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陽光に手をかざし

 ――脳裏に浮かぶは、ワタシ(サンディ)という左手しか魔力を宿さぬとても弱い存在が、”かの戦争”で勝利を納めた過去の記憶。

 ワタシの決死の一太刀によって、その<最後の対戦相手>を見事打ち払った。その者はもう動かない。これで、晴れてワタシは”その戦争”のたった一人の勝者の証である<聖天十二神王せいてんじゅうにしんおう>の名を手にした。


「――――」


 勝利を得た後であったのにも関わらず、ワタシは呆然と立ち尽くす。最低でも、唯一の生き残りになったことに対する喜びや感慨深さは全く無く、『これで本当に終わりなのか?』という虚無感に襲われた。

 何はともかく、嬉しくもなく悲しくもなく、ただただ喪失感に(さいな)まれたワタシの元に一匹の金色に輝く獅子が歩み寄る。


『おめでとうございます、<陽光の剣士>。これで名実共に最強の剣士と成りましたね』

「……このワタシが最強? バカも休み休み言いなさい、デカ猫。そんなしょうもない<二つ名>を得る為にワタシが何を犠牲にしたと思ってんの? こんなこと――ワタシなんかよりもずっと強くて立派な信念を掲げた<彼女達>の未来や希望を断ち切ってまでして手にした称号に一体何の意味があるのよ? どうしてこんな最弱なワタシが勝ち残ったの!」


 だからといって、わざと負けようとしたり一切勝つ気が無かったという訳ではない。ワタシ自身、<この戦争>で勝たなければならない理由があったのも事実だ。

 そんなワタシが気に喰わないのは、ワタシが今まで剣を交えた相手は全員、ワタシなんかよりもよっぽど強く気高き剣士であったのにも関わらず、()()()ワタシに敗れてしまったことにある。

 ワタシの(いきどお)りの居所を知るデカ猫はゆっくりと(さと)す。


『<陽光の剣士>が勝ち続けたのは決して偶然ではありません。誰よりも鍛錬を積み、そして負けた悔しさすらバネにした反骨心が<陽光の剣士>を勝利に導いたのです。そう自分を卑下(ひげ)せず、もっと自信を――』

「黙りなさいッ! そんな風に正当化するなッ! ワタシは最後の最後で大切な者すら斬り伏せたのよ……? ワタシの手はもうこんなにも朱く染まってしまったわ……」


 未だ先程の一刀で飛び散った血が剣の切先と手に張り付いている。

 この惨状を目にし思わず泣きそうになるが、みっともないので涙が流れるのだけは必死に(こら)えた。

 行き場の失った感情を(くすぶ)らせる中、デカ猫が現実を叩き付ける。


『残念ながらこれが戦争――”聖天十二大戦せいてんじゅうにたいせん”の現実です。<陽光の剣士>の気持ちがどうあろうと受け入れて貰う他ありません。それに<陽光の剣士>が勝たなければ今頃……』

「皆まで言うな! わかってる……流石のワタシも世界の命運を託された状態で負けてやる義理なんて無かったわよ……」


 だが例えそうだったとしても、勝ってすぐ気持ちを切り替えられる程の余裕は皆無。とにかく心身共にとてつもなく疲れてしまっていて正常な判断が下せない。

 そして間接的ながらも、ワタシと”主従契約関係”を結ぶデカ猫もデカ猫で大きな溜息を吐く。


『何はともあれ、戦争は終わりです。今後の身の振り方については追々にして……と言ってもそう簡単には割り切れませんか』

「見くびらないで。ちゃんと飲み込んで前向いて生きるつもりよ。アンタの言う通り結果は結果。例えどんなに相応(ふさわ)しく無かろうと<聖天十二神王>の名を背負うわ。せめて道半ばで破れていった同志達の無念を受け継ぐ為にもね」


 こんな決意を(あらわ)にすると、いつの間にか周囲の陽光が差し込み全身を照らした。

 するとデカ猫の凛々しい表情が(やわ)らぐ。


『ふふ、まるで<陽光の剣士>の誕生を祝福するかのようですね』

「違うわよ、『ずっとオマエのことは監視してるぞ』ってお天道様から忠告されてるだけ。あぁ~あ~、変なデカ猫のせいで一生恨まれる人生を送る羽目になったわー。この件、どう責任取ってくれるわけ?」

『そんなの知りません。そもそも<陽光の剣士>が誠実で真面目で立派で堂々としていれば、憎まれることもなかったのではありませんか?』

「はいはい、どうせワタシの素行(そこう)は最悪ですよーだ! アンタも災難ね、こんなワタシと契約結んじゃってさ?」

『そんなことはありませんよ。ニンゲンの持つ可能性をもう一度見させて貰いましたからね』


 挑発してやったつもりが、逆に褒められてしまった。


(何よ? そんな風に言われちゃ言い返せないじゃない。ワタシはアンタのせいで面倒な闘いと宿命を押し付けられて超絶後悔してるってのにさぁ……。まぁ過ぎたことを今更文句垂れるのは野暮かしら)


 ワタシは面倒臭そうに後ろ髪を掻きつつ、ボソッと(つぶや)く。

 

「確かにアンタのせいで厄介事に巻き込まれたけど、ワタシの殻がほんのちょっと破れたキッカケにもなったわ。左手にしか”マナ”が無くても世界は救える。きっとこれから先、ワタシはちっぽけな無価値のままだろうけど、せめてこの手で誰かを助けられたらいいなと切に願うばかりだわ」


 ワタシは天から伸びる陽の光に左手をかざす。

 そしてその後、ワタシの意識は元居た現在へと引き戻された――

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