ep.11
『どうぞ』
「…悪いな」
『いえ』
給湯室から出て私は如月さんのデスクに淹れたてのコーヒーを置いた。
おにぎりを食べながら目線はパソコンの画面。
それじゃ休憩にならないだろう。
「あ、原田」
『はい?
なんですか?』
邪魔にならないように私は如月さんのデスクから立ち去ろうした。
だが、それは引き止められる。
「来週の金曜の夜空いてるか?」
『?
特に予定はありませんけど…?』
「原田の歓迎会、まだだったろ?
一応来週を予定してるんだが、どうだ?」
『あー…
それって私参加しなきゃですよね』
「そりゃ、原田の歓迎会だからな。迷惑か?」
『そういうわけじゃないんですけど、大勢の飲み会苦手で…』
「気持ちは分からんでもないが、こういう機会がないと原田参加しないだろ。
人脈作りと思って参加してくれないか?』
『……わかりました』
今まで飲み会に誘われたことは何度かある。
その度にのらりくらり、と私は躱わしてきた。
どうも昔から大勢の交流が苦手だった。
話好きの方ではない為、いつも孤立してしまうのだ。
だったら参加せずに一人で気ままに過ごしていたほうがいい。
だが、今回ばかりは逃げられそうになさそう。
仕方ない。
「二次会まで参加しろとは言わないからよろしくな」
『…はい』
「相澤が幹事らしいから詳しいことはあいつに聞いてくれ」
『わかりました』
私は張り付いた笑顔を浮かべて如月さんのデスクを後にした。
そろそろランチに出ていた人達が戻ってくる時間だ。
混まないうちに化粧直ししてこよう。
コーヒーを自分のデスクに置いてから私は女子トイレに向かった。
『はぁ…』
「おっきいため息」
『!
千葉さん』
「どうしたの?」
『いや、さっき如月さんに歓迎会の話聞かされて憂鬱になってただけです』
「あー…
飲み会嫌いなんだっけ?」
『単純に大勢が嫌いなだけです』
私がため息混じりに女子トイレの鏡の前に立ったその瞬間。
千葉さんも入ってきた。
目的は私と一緒だろう。
手に小さなポーチを持っている。
「原田さんて本当、生きづらい性格してるよね」
『ゔ…』
それは自覚してる。
ただ男性の苦手意識に関してはその人に慣れてしまえば、割と平気だ。
慣れまで時間はかかるが。
「まあ一次会なんて二時間程度で終わるからさ、適当に過ごして帰りなよ。
仕事じゃないんだから」
『はい、そうします』
私と千葉さんは会話をしながらも化粧直しに余念がない。
そろそろ混みだす時間なので手を止めてる余裕はなかった。
歓迎会の予定は来週末だ。
まだ少し先。
あまり考えずに仕事に集中しよう。
化粧直しを済ませ、私達はデスクに戻ることにする。
千葉さんは途中、『一服してくる』といって喫煙所に消えていった。
彼女はかなりのベビースモーカー。
驚くことはない。




