第1話 謝罪、そして転生へ
●△●ニュース。
昨日、某地域を襲った集中豪雨に伴い、激しい雷雨が発生しました。その影響で、□□市内にある賃貸マンションに落雷があり、周辺住民からの通報を受けて緊急対応が行われました。
落雷の際、マンションの室内にいた柊木翼さん(二十九歳)が感電により命を落とされたとの報告が入っています。この悲劇に、周囲の住民にも衝撃が広がっています。
現在、関係当局が落雷による被害の全容を調査中です。一部住居では停電が発生し、住民生活に影響が出ているとされています。当局は引き続き迅速な対応に努めるとともに、雷雨が続く可能性があるため、さらなる注意を呼びかけています。
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なるほど……日本では、俺が死んだことがニュースで流れてるんだな。
ということは、今の俺は霊体で、ここは天界ってことでいいのか?
真っ白な空間に浮かんでいる巨大モニターを見た後に、その手前いる四人に目を移す。
純白のぺプロスを着た絶世の美女と美少女。
美女の隣に同じ衣服を着ている、伸び放題の髭に赤ら顔の、酔ってそうなオッサンが一人。
美少女の横には、筋肉隆々の裸体に虎柄の腰巻を着け、髪から二本の角……あれはどう見ても鬼だよな。
その奇妙な組み合わせの四人が、なぜか俺に土下座を?
「この度、妹達がご迷惑をかけ、誠に申し訳ありません!」
顔を上げて必死に懇願する美女。
なぜ謝罪されているのか、俺には皆目見当もつかないのだが?
すると美女は、冷や汗を額から流し、俺に起こった出来事の経緯を話し始めた。
美女、美少女、赤ら顔のオッサンは、異世界の神で、チリ毛の鬼は日本の神だという。
姉女神の名ソフィア様。
妹女神の名はフィオナ様。
赤ら顔のオッサンは鍛冶神でバッカス様。
そしてチリ毛の鬼が雷神様だ。
別世界の友好と和平の証として、神同士が婚姻を結ぶことは珍しくなく、フィオナ様と雷神様は婚約関係にあったそうだ。
そのフィオナ様が地球の文化にハマってしまい、その中でも特に武器に興味を持ち、ミリタリーオタクに染まっていったそうだ。
そして欲望を我慢できずに、世界各国の最新鋭兵器から、海外で市販されている銃に至るまでを、神力を使って次々と盗み出したらしい。
そこまで聞いて、俺は咄嗟に大声を張り上げる。
「盗むのはオタクとして間違っている! 俺も美少女フィギュアを収集する趣味はあるが、バイトの給料の中からコツコツと貯めて、その資金で希少フィギュアの購入に向けて抽選に望んでいる。その労力と支出があるからこそ、フィギュアを購入できた時の喜びが何倍にも倍増するんだぞ!」
「そうだったんですね! 浅はかなオタクの知識しかなく申し訳ありません!」
俺とフィオナ様が奇妙な絆を感じている隣で、美女――姉女神が表情を引きつらせて説明を続ける。
フィオナ様やらかしたことで、世界各国の重要拠点から最新鋭の兵器が突如として紛失した。
その結果、世界中の政府は敵国が何かを仕掛てきたと勘違いして、一般人の知らないところで、世界終末戦争に発展する危機に直面する寸前になっていたそうだ。
その一件をもみ消すため、チリ毛の鬼――雷神様は自身の神力を使って、世界中で失われた兵器と瓜二つの類似した兵器を創造しては、各国の拠点へ戻していったという。
そして混乱している各国政府の要人に化けて、なんとか事態を有耶無耶にして、世界規模の戦争を回避したとか。
そんな雷神様の涙ぐましい努力を気にする様子もなく、兵器、武器の収集を続けるフィオナ様に、とうとう雷神様の堪忍袋の緒が切れて、婚約者同士の喧嘩が天界で勃発。
フィオナ様が地球の最新兵器をぶっ放したことで、バッカス様が、ノリノリで天災級の武器を持ち出して参戦し、天界の一部がハルマゲドンのような様相になったらしい。
そして、その災害の余波が、世界の境界を超えて日本へ稲妻となって飛来し、たまたま偶然に俺が死んだという。
あまりに大規模な話しの展開と、その情報量に頭がついていけず、俺は呆然と四人の神々を見つめるしかできない。
すると、一気に話し尽くしたソフィア様は、フィオナ様の頭を両手で押さえつけて、自分も頭を床に擦りつけた。
「この三柱がご迷惑をおかけしたこと、神々を代表してお詫びします。謝罪として、翼様にはエアハルトの世界に転生していただき、異世界での新たな人生をお楽しみいただくつもりです 」
この話しの流れは、異世界系のアニメで観たことのある異世界転生では?
ということは、異世界で大富豪セレブになれるかも?
「それなら、俺をどこか国の王族にしてくれ。そうすれば魔獣と戦うこともないし、王家の権威と財力があれば贅沢し放題、貴族令嬢や美少女とも簡単にお知り合いになれるし、老後も安泰でだろ」
「それはダメだ! 異世界といえば冒険者! 魔獣との血沸き肉躍る戦いこそが魅力ではないか! せっかくチートな雷神の加護を与えてやろうというのだ! 城の中でヌクヌクとした生活なんて断じて許さん!」
「その通りじゃ。ワシが没収された神話級の武器も使い放題なんじゃぞ。その破壊力と性能を堪能せんでどうする! こんな絶好な機会を逃がす気か!」
「そうよ、そうよ! 私がせっせと集めた兵器コレクションなんだから! お蔵入りなんて絶対に反対よ! きちんと使ってくれないと、プンプンだからね!」
雷神様の言い分は、まだ理解できる。
異世界ファンタジーの原点といえば、冒険者と魔獣の戦いだからな。
しかしバッカス様とフィオナ様の思いを継いだら、転生先の地で終末戦争が勃発して、異世界の国々が崩壊する未来しかないような。
そんなことになったら、俺が大悪人になるわ!
天界の一部をハルマゲドンにしたのに、まだ懲りないのか、この神々は!
バッカス様とフィオナ様の頭を拳骨で張り倒し、ペコペコと頭を下げるソフィア様の心労が偲ばれる。
とにかく神々の荒唐無稽な話を聞いていても仕方がない。
適当に聞き流して、さっさとスキルを貰って、転生させてもらおう。
「わかりました……謝罪を受け入れます。ただし、転生した後も色々と便宜は計ってもらいますからね」
ジロリとソフィア様に視線を向けると、彼女はコクコクと大きく頷く。
すると雷神様とバッカス様が立ち上げり、ズカズカと近寄ってきて、俺の霊体の腕をガシッと両側から抱え込む。
「心配するな。迷惑をかけた分の助力は惜しまん! 私が直々に鍛えてやろう!」
「まずは転生が決まった祝い酒じゃ! 他の神々も交えて盛大な宴をしようぞ!」
「ちょっと待って! 心の準備がー!」
悲鳴をあげる俺を、二人の男神が引きずり、女神達が後ろから小走りに追いかけてくる。
こうして俺が異世界へ転生する準備が始まったのだった。