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イヌの気持ち(文学・775文字)

最後の時を迎えたイヌの気持ちは……

 朦朧とする意識の中、懐かしい声が私の名前を呼んでいた。老いた体に鞭打ちその声に必死に応えようとしたが、私にはもうそんな力すら残っていないようだ。

 私の力無い反応を見て死期を悟ったのか、声の主は泣きながら言葉にならない何かを叫んでいた。

 私はもう寿命なのだ、そんなに悲しまないでほしい。そう伝えたかったが私の気持ちが伝わるはずもなく声の主――茜は私を抱きかかえながら泣き続けていた。


 私は今の気持ちを上手く表現出来ない。

 優しい茜との毎日は幸せだったし、何より楽しかった、この人に出会えて本当に良かったと思う。

 心残りは無いはずだった、でもこの茜の温もりを感じれるのも最後だと思うとやっぱりまだ一緒に居たかったと思ってしまう、やはりあの楽しそうな明るい声をもっと聞いていたかった……。

 もし私が人間の言葉を話す事が出来たらどんなに楽だっただろう、私の不安に茜は優しく応えてくれていただろうし、私の感謝の気持ちを伝える事だって出来た。今ほど茜と意志の疎通が出来ない事を恨んだ時はない。


 目を閉じ最後の時を迎えようとしていた私に彼女は語り掛けてきた。


「シロまだ死んじゃ嫌だよ!」


 ゴメンね茜、もう一緒に散歩したり遊んだり出来ないんだ。もうバイバイの時間だ、最後はいつもの明るい君の声を聞かせて欲しかったな……。


 茜は押し黙り、より強く私を抱きしめていた。長い沈黙に感じた、いやほんの一瞬だったのかもしれない。茜は、すーっと息を吐き私に語り掛けてくれた。


「さよならシロ、今までありがとうね」


 気のせいかもしれないが、茜の声はいつもの明るいものだった気がした。私の気持ちが伝わったのだろうか?


 ――ああ、そうか。言葉を交わす事が大切なんじゃないよね、今までだってそうだったじゃないか……。私と彼女の気持ちが繋がっていれば。そうだ、それだけで良かったんだ。



 さよなら茜、ありがとう……。


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