第7話 レイド開始
キラキラと輝く爽やかな笑顔。
この白銀の鎧を着ているイケメンが、『蒼穹の聖光』のリーダであるセインだ。
彼はAランク冒険者であり、光魔法を操る実力者である。
さらに容姿端麗で品行方正、加えて貴族の嫡子という完璧な経歴を持つ。
そのため、カナンやラッカの女性達から絶大な人気を誇っているのだ。
彼の後ろに並ぶ三人の少女達はハーレム候補もとい、彼のパーティの仲間である。
彼女達の共通点は、盲目的にラインハルトを敬愛していること。
だから彼の敵対者だと勘違いされると……悲惨な目に遭うことになる……
とにかく、あの三人は取扱い注意なのだ。
茶髪ロングの女子は『剣豪』のスキル持ちで、名前はレシルという。
彼女はラッカでも指折りの剣の達人である。
魔法士のローブを羽織り、片手にステッキを持つ、青髪の少女の名はエルミナ。
大人しそうな見た目と違い、攻撃に特化した魔法を使う。
純白の神官服を着てる少女は治癒魔法士のサラ。
ソフィア教の聖女見習いでもあるらしい。
パラディール大陸には多くの宗教や秘密結社が存在する。
その中でもソフィア教は、姉女神を崇拝する教団のことで、大陸全土に広がっており、ベルトラン王国でも多くの住人達が、人族の神様としてソフィア様を崇めている。
セインの呼びかけにより、パーティリーダーが集まり、レイドの方針を決めることになった。
エリスのことは彼等には伝えていない。
パーティの冒険者が抜けることも多く、また人員を補充することもある。
他のパーティの人数を気にする上位冒険者は稀なのだ。
四組のパーティで、団結して調査を進めようという彼の提案に、ブレイズは「それでは一番になれない」と主張する。
そして『奈落の髑髏』のリーダー――ヴェノムは群れる気はないと反対を示した。
続けて俺も、その案に乗れないことを告げる。
そもそも冒険者というのは、気性も荒く集団向きではない。
『奈落の髑髏』の名は知っていたが、薄気味悪い噂も多い連中である。
そんな得体の知れない奴等を、エリナさんに近く置くのは絶対に許さん。
大森林での調査はパーティごとに進めることになり、一日に一度、『蒼穹の聖光』の野営地に集合し、情報を交換することになった。
セインの光魔法を、空に打ち上げれば、彼の居場所を特定するのは容易いからな。
ラッカの大門を抜け、『蒼穹の聖光』、『獅子の咆哮』、『奈落の髑髏』の三組はそれぞれに大森林の中へと散って行く。
その後ろ姿を見送っていると、ルディ、ベルフィ、アレッサ、エリスさんが駆け寄ってきた。
「私達も早く行こう。連中よりも、もっと森の奥まで進んでやろうよ」
「いや、その前に方針を決めたほうがいい。闇雲に森に入っても、魔中との戦いで疲れるだけだ」
「そんなこと気にしないわ! どんどん狩っていけばいいのよ!」
「できれば、他のパーティよりも早く、古代遺跡を発見したいのですが」
皆の発言を聞いて、俺はニヤリと笑む。
「うん、うん、四人の言いたいことはわかった。皆の望みを叶えるために、ちょっと試したいことがあるんだ」
俺はポーチからスマホを取り出し、画面をスクロールして、ある物を天界の倉庫から召喚する。
目の前に空間に現れたのは、真っ黒な小型ドローンとコントローラー。
このエアハルト世界にはドラゴンやワイバーンを筆頭に、空を飛ぶ魔獣が多数いる。
古代の頃には、その魔獣達をテイムして、多くの魔法士が空を駆けたという伝承もある。
今ではその技術は廃れ、パラディール大陸の西方の一国だけが竜騎士従えているそうだ。
ベルトラン王国では、魔法で空を飛べる人族はいないとされている。
その結果、遠見の魔法などで、魔法士達が地図を作成しているのだが、前世の日本のような精密な地図は存在していない。
もしあったとしても、王国の機密情報扱いで、王宮に関わる貴族達しか閲覧できないだろう。
それに『ニューミナス大森林』を見渡す高台も、ラッカ周辺にはないし、そもそも大森林の規模が大きすぎるので、正確な地図の計測など無理がある。
そこで思いついたのが、ドローンによる偵察だ。
このドローンは元々地球の兵器であったが、フィオナ様が弄って遊んでいたオモチャなのだ。
操作方法は天界にいる時に強制的に、頭にインストールされているから問題ない。
地面にドローンを置いて、スイッチを入れて起動させる。
すると空中にモニターのような画面が現れた。
これでドローンからの視点を観ることができるようだ。
左右のスティックを操ると、ドローンがフワフワと浮かび上がった。
「ノア、それは何なんだ?」
「ああ、空を飛ぶ魔道具だ。これを空に飛ばすと、空から周囲を偵察することができるんだ」
その応えを聞いて、ベルフィが俺の腕をガシっと掴む。
「そんな便利な魔道具を持っているなら、今までどうして使わなかったんだ。それがあれば色々とできるじゃないか」
「効率を求めても面白くないだろ。それに俺達のパーティにはルディがいる。彼女がいればこんな魔道具は必要ない」
「まあそうだが……」
ベルフィは納得できないようだが、近くにいるルディは、薄い胸を拳で叩いている。
私に任せてと伝えているのだろう。
アレッサは「見せて、見せて」と実に楽しそうだ。
エリスさんはドローンを見て、目を見開いたまま口元を両手で押えていた。
ドローンは大空を南西に向かって蛇行しながら飛んでいく。
樹々が生い茂っているので、地上は見えにくいが、大型の魔獣が移動していればわかるはずだ。
それに古代遺跡が森の中にあれば、痕跡ぐらいは見つかるかもしれない。
二十分ほどドローンを飛ばしていくと、幾つかの魔獣の動きを把握することができた。
魔獣達の居場所についてはルディが覚えてくれている。
情報屋だけあって記憶力がとても良いのだ。
そして南西を奥に進んだ飛んだ地点に巨大な断層があった。
かなり深い崖になっているようだ。
「あの崖を調査すれば、鉱脈を見つけることができるかもしれないぞ」
「ミスリルとか魔晶石が発見できればいいな」
「他のパーティには黙っておこう」
「しかし、その崖に向かう間で、何度か集まって情報交換することになる。俺達だけで一気に断層に向かうのは無理だぞ」
「それはわかっている。途中までは他のパーティと歩調を合わせればいい。ギリギリで俺達が他の連中をだし抜いたとしても、早く崖に着いたと言い訳できる」
冒険と報酬に目がないのが冒険者だ。
いち早く屈強な魔獣を発見して、他の者達をだし抜く魔獣を狩るのは、冒険者の常套手段である。
ベルフィの意見は正しい。
ということで、空中を戻ってきたドローンを回収し、天界の倉庫に戻した俺は、四人へ号令をかける。
「おまたせ! 『不死の翼』の実力を見せつけてやろうぜ!」