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第5話 新たな調査依頼

俺とベルフィは冒険者ギルドの離れにある倉庫で、収納していた魔獣の死骸を放出する。


アグリオス、十八体。

トレント、五体。

ヘルハウンド、十二体だ。


「アグリオスが大量じゃないですか。これだけあればラッカの肉屋や料理店も喜びますよ」


床に転がった屍を見て、解体職人がニコニコと笑む。


いつものように俺はポーチから革袋を取り出して、金貨を一枚指で弾く。

その金貨を受け取った解体職人は「毎度どうも」と言って、作業を始めた。


通常の冒険者は冒険者ギルドに魔獣の死骸を大量に持ち帰ることはしない。

まだ魔獣討伐の経験の浅い者達は、容量の大きい高価なマジックバックを持っていないのだ。


それに森林の中で魔獣を解体して、魔獣の体内にある魔石、討伐の証拠となる部位、牙や角などの素材、それらだけを持ち運ぶほうが楽である。


アグリオスやトレントのような死骸自体を換金できる魔獣は、討伐したいが、運搬の苦労を考えて避ける冒険者も多い。


毎回解体を頼んでいる俺は、職人へのお礼として金貨一枚を渡している。


こうしておけば、解体した肉の一部を分けてもらえるし、毒に犯されている魔獣の肉は、暗黙で処理してもらえるのだ。


しばらくして解体職人が作成した書類と、小分けした肉を受け取る。

この羊皮紙を持って、受付カウンターにいるクレアさんに換金してもらい、今日の予定は終わりだ


カナンやラッカでは、大森林での魔獣討伐についての依頼票はなく、受付嬢に生存報告していれば依頼完了の手続きは要らないのだ。


するとアレッサ、ルディの二人と一緒に別室から戻ってきたリアさんが俺を呼び止める。


「ギルド長が呼んでるわ。全員で来てって」


「今日は肉でパーティをする予定なんですが」


「それは素敵な夕食ね。ギルド長に伝えれば行くと言い出すかも」


「……内密にお願いします……」


俺は諦めて、皆と一緒にギルマスの執務室へと向かった。


「お呼びのようですが、何か?」


そう声をかけると、ソファにドンともたれているギルド長――ジョルドさんが無言で対面の席を指差す。

そして俺とベルフィがソファに座ると、身を起して話し始めた。


「『蒼穹の聖光』、『獅子の咆哮』、『不死の翼』、『奈落の髑髏』、この四組でレイドを行う。明日から南西に狩場を移す」


「あの……今日、カナンから戻ってきたばかりなんですけど……三日ほど休憩を貰うのは?」


「何度も言わせるな。明日からだ」


ジョルドさんにジロリと睨まれ、俺は慌ててコクコクと頷いた。


『ニューミナス大森林』の実践を積んだ猛者。


元Aランク冒険者であるジョルドさんの実力は今も健在で、ラッカのギルド内で問題を起した者達は、容赦なく叩きのめされる。


俺も全力で戦えばいい勝負になると思うが、それよりも威圧が凄くて顔が怖いんだよ。


顔の左側に大きな裂傷がある隻眼で、体中に戦闘の傷跡がある。

ここが前世の日本なら、反社会勢力の幹部と勘違いされるそうだ。


「わかりました。いよいよと言うことですね」


「そういうことだ。思いっきり暴れてこい」


「これでやっと新しい冒険ができるんだね」


ベルフィも心から嬉しそうだ。


このラッカの村が建設されたのが五年前。


それ以降、大森林に挑む冒険者達は、カナンからラッカまでの地域の魔獣討伐ばかりしていたわけではない。


ラッカを起点として南から東の半円にかけてのエリアを開拓するため、実力のある冒険者達は屈強な魔獣と戦ってきたのだ。


その範囲は二十キロにわたる。

そして調査の時は、もっと広い範囲を調査している。


その結果、幾つか鉱脈を発見することはできたが、古代遺跡は未だに発見されていなかった。


ジョルドさんの言葉は、これまで冒険者ギルドの方針で規制されていた南西方面への調査を開始することを意味する。


『ニューミナス 大森林』は南西に向かって広がる未開の森だ。

よって南西方面は、大森林の中心部にそびえるカルデナス山脈を目指すことになる。


その山脈には多くの鉱脈が埋まっており、沢山の古代遺跡が眠っているとも噂されているのだ。


一攫千金を狙い、屈強な魔獣に挑む冒険者達にとって、あの山脈を制覇することは一つの夢となっている。


今回の南西への調査も、前回の南東方面と同じく、上位冒険者パーティがレイドを組み、その実力に応じた範囲を調べることになる。


この好機を逃がすほど俺もバカではない。


「今度はどんな魔獣と戦えるんだろ! ワクワクするわ!」


「新しい武器を新調してもいいかも」


アレッサとルディも思いもよらぬ新展開にとても喜んでいる。

四人で嬉々と騒いでいると、ジョルドさんがテーブルをドンと叩いた。


「わかっていると思うが、今回のレイドは『蒼穹の聖光』が主導する。くれぐれも『獅子の咆哮』と揉めて、セインに迷惑をかけるな。もし、そんなことをすれば、ノア、わかってるだろうな」


『蒼穹の聖光』はラッカで唯一のAランク冒険者パーティで、Bランクである俺達や『獅子の咆哮』よりも格上の冒険者だ。


普段は競争相手だが、レイドとなると形だけでも従う必要がある。


「はーい! 魔獣をガンガン倒せるなら、喧嘩なんてしませーん!」


「ストレスは魔獣に八つ当たりするから大丈夫」


女子二人は、無邪気に笑って片手を上げる。


あの様子だと、何も考えてないだろうな。


さっきもブレイズ達の喧嘩を買おうとしてたのは誰だっけ?


レイドの間、奴等と一緒に行動する時も多いから、とても不安なんだが 。


「善処します……」


「ベルフィ、何かあった時は、お前も同罪だからな」


「わかっていますよ、やだなー」


いきなり話を振られて、ベルティの笑みが引きつる。


さすがジョルドさん、彼の性格をよくご存じで。


「レイドの調査範囲はセインに任せる」


大森林の中を魔獣と交戦もせず、真っ直ぐ調査して進むなら容易い。

しかし、周辺を調らべながらとなれば、危険な森で幾日も野営することになる。


そう考えると気持ちが盛り上がってくるな。


ジョルドさんと打ち合わせをした後に冒険者ギルドの建物を出た。

大きな路地を歩いて村の北側にある『深緑の山麓亭』へと向かう。


この宿は俺達『不死の翼』が拠点としている常宿だ。

既に年間の宿代も支払ってある。


「お、戻って来たか」


「これ、食材に使ってください」


「ありがとな。 夕食まだなんだろ。食堂で食べていけ」


玄関の受付カウンターにいた宿主のレックさんに、小分けしてもらったアグリオスの肉を手渡した。

そして廊下を歩いて、一階にある食堂の中へ入る。


すると一人の老人がテーブルの椅子に座り、その隣に麗しの眼鏡美少女が立っていた。

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