<陽光の剣士>、沈む
この一話のみ、別行動を取る<陽光の剣士>&<大賢者>視点の話となります。
「…………」
不本意ながらいけ好かない<大賢者>と行動を共にする羽目になったワタシは、右手に握った<陽光の剣>が放つ微かな光を頼りに、無言で真っ暗闇の道を進んでいた。
ちなみに詳しい目的地は不明。一体どこへ向かっているのかを知るのは、肩に乗るウサギ姿の<大賢者>だけである。
(<大賢者>曰く、この状況を打破する方法があるらしいけど本当かしらね? 正直、あまり信じるに値しないけど……)
ワタシのそんな懸念を察知したのか、<大賢者>はやっと説明する気になったらしい。
「これからしようとしているのは所謂蓋を閉める行為よ~。つまり、今こうして周囲を覆い尽くしている”黒き焔”を無力化するつもりなの~」
「そんなこと出来んの? どうやって?」
「簡単に言えば”マナ”の流れの点穴を突いて原形を留めさせられなくなった後、強大な”結界魔術”で封じ込めようとしてるわけ~」
「……さっぱり分からん。でも、要はやりようによっては何とかなるってこと?」
「えぇ~。要所要所に”黒き焔”の”マナ”が色濃く漂う場所があるから、そこさえ何とか抑えば【焔魔地帯】は元の景観を取り戻すでしょうね~。ならその様子を直にお見せしようかしら~」
どうやらいつの間にか<大賢者>が示した場所に到着していたらしい。
ワタシの肩から降りた<大賢者>はどこからともなく杖を出現させると、それを勢いよく地面にぶっ刺した。するとその杖に吸い込まれるように周りのドス黒いモヤみたいな空気が集約を始める。その拍子に黒一辺倒だった視界が少しずつ晴れていき、ぼんやりとではあるが【焔魔地帯】特有のゴツゴツとした岩が目に入った。
「はい、こんな感じで一丁上がりよ~。まだ”黒き焔”が霧みたいに残ってるけども、肝心の”マナ”の核を取り除いたから少しすれば完全に消えると思うわ~。これで分かったかしら~? ”封印魔術”の達人たるこの<大賢者>の素晴らしさが~」
「……遺憾だけど、ワタシじゃ不可能なことをやってのけた以上、流石だと言わざるを得ないわ」
「でしょ、でしょ~! ほ~ら、やっぱり同伴して正解じゃない~! <陽光の剣士>、『付いて来て下さり誠にありがとうございます。一生ワタシの助けになって下さいませ、<大賢者>様~!』は~?」
「調子に乗んな!」
ワタシは小動物の頭をド突き、その首根っこを強引に掴む。
「どうせまだ何ヶ所かで同じことをする必要があるんでしょ? 『付いて来て下さり誠にありがとうございます。一生ワタシの助けになって下さいませ、<大賢者>様~!』」
「ちょっと~! 全く気持ちが入っていない上に、捉えようによっては<陽光の剣士>の代わりに働きなさいって言われてるみたいなのだけども~!?」
「さぁ、そうと決まれば善は急げよ~! 出発進行~!」
「は・な・し・を・き・い・て~!」
<大賢者>は何故か青ざめた表情をしているが、気分でも悪いのだろうか? でもあの偉大な<大賢者>様に限ってはそんなことはないだろう。
ワタシは何の気兼ねも抱かないまま、少し明るくなった【焔魔地帯】を進むのだった。
●
<大賢者>の言葉に対する杞憂が無くなった今、その後の作業は滞りなく進んでいった。そしてとうとう、
「きっと次が最後ね~。でも~……」
「最後の最後で関門が立ちはだかると……。まぁ大体予想通りだけども」
「不思議なものね~、あの感じだともうここには居ないと思ったけども~?」
「それは無いわ。今まで類を見ないワタシという強者を見つけた以上、再戦を望んでいたことだろうし」
「……戦闘狂の考えることはよくわからないわ~」
「理解出来なくて結構。戦いに身を置く者同士でしか通じない武人の心意気っていうヤツよ?」
「武人~?」
プッと吹き出しそうになる<大賢者>を無言で見つめ黙らせる。そして気を取り直し、<陽光の剣>に手を添える。
「ともあれ、アイツの相手はワタシに任せて。その間にアンタは今まで通り――」
そう<大賢者>に指示を出す前に彼女がこちらを認識し、一気呵成に飛び込んで来た。
数時間振りの熱に顔が歪む。
「相変わらず不意打ちしか能がないわねー! もっと心落ち着かせて相手と向き合うっていう気概はないのかしら?」
「……そんな物ではフーリの心は満たされない。……このフーリを満足させるのはただ一つ。……<陽光の剣士>の本気だけ」
バチィン!、という音と共にワタシと彼女の剣が交わり火花を散らす。
その斥力にワタシの足が若干押し込まれる。
(相変わらずの”マナ”質量……いえ、今まで以上だわッ! ここで終わらせる気満々ってこと!?)
