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第4話 いつもの大騒ぎ

立ち塞がる男の中はブレイズ。

『獅子の咆哮』というパーティのリーダだ。


冒険者ギルドでは、冒険者達が勝手に実力の順列をつけることが多い。


その噂の中で、俺達『不死の翼』と『獅子の咆哮』がよく比較される。

それが気に入らないのか、連中にライバル視されているのだ。


「ブレイズ達と競うつもりはない。俺達のことは気にせず、どんどん魔獣を狩ってくれ」


「『不死の翼』の実力は俺達よりも劣るからな。お前達のお遊びとは格が違うのだ」


ブレイズ君、そういうことを言うと危険だよ。


自慢気に笑っているブレイズの頬に、メリメリと拳が叩きこまれる。

その勢いに、彼の体が壁まで吹っ飛んだ。


「『不死の翼』をバカにするんだったら、私が許さないんだから」


胸の前で両拳を組み、ポキポキと指を鳴らしてアレッサが怒っている。

予想通り、熱血な彼女がパーティの悪口を許すわけがない。


俺達に絡んでくる度に、アレッサに叩きのめされているのに、ブレイズも懲りない奴だな。


音もなくルディも前に進みでて、静かに曲刀――シャムシールを構える。


「一度、死んでみたいのかな?」


彼女もちょっとご立腹のようだ。


『不死の翼』の女子達は血の気が多いからな。


ブレイズを周りを『獅子の咆哮』の面々が囲み、ローブ姿の女子がペコペコと頭を下げる。


「いつも迷惑をかけてすみません。後でキッチリ、お説教しますので」


この少女の名はルーネ。

攻撃を担当している魔法士だ。


感情に任せて突っ走るブレイズを抑え、パーティをまとめる影のリーダでもある。


「ブレイズは悪くない! いつもブレイズは正しいんだ! 俺はブレイズに付いていくぜ!」


ルーネの隣で「ブレイズ」とうるさく連呼している男の名はライル。

身長百九十センチを超える、筋肉マッチョの巨体。

その巨躯に金属の鎧を装備する彼は、大盾を扱う重戦士だ。


田舎にいた頃、体が小さかった彼を、ブレイズが庇ってくれていたとか。

それからライルはブレイズの熱狂的な信者らしい。


「そうだよ! 強こそノア達をやっつけようぜ! 俺達との実力の差を見せつけてやればいいんだ!」


「そんなこと言ってると、またルディちゃんに冷たくされるわよ。ブレイズもだけど、ライルもテットも、もう少し大人になって、幼馴染として恥ずかしいでしょ。『不死の翼』の皆さん、本当にごめんなさい」


調子よくライルを煽っているのは短剣使いのテット。

パーティの斥候で、ルディのことが気になるらしい。

彼女は空気のように無視しているけどね。


ルーネと同じく、謝っているのは治癒魔法士のシャナだ。

彼女もルーネと共に『獅子の咆哮』を支える苦労人である。


そして、この五名は同郷の幼馴染である。


『獅子の咆哮』情報を集めてきたのは、ルディなんだけどね。


気絶者一名、いきり立つ男子二名、謝り続ける女子二名。

それを面白そうに、周りでざわつく冒険者達。


その騒がしい雰囲気に、ラッカに戻ってきたんだなと、気持ちが落ち着くのはなぜだろう。


「はいはいはい、喧嘩はそこまでよ! 皆も注目してないで、用事が終ったらサッサとギルドから帰ってね!」


パンパンと手を叩いて、明るい声で割って入ってきたリアさんが、周りの冒険者達を追い払う。


この元気の良い女性は、『不死の翼』を担当する受付嬢である。


通常の冒険者ギルドでは、職員や受付嬢が、担当別に冒険者パーティを管理するシステムはない。


しかし、王国中から冒険者が集まっているカナンとラッカでは、依頼を受付るだけでも混乱が起きる。


そこでギルド長が、担当別にすることを考えついたそうだ。


「もう、いつも喧嘩ばっかりして、私の昇進にも関わるんだらから、いい加減にしてよね」


リアさんの一睨みで、顔を青くしてライルとテットは、ブレイズの体を引きずって去っていく。

その後に、ルーネとシャナは深くお辞儀をして、三人を追って建物から出ていった。


ギルド職員や受付嬢も、担当する冒険者達が、優秀な功績をあげれば、それは自分達の功績にも繋がる。


しかし冒険者達が怠けていたり、戦死者が多ければ、それは担当している受付嬢の怠慢、管理不足という風評が立つ。


リアさん達の給金にも響いてくることなので、彼女達も必死なのだ。


「おかげで助かりましたよ。でも僕はリアさんの優しい笑顔のほうが好きだな」


「ベルフィ、あなたなら喧嘩を止められたわよね。どうしていつもノアに任せようとするのかな」


「だってノアのほうが人当たりが良いでしょ。僕みたいな痩せ男に出番はないですよ」


ラッカ冒険者の中でもトップクラスの万能魔法士がよく言うよ。

どうせ俺がどう対処するか、観察したかっただけだろ。


すると怒りの収まらないアレッサがリアさんに喰いつく。


「ノアも私達も何も悪くないわ。喧嘩を売ってきたのは向こうよ」


「うん、うん、そうよねー。アレッサちゃんが正しいわ。だって優しいあなたが怒るんだもの。これから別室で紅茶でも飲まない? 今日はカナンで買ってきたケーキを貰ったの。ルディちゃんも一緒に食べましょ」


「ケーキ食べたい!」


「私も一緒に行くー」


簡単にリアさんの話に乗せられるアレッサとルディ。

彼女が『不死の翼』に担当になってから長く、二人の扱いについては慣れているのだ。


女子は甘いモノ、スーツが大好きだが、それにしてもちょろすぎないか。


リアさんは「後のことはクレアに任せるわ」と同僚に声をかけ、アレッサとルディを伴って、扉を開けて別室へと廊下を去っていった。


俺とベルフィが受付カウンタへ向かうと、クレアさんが片手でお腹を押えながら会釈をする。


「『獅子の咆哮』がご迷惑をおかけしてすみません。私からも彼等に、しっかりと言い聞かせますので許してあげてください」


「いいよ、いいよ。ブレイズに絡まれるのはいつものことだから」


「実は『獅子の咆哮』の皆さんも、ノアさん達がラッカに戻ってきたのを喜んでるんですよ。魔獣の討伐数を伸ばすって張り切っていましたから」


「はぁー、勝手にライバル視されても困る。俺は競争なんてしたくないからさ」


「それについては仕方ないというか……」


顔を俯かせて、クレアさんが言い淀む。


彼女は『獅子の咆哮』の担当を務めている受付嬢である。


リアさんの後輩でもあり、俺達に絡む『獅子の咆哮』にいつも不安を抱えている。

その心痛で胃を壊し、今では薬を持ち歩くほどだ。


連中の何かを秘密を知ってるのかな?


ジーっとクレアを凝視していると、ベルフィに肩をポンと叩かれた。


「女の子を見つめ続けるのは失礼だよ。それにノアが鈍感なだけだから」


ベルフィも何か知っているようにニヤニヤと頷く。


うーん、ブレイズに絡まれる理由がわからないんだけど?

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