戦う為の力を求め
『<無魔力の忌み子>に武力を与える』。まるでエメルダちゃんを前線に立たせる様な言い方をするデカ猫をワタシはきつい眼力で睨み付けた。
しかしデカ猫は澄ました顔を貫く。
『<火の大精霊>はここ【焔魔地帯】で必ず食い止めねばなりません。その為に<無魔力の忌み子>には戦って貰う他ありません』
「あら~? お言葉ですが、ついさっき撤退することに賛同して下さりましたよね~? 何故いきなり御心変わりを~?」
『強いて言えば<陽光の騎士>が<火の大精霊>のことを昔の自分と重ねたから、ですかね。もしそれが本当ならあまりにも危険過ぎます』
まるで以前のワタシが危なっかしいみたいなこと言われてしまった。思わず不満気に口を尖らせるが、先程の<大賢者>の時と同じく、これもこれで正論だったので反論できなかった。
そんな言葉を返せないワタシとは対照的に、<大賢者>は納得していない様子だ。
「では仮にそれに向け行動した場合、具体的にどう<無魔力の忌み子>に力を~? 提案した手前、何か当てがあったりするのですか~?」
『少し前<大賢者>が仰った通り、ここ【焔魔地帯】は<炎神>ヴァ―ルの本拠地でもあります。そしてそんな<炎神>のもう一つの名は――』
「あ~、成程~。それなら確かに可能性がありますね~」
どうやら<大賢者>は全てを悟った様子。
ワタシと同様に何を言っているのかさっぱり把握できていないエメルダちゃんが困った様に声を出す。
「あの……お二人だけで話を進めないで欲しいのですが? もう何が何だか……」
「そうよ。ちゃんとワタシ達にも共有なさい」
「わかったわ~。ならまず結論だけ言うのなら、<炎神>――別名<鍛冶神>が残した武器を少しばかり拝借しようって魂胆ね~」
「「武器?」」
思ったよりも単純な話に、ワタシとエメルダちゃんの声が重なる。
それでもエメルダちゃんは困惑の色を隠せていなかった。
「正直な所、それで効果が見込めるとは到底考えられません。そもそも生まれてこの方武器なんて物を握ったこともありませんし、私めでも扱える得物があるとも思えませんし」
『それを確認するのも目的の一つです。またそうで悲観せずとも<鍛冶神>が作った武器は誰にでも使える品ばかりです。何せ<鍛冶神>の武器は魔力や”マナ”の概念が存在しないずっと昔から存在していたのですから』
「なら魔力を持たないエメルダちゃんでも振るえる武器が眠ってるかもってこと?」
「だからこそ、ダメ元で<鍛冶神>の工房にお邪魔する分には構わないと思うわ~」
「……まぁ見るくらいだったらいいか。けど、この真っ暗闇の中その工房とやらに辿り着ける? 今はデカ猫が発光してるから何とかなってるけど、流石に限界があるじゃない?」
『それについては問題ない』とデカ猫と<大賢者>はハッキリと返した。
『某は元々<陽光の剣>という武器の守護霊。だからこそ<鍛冶神>という偉大な神が打ったであろう武具の気配は何となく掴めます』
「そしてこの暗黒についてはこの<大賢者>の腕の見せ所よ~。こうなるかもしれないと予想して正解だったわ~」
「デカ猫の言い分はわからんでもないけど、アンタの言葉は全然信用ならないわね。まさかこの闇を払えるとでも?」
「そう言ってるじゃない~。詳しい話は今は省くけど、恐らく不可能じゃないわ~」
「ってことは、もしかしてこれからは二手に別れるべきかしら? デカ猫組と<大賢者>組でさ」
そうと決まれば行く方は一つ。ワタシは同行する二人に声を掛ける。
「デカ猫、早くエメルダちゃんとワタシをそこに案内なさい」
「え゛~?」
特段変なことを言ったつもりは無いのに、<大賢者>はわなわな愕然と震え上がっていた。
それを見てキョトンと小首を傾げる。
「? 何よ、<大賢者>? 濁った声なんて出して」
「いやいや~、どう考えても<陽光の剣士>はこっち側でしょ~?」
「え? 何甘ったれたこと言ってんのよ? もしかしてウサギだけに独りぼっちで寂しいと死んじゃうとか言わないでしょうね?」
「そんな訳無いじゃない~!? この身体じゃ動くのすら不自由だから、せめて目的の場所まで運んで欲しいわ~。<陽光の剣士>、肩に乗せて~!」
駄々をこね、地面でのたうち回る<大賢者>はあまりにも不憫だ。
ワタシは大きな溜息を吐きつつ全てを諦め、乱暴に<大賢者>の首根っこを掴む。
「しょうがないわねー……。デカ猫、そういう訳だからエメルダちゃんのことは頼んだわ。いい? ちゃんと何があっても護りなさいね?」
『言われるまでもありません。では早速向かいましょうか、<無魔力の忌み子>』
「はい、よろしくお願いいたします」
そんな一旦お別れの言葉の後、デカ猫は颯爽と駆けていった。
結果、光源を失った真っ暗闇の中でワタシは、
(『こうなるかもしれないと予想して正解』だって? それが本当ならコイツはどこまで予測してるってのよ……?)
手元でぶら下がる<大賢者>に怪訝の顔を向けるのだった。




