ep.13
「会議の資料、作るの手伝ってもらって助かった」
『いえ…
力になれてよかったです』
「小耳に挟んだんだが…」
如月さんは少し言いづらそうにこちらを見ている。
なんだろう。
私は首を傾げて、彼の言葉を待つ。
「原田は男が苦手なのか?」
『あー…まあ、はい。
苦手というか慣れるまで時間がかかるというか…』
「俺が上司だとやりづらくないか?」
『へ…』
如月さんの言葉は意外なものだった。
思わず間抜けな気の抜けた声が出てしまう。
「もしやりづらいなら今からでも上司、女性に変…」
『大丈夫ですよ。
お気遣いありがとうございます。今のままで平気です』
「……いいのか?」
『はい。他の方に変えられる方がやりづらいです』
「そうか。
悪かったな、変なこと聞いて」
ずっと気にして下さっていたのだろう。
以前、相澤さんが言っていた言葉をふと思い出す。
彼は基本放任主義だと。
なんでこんなにも気にかけてくれるのだろう。
『あの…』
「ん?」
『なんでそんに気にかけて下さるんですか?』
「そりゃ上司だから気にかけるだろう」
『いや、まあ…
それはそうなんですけど…』
「………。
腹減らないか?」
『え……
……まあ、少し』
「食っていくか?
俺とが嫌じゃなければ」
納得のいく答えを得られないまま、話は食事の話になった。
時間は夜の八時。
そろそろ夕飯時だ。
まさか如月さんに食事に誘われるとは思ってもみなかった。
ちゃんと選択肢を与えてくれている。
『嫌じゃないですよ。何食べます?』
「あー…」
『「………」』
『私が決めていいですか?』
如月さんは何も考えていなかったのだろう。
困ったように立ち止まって、頬を指先でポリポリ掻いている。
意外な一面を見た気がした。
仕事の時のキビキビした姿とは全く違う。
「ぁ…ああ」
『確かこの近くに居酒屋あったと思うんでそこにいきましょう』
私は先導して先を歩く。
後ろから如月さんがついてきてくれる。
いつもと立場が逆だった。
「悪い。こういうのに疎くてな…」
『如月さん、あんまり皆さんとお食事行かないですよね』
「俺がいると気遣うだろ」
『そんなことないと思いますけど…』
少なくとも女性社員は如月さんとお食事したい、と思ってる人は沢山いそうだ。
この人は皆んなが思ってる以上に過剰な気遣いをする人のよう。
決して放任主義なんかではない。
口出しすることで成長速度を止めるより、フォローにまわるタイプなんだと思う。
彼と仕事をして一週間弱だが、ようやく私はそれに気づいた。
『あ、ここです』
会社から歩いて数分。
その店はどこにでもある大衆居酒屋。
店の外観はごちゃごちゃしていて何が目玉なのかいまいち分からない。
だが、酒の種類は豊富。
ビールから日本酒、銘柄のウイスキーまで。
よく千葉さんと仕事終わりに寄る居酒屋だ。




