落ちる夏
最近、よく夢を観るんだ。
昔の夢を、あの頃は良かった。
続きのことなんて考えずに
ただ、ただ、その一瞬を楽しめた。
危ないとわかっていても、愚直に、純粋に。
でもね、その一瞬で、その一回で
全てが終わる。そんな事があるんだ。
これは、後悔のあとの話。
一回の後悔、一瞬の逡巡、その話。
僕は、人を殺めてしまった。
10年以上前にね。
大親友と僕は思っていた人を。
そう、それは、馬鹿みたいに暑い夏だった。
話が長くなりそうだって?すまんが聞いてくれ。
つまらない話だと思うが、吐き出したいんだ。
夏 ド田舎に住んでた僕らは、カブトムシを捕まえようと山に入ったんだ。子供だけでね。
山を歩き回って、でっかいカブトムシを捕まえたんだ。
今でも覚えてる、手のひらに収まりきらない大きさだった。
それで、調子付いた僕たちは、もっと大きいのをって、山の奥に進んでいった、進んでしまった。
でも、いつの間にか人の獣道が消えていて、完全に迷子になって、遭難してしまったんだ。
不安で押しつぶされそうだった。
だから、二人で励まし合うように歌いながら歩いたんだ。
でも、不安は消えない。拭えない。一度湧き出てしまったものは、抑えられなかった。
「お前が、もっと大きいの捕まえようって言うから、こんなになったんだ」
言ってしまった。出てしまった。破裂してしまった。
「それなら、^s!9だって「どっちが大きいの先に捕まえられるか勝負だ」って言ったじゃん」
どっちも、限界だった。
薄暗くなり始めている山の中で、積の押し付け合いが始まった。
「お前が」「君が」「君のせいで」「それはお前が」
山にこだまする、不毛な口論。日が沈み始め、状況は悪くなる一方だった。
口論は、次第に喧嘩に変化していった。
「お、おい、そろそろ、やめよう」
どちらかが言った。どちらも思っている事だった。
いつの間にか、真っ暗になってしまっていた。
得体の知れない鳴き声と、なにかの蠢く音がする。
そこから、恐怖と静寂と歩き続けた。
「ねえ、あれってもしかして」
先に、希望が見える。
「誰かが探しに来てくれたんだ!」
明かりと僕たちを呼ぶ声がする。
「良かった!全く、^s!9が奥に行こうって言うから、こんな事になったんだ」
安堵と怒気が湧いてくる。
「お前が言ったんだろ!」
つい、手が出てしまった。周りも確認せずに。
この時、一瞬でも気にしていれば…
「えっ」
君の最後の言葉はそれだった。
次の瞬間、君はもう居なかった。いや、いなかったのではない。落ちてしまったのだ。
僕たちの立っていた場所は崖っぷちだった。
ただ、君の落ちていく音が聞こえた。
絶望が目の前に広がっている。
後ろから、大人の声がする。
「おーい、^s!9、ka%@どこだー、返事をしてくれー」
枯れた声が僕を呼んでいる。
「うわあああああ」
それは、慟哭だった。安堵と絶望と悲しさで。
「そこにいるのかー^s!9、ka%@無事かー?」
枯れた声は泣き崩れる僕と木に引っかかってる君の靴を見て、顔が真っ青になっていた。
「まさか、落ちたのか?ここから?おい^s!9、大丈夫か、Ka%@はどこだ?」
ここで、真実を言えていれば僕は…
「ka%@がああ、あしをすす、すべらせて、うぇっ」
心が軋む音がした。君の命より、僕は保身の為に
「そうか、そうか辛かったよな、お前だけでも、無事で良かった。さあ、帰ろう」
青ざめた顔と震える手で、必死に僕を慰めてくれている。
「じつっ」
実は、と口から吐き出しそうになる。慰めが、さらに心に罅をいれる。
そこからは、おじさんと一緒に二人で山を降ったことだけ覚えている。
1年、5年、10年と時が経つごとに、その一回とあの告白への逡巡が段々と、心の罅を広げていった。
あれから、夏が来るたびに思い出す。
忘れられないあの夏を、忘れたいあの夏を。
13回目の夏 君を落としたこの場所で
償いと、この真実を遺して
割れた心と消えるため。
20分ほどで書いた適当な作品です。作品というのもおこがましいほどの出来です。もっと、設定を練ったもの作りたいね。