1/16
エピローグ:その跡形すら
翌朝のニュースに、男の死は映らなかった。
昨夜、廃ビルの地下で散った彼の身体は、結社の“清掃班”によって丁寧に解体され、複数の焼却炉へと分けて運ばれた。
血の匂いも、名も、家族の記憶すら、世界から静かに削り取られていく。
彼が殺した幹部の席には、すでに新しい人間が座っている。
書類が引き継がれ、署名が行われ、結社の機構は何事もなかったかのように再び動き始めた。
そこに“復讐された痕跡”は一つもない。
街は今日も同じ音を鳴らす。
電車が通り、子どもが笑い、会社員がため息をつく。
誰も知らないまま、ひとつの復讐は静かに消えた。
ただ、彼が最後に掴んだ黒幕の一片だけが、ひどく滑らかな金属片のように、世界の底で鈍く光り続けていた。
それが何を意味するのかを知る者は、もうどこにもいない。
救いのない物語に、救いのない結末が落ちる。
そして世界は、何ひとつ変わらず、冷たく回り続けるのだった。




