◇22.エピローグ
彼女が帰ってきてからの大学生活は、慌ただしく過ぎ去った。大学でのアザミの扱いは、何故か死亡除籍処分では無く、休学扱いになっていて、彼女は復学後私と同じタイミングで卒業する運びとなった。アザミは「夏帆の小説の影響ちゃう?」と言っていたけど、喫煙所の縁で学長とも仲が良かったみたいだし、彼女の人徳のおかげじゃないかと私は睨んでる。でも、今となっては、真相は闇の中だ。時間が経つにつれて、時計塔の事件は私たち当事者の記憶の中にだけ存在し、事件そのものが無かったかの様に変化していった。もうインターネットで事件の記事を探しても見つからないし、アザミが生き返った事で松永先輩の自首した事実もなくなった。電話越しの先輩曰く、ある朝目が覚めると刑務所から自宅に移動していたみたい。
「向き合うべき罪すら取り上げられて、僕は一体どうすればいいんだろう。でも、その意味を考えながら、自分にできる償いを模索していくよ」
そう言って通話は切れた。それ以来、先輩と連絡は取っていない。
アザミは卒業後、化粧品会社の商品開発部門に就職し、働いている。約束通り、職場で仲良くなった人には、私の小説を勧めてくれているみたいで。やり過ぎて、ウザがられてないといいんだけど。仕事では、地味に吸血鬼の時に色々試した日焼けクリームの使用感の差などの実体験が、商品開発の役に立っているらしい。人生どんな経験が後々生きるか、本当に分からない。
あと、アザミとサイトウさんの関係がちょっと変わった。アザミは再会後、宣言通り「ありがとう」と軽いパンチをサイトウさんにお見舞し、積もる話を色々としていた。それからは、お互いに素の状態で話している。二人とも美男美女だし、私は付き合ったらお似合いだと思うんだけど。当の本人は、「そういうのとは、ちゃうねん」と否定していた。
私は私で、帰省した際に両親に賞を貰ってデビューした事、そして卒業後も小説家としてやっていきたい事を告げた。反対されるかもと心配していたけど、二人とも応援してくれるみたいで、一安心だ。お父さんは「夏帆が小説家になるなんてね。誰に似たんだろ?」なんて言っていたけど、お母さんは「誰に似たとかじゃなくて、夏帆が頑張ったんだよね。おめでとう」と喜んでくれた。嬉しかった。大学受験の前に小説家になりたいと言って反対された時は、どうして背中を押してくれないんだろうと思っていたけど。単純に心配してくれてたんだなって、今なら分かる。
ちなみに、もちろん卒業後も私たちの関係は続いていて、週末はアザミと一緒にご飯を食べに行く予定だ。それまでに、少しでも原稿を進めないと。
小説家は安定とかけ離れた職業だし、不安はもちろんある。でも、私はフィクションの持つ力を信じてる。アザミを助けられた時のように、まだ見ぬ誰かの心を動かす小説を、これからも紡いでいきたい。そう思い、私は今日もペンを走らせている。




