<神器>”黒王”
「――――ッ!」
何とも懐かしい過去を見ていたような気がしたが、不意にワタシは意識を覚醒させる。
すると、いつの間にか頬に痛みが走る。どうやら思い出話に耽っていた間にも<火の大精霊>との戦闘は続行されていたみたい。
(だらしない! 死闘の最中呆けてたなんて! 下手したら知らぬ間にやられてたわよ!?)
ワタシはまだ朦朧としている脳内に喝を入れつつ、戦闘に集中し直す。
ワタシと<火の大精霊>の剣が互いに衝突し合い、光と焔が迸る。大丈夫、まだ何とか耐えれそうだ。
そして所謂均衡状態に入ると、<火の大精霊>は不機嫌そうに声を漏らす。
「……しぶとい。……さっき<陽光の剣士>は自分が弱いって認めたよね? ……ならフーリの邪魔をしないでよ」
「それは無理な相談ね。アンタの指摘通り、魔力が乏しくてもワタシが<陽光の剣士>であることに違いない。この名を呈する以上、それに見合った仕事をしないといけないのよ」
「……要は意地張ってるってこと?」
「そうかもしれない。ワタシが<陽光の剣士>を名乗ってるのはある意味で自分本位の理由だったりするしね!」
「……なら、どうして本気を出さないの? どうして利き手を使わないの?」
<火の大精霊>は何でも知ってると言わんばかりに語りだす。
「……こう見えてフーリは、剣を交えるだけで相手の力量がわかる」
「だから”陽光の剣”が手強くて、ワタシは大したことないって気付けたと?」
「……そう。……だけどその判断に違和感があった。……そして思い出した、<陽光の剣士>の本領はその左手にあるということを」
<火の大精霊>の言葉に不信感が募る。
「……アンタ、ソレをどこで知った? そのことを知ってるヤツはそう多くないんだけど?」
「……聞いたのではなく、個人的に興味があったから独自に調べ上げただけ」
「それは何とも酔狂なこって……。アンタ、もしかして人間の歴史に興味ある系女子だったりする?」
「……それもあるけど、フーリが特に知りたかったのは真なる強者の生き方。……特別な力を持ち、どんな逆境にも立ち向かったニンゲンの立ち振る舞いを知れれば参考になると思っただけ。……でもそれは無駄足だった。……誰もフーリに答えを示してくれなかった」
だらだらと意味不明の自分語りをする<火の大精霊>の口振りに辟易としていると、彼女の周辺にメラメラとドス黒い気が立ち込める。するといきなり、何とも形容し難い吐き気が襲った。
その見た目はまるで黒色の焔だ。熱さの他に身の毛もよだつ不気味さすらも感じさせるそれこそ正に、噂に違わぬ……
(とうとう<大賢者>が言ってたアレがお出ましね……ッ!)
<神器>一振りだけでも厄介だというのに、<火の大精霊>にはもう一つの秘策を持っていた。それは触れた物を全て焼き尽くす業火とされる邪悪な力こと――
「それが【獄園】由来の”黒き焔”? 直接触ってもないのに物凄い火力。近くにいるアンタは平気な訳?」
「……そんなわけない。……この焔はフーリの中で永遠に燃え続け、この身も心も蝕んでいる。……つまりこの力は<神>から押し付けられた呪いに他ならないんだ」
『呪いだなんてそんな大袈裟な』。そう一蹴してやりたかったけど、既の所で押し留まった。かくいうワタシだって、左手の力――”陽光の剣”を扱える異能を天から授かったことを怨んだ回数は数えきれないくらいあったんだし。
(……ってことは、ワタシと<火の大精霊>は自身の意思とは関係なく良く分からない力を授かって、そのせいで苦しんた点は同じってこと? ならやっぱりワタシの予想は当たったってことか)
きっと<火の大精霊>は、身の丈に全くそぐわない強大過ぎる力の振りかざし方を知らず、行き場の無い力を不作為に振るうことしか出来ないんでしょうね。そしてその矛先が<神>へと向かい運悪く勝ってしまったからこそ、もう後戻り出来ないでいるんだ。その様子はまるで”聖天十二大戦”に巻き込まれた頃のワタシと瓜二つである。
(ならコイツを改心させるのはワタシが適任ね。もしかして<大賢者>はここまで見越してワタシを頼ったのかしら? ……まぁ今はそんなことどうでもいいか。どうせやるべきことは変わらないんだし)
「――来なさい、<火の大精霊>。アンタの全力全開、この<陽光の騎士>が受け止めてやるわ!」
「……それは無理。……フーリの苦痛は誰にも救えない。……もう全てを”黒き焔”で包み込むしか道は残ってないんだ」
<火の大精霊>がそう静かに言い放つと、彼女の手に”黒き焔”が集合。すると流動性の焔が一つの物体に固まり、柄から剣先まで真っ黒に染められた一本の剣に変貌を遂げる。
「……さようなら、<陽光の騎士>。……フーリのもう一つの<神器>――”黒王”の闇に沈んで」
<火の大精霊>が<神器>”黒王”で薙ぎ払った瞬間、目の前の世界が一瞬で暗闇に堕ち、それに飲み込まれるかのようにワタシの意識は溶け落ちたのだった。




