一瞬の隙を突いて、ゼロは反撃を開始した。


 パンッ──!


 一発。

 先頭の兵士のヘルメットの脇を撃ち抜き、首がのけぞる。


 二発目。

 すぐ隣の兵士の肩を貫き、銃を落とさせる。


 最後の一発は、突進してきた敵の膝を正確に撃ち抜いた。


 たった三発。

 だがそれだけで、五人の隊列が瞬時に崩れる。


「な……っ!?」


「バケモノか──!」


 驚愕の声があがる。


 ゼロは表情一つ変えず、前へ進んだ。

 血の匂いが濃くなるほど、意識は逆に澄んでいった。


(俺は……やっと“ここ”に来たんだ)


 家族を奪われた夜から始まった、終わりのない感情。

 それは今、確かな形となって手の中にあった。


 ゼロは倒れかけた敵からナイフを奪い、残る兵たちに躊躇なく突っ込んでいく。


 金属音が散り、肉の裂ける感触が掌に伝わる。

 敵の叫びも、銃声も、今はただの背景にすぎなかった。


 廊下に沈黙が戻った頃、ゼロは荒い呼吸のまま立ち尽くしていた。


 足元には、灰翼部隊の残骸。


 体はもう限界を越えている。


 だが──


『ゼロ……! エレベーターが動いた!

 中園がヘリポートに向かってる!』


 その言葉を聞いた瞬間、ゼロの目が再び鋭く光った。


「……間に合う。まだ間に合う」


 ゼロは血の滴る廊下を踏みしめ、走り出した。


 彼の影は、天井の赤い灯りに照らされながら長く伸び、

 まるで追いすがる黒い獣のように揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