一度は見逃されたけど、それはあくまで彼女の気まぐれに過ぎない。でも二度目は無い。きっとここで正真正銘の決着を付ける腹積もりなのだろう。
彼女――<火の大精霊>の情熱的な気迫に辟易しつつ、ワタシは<陽光の剣士>たらしめる力を振るう覚悟を決める。
その結果、エメルダちゃんの可能性を潰すことになろうとも――だ。
(正直な所、エメルダちゃんに何かしらの力を備えさせることは大いに反対。例えどんな事情や理由があろうとも)
当然、当の本人の意見を尊重したいし、彼女自身に自衛の手段を持ってもらいたいという想いもあるけれど、それを差し置いてもエメルダちゃんには戦場に立って欲しくは無い。
多分きっと、力を得たエメルダちゃんは自分のことは一切顧みず無理や無理をするだろうし、力を持つということの責任も負わせたくもない。
(けど、ワタシのそんな願いとは裏腹にエメルダちゃんの未来は過酷だわ。あの娘は何があっても<四大精霊>と”主従契約関係”を結ばなければならないというのに、最後の最後で戦うことでしか相手を説得出来ないのだから)
今現在エメルダちゃんはそんな相手に対抗すべく武力を探しに行っている。残念ながら別行動となったとはいえ、あのデカ猫が付き添う以上何かしらの成果を挙げていても何らおかしくは無い。もしかすると何かしらの力を持って来るかもしれない。
でも、ワタシは力を得て<火の大精霊>と対峙するエメルダちゃんの姿なんて見たくはない。
(ならいっそのこと――)
ワタシが全てを解決してしまえばこの憂いは無くなるのではないだろうか?
(ごめんね、エメルダちゃん……。これも全部アナタの為なの……。どうかワタシのワガママを許して欲しいな……)
●
刹那、強烈な音と共に一つの物影が【焔魔地帯】の岩肌に食い込んだ。
その衝撃によってグッタリと項垂れる一人の少女――<火の大精霊>がこちらを睨み付ける。
「……何だこの明確な力の差は? ……しかも左手も使わずに」
「当然よ、ワタシを誰だと思っているの? こちとら右手しか使わないという言わば手加減をしていても尚、【神都】一の剣士なのよ? ある意味でこれが世間一般的に知られているワタシの実力だわ」
「……いや、それだけが理由じゃない。明らかにさっきとは重みが違う。……一体何?」
「想いの強さ――つまり、ここの強さよ」
ワタシはとんと胸元を叩く。
すると<火の大精霊>は呆然と立ち尽くす。ワタシは肩を竦め、
「信じられないのも無理はないでしょうね。だってこの力はワタシ達人間にしか引き出せない唯一無二の可能性に満ちたモノなんだからさ。……アンタと違い、ワタシには戦わないといけない理由がある。ただ闇雲に剣を振るうだけの能無しに負けてやる道理は無いってことよ」
「……その理由とは?」
「教えてやる義理も無いわ。そもそも、それは誰かに強要されるモノでも、誰かの模倣をするモノでもない。極論、自分自身の中にしかないのよ! だからアンタの世話はアンタがやんなさい! 無関係の周りを巻き込むな!」
「……それが出来たら苦労はしないッ!」
<火の大精霊>は声を荒げ乱雑に剣を振るう。その悲痛に満ちた顔はやはり、昔のワタシと重なる。だからこそフーリの気持ちは良く分かる。
(そうよ、それは自分で考えて簡単に答えを出せるモノじゃない。かくいうワタシだって、自分一人だけじゃ答えを見出せなかったクチだ。だからこそ、彼女がワタシの二の舞にならないよう与えなければならない。ワタシが”聖天十二大戦”の最中、戦う意味を見出したキッカケとなった屈辱的な敗北と同じ悔しさを――)
一度自暴自棄的に暴れ回る<火の大精霊>を引き離したワタシは”陽光の剣”を鞘に収める。そして精神を鎮ませ、剣に左手を添える。
その瞬間、ワタシの手から強烈な光が放たれ、周囲を覆い被さる闇が一気に晴れる!
「……来なさい、<火の大精霊>! お望み通り、真の<陽光の剣士>の力を見せてあげる。だからアンタも本気を出しなさい。じゃなきゃ、その凝り固まった詰まらない価値観を叩き斬ることは無理よ!」
「……いいの? ……本当にフーリのことを救ってくれるの?」
どうやら<火の大精霊>はワタシの行動の真意に気付いたようだ。
「野暮ったいわね! 元々ワタシは<神刈>であるアンタをどうにかする為にここに来た! だからつべこべ言わずにワタシにやられなさい! これが同じ穴のムジナに出来る精一杯の誠意よ!」
「……そうか、ならお言葉に甘えて胸を貸して欲しい」
成すべきことを定めた<火の大精霊>は瞳を潤ませつつ、一度はワタシを追い詰めた”黒王”を顕現させた。
「……ありがとう。……どうかフーリの行く末を切り開いてくれ!」
そして<陽光の剣士>と<火の大精霊>の全力全開がぶつかり合う――
「何清々しい顔をしてんだ、この快楽殺人者共が……ッ!」
筈だった。
「「――――」」
どちらかというと他人から発せられる敵意に敏感であろうワタシと<火の大精霊>であったが、その人物――奇抜で妙に目や口の造形が厳つい虎の被り物をする少女の急襲に全く勘付けなかった。
「貴様らみたいなゴミに生きる資格はない! さっさと俺達の世界から消え失せろ!」
その後の展開はお察しの通り、ワタシ達はその少女の何てことない徒手空拳によって為す術無く沈められたのだった。




