ドタバタな登校
高校見学の日から数日、いよいよ最初の登校日となった月曜日の朝。レナは大ピンチになっていた。
「あぁ、行ってしまった…。」
レナは駅のホームで立ち尽くす。電車は、無情にも出発した後だった。
「どうしよう…。」
どうしてこのような状況になっているのか。その理由は昨日の夜まで遡る。
◆
「うー、明日は学校だぁー。行くのめんどくさいし、行きたくないよぉー。」
日曜日の夜、レナはそうベットの上で唸っていた。
「まあ、言ってしまえば学校にいる間ずっと喋んなくてもいいんだし…。できるだけ存在感出さないで、隅っこで本でも読んでよう…。」
レナは引きこもりであると同時に筋金入りの人見知りでもある。その上陰キャのものなので、レナにとって学校とは地獄でしかない。
(まあ、頑張ればなんとかなる…はず。トラブルさえ起こさなければ何事もなく家に帰れる…。)
そう思いながら、明日のためのアラームをかけた。ここまでは良かった。しかし、考え事をしながらアラームをかけたのがいけなかった。レナはとんでもないミスを犯していたのである。なんと、アラームの午前と午後を間違えてかけてしまったのだ。午前七時のアラームが、午後七時のアラームになっていたのだ。当然、寝坊したレナは、佐野先生から今日の確認の電話がかかってきたおかげで起きれたものの、急いで着替えて駅に走ってみれば、乗るはずだった電車は丁度行ってしまった。次の電車では登校時間に間に合わない。そんなこんなで、冒頭のシーンが出来上がったわけである。
◆
(なんで、登校時間ギリギリの電車に乗ろうと思ったんだろう…。昨日の自分をぶん殴ってやりたい…。)
レナはそんな事を考えるが、状況は全く良くならない。次の電車は15分後。このままだとぎりぎり間に合わない。
(登校初日から遅刻するのは流石に嫌だ…。もういっそのこと…、いや、でもそれだと人に見られた時めんどくさいし…。)
レナは最悪空を飛んで学校へ行くこともできる。レナならば、他の人とは違って生身でも空を飛ぶことができる。しかしそれには問題があった。
空を飛ぶこと自体は別に珍しくない。普通の人たちは、大抵マジックバイクやらマジックカーなどを持っている。これらの乗り物は魔力を流すことで空を飛ぶことができる。いわば、空を飛ぶための補助道具だ。飛行魔法を使うには膨大な魔力とそれを操る精密な魔力操作が必要だ。それ故に、普通の人はこれらの道具を使う。
つまり、生身で空を飛んで学校へ行こうものならば大騒ぎになる。その行為はこの世界の常識を打ち砕くものだからだ。だから、レナは空を飛ぶことを渋っているのである。
(バレたら、絶対に騒がれる…。でも、もうこれしかない。流石に初日から遅刻するのは、私だって嫌だ。)
レナは覚悟を決めた。改札を駆け上がり、外に出る。そして、人通りのない路地に入った。
(一瞬で1000mまで行く。人に見られないように。)
魔力を溜める。レナのその膨大な魔力は一点に集められ、そして圧縮され強大なエネルギーを生み出す。レナはそれを手に集め、そして地面に向けて打った。
ドーン!
抑えたつもりだったが足りなかったらしい。多少音がしてしまったがしょうがない。レナは爆発の反動で空高くに舞上がった。宙に舞う体を、魔力を軽く噴射してバランスを取る。
(よし、上手くいった。これで、後は学校に行くだけ)
レナは再び魔力を溜める。そして、今度はそれを後ろに向けて打った。
ギュンッ!
レナは一気に加速して、学校へ飛んでいった。
◆
(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)
陽光学院の上空約1000m。レナはまたしてもピンチに陥っていた。覚悟を決めて飛んできたは良いが、着地のことを全く考えていなかったのである。
(学校に降りたらまちがいなく騒ぎになる。だからといって、学校の周りに着地できそうなところもない。どうしたらいいの!?)
こっそり着地できるだろうと思っていたのだが、意外と人目があって着地できそうなところがない。屋上に降りることも考えたが、遠視魔法で見るとどうやら鍵がかかっているようだ。万事休す。そうレナが絶望していると、
バサバサバサッ
鳥の群れがレナに向かって突っ込んできた。
「わぁ、なに!?わっ、ちょ、ちょっと。」
レナはバランスを崩してしまった。飛行魔法というものはバランスがとても重要である。常に魔力を噴射絶妙の力加減で噴出し続けないと、瞬く間に落ちてしまう。だから飛行魔法は一般に使われないのだが…。とにかく、バランスを崩したことは、空から地面へ真っ逆さまに落ちることを意味する。
「わ、わぁーーー!」
レナは学校へと落ちていった。
(ちょ、ちょ、やばい。落ちてる落ちてる!このままじゃ死んじゃう!)
パニックになるレナをおいて、地面はどんどんと近づいてくる。このままだと、五秒もしないうちに校庭の地面にぶつかるだろう。
「ちょ、とっとりあえず、魔力全開!」
レナは全力で魔力を地面に向けて打った。
ズドーン!
大きな音とともに、土煙がモクモクと上がる。あまりの衝撃に、周りに居た人々は吹き飛ばされてしまった。
「う、うぅ。助かった…。」
レナはうめき声を上げながら起き上がった。周りはすごいことになっているものの、レナはなんとか無傷である。
「こっちだ!こっちで爆発が起きたんだ!」
「なんだ!?この土煙は!?」
「周りに気絶している人達がいるぞ!」
遠くから、そう声が聞こえてきた。
(やっ、やばい…、早く逃げなきゃ…。)
レナは土煙に紛れて、こっそりとその場を去った。
◆
「うぅ、なんで普通に投稿できないんだろう…。」
レナは自分の部屋でそう呻いた。結局、あの後調査のために学校は休校になってしまった。職員室でそう聞かされたので、レナは教室にすら行けていない。
(明日は絶対に寝坊しないようにしよう…。)
そう、固く誓ったレナだった。