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<陽光の剣士>vs<火の大精霊>

「「……」」


 何の前触れも予告もなしに、ワタシは例の討伐相手と(にら)みをきかせることとなった。その際、顔中に流れる汗がさらに増える。


(彼女を前にした瞬間、周囲の温度が一気に上昇したわね。そりゃそうか、全身に炎を(まと)ってるもの。勘弁して欲しいわ、暑いのは苦手なんだからさ)


 内心不快感に(もだ)え苦しむ中、それを虚勢で覆い隠すように声を張り上げる。


「お出迎えご苦労! まさかあんな祝砲で歓迎してくれるなんてね! 人違いだと失礼だから一応聞くけど、アンタが<火の大精霊>フーリ?」

「……いかにも。……そちらこそ<陽光の剣士>?」

「ありゃ? もしかしてワタシのこと知ってるクチ? それは光栄と返してあげた方がいい?」


 見た目の熱量とは裏腹に、その口調はどちらかというと物静かそのもの。何だか調子が狂うわね……。

 ワタシの不調はさておき、<火の大精霊>はさも驚いた表情をこちらに差し向けてきた。


「……やはり噂通りの力量の持ち主。……このフーリの初段が(さば)かれのは今回が初めて」

「あらそう? 悪いことしたわね」

「……別に謝らなくていい。……今まで相手取った<神>達がただ弱かっただけ」

「ふ~ん、大口叩くじゃない? でも無理もないか。相手が慢心・油断してたから運良く手玉に取れただけであっても、結果だけ見れば勝ちは勝ちだもんね。気が大きくのなるのも(うなず)ける」


 ワタシがわかったかのような口振りをすると、周囲の温度がまたもや上昇する。だから急に暑くしないでってば!

 そんな気温の変動と連動するように、<火の大精霊>の声色にも熱がこもる。


「……それはニンゲンなりの冗談? ……まさかフーリが<神>を負かしたのは偶々(たまたま)とでも?」

「バカねぇ、アンタの戦い振りを直接見てないんだから判断しようは無いっての。でも一つだけ確かなのは、アンタの器は思ったよりもすっごく小さいってことよね」

「……どういう意味?」

「だからさぁ、さっきの奇襲といい、ちょっと<神>に勝てたくらいで自分が強いと勘違いする様が浅ましいって――」


 刹那、周囲の気温が再び燃え盛り、その拍子に熱風が押し寄せる。

 熱に当てられ目元の汗腺(かんせん)が爆発。すると目元に汗が垂れ、視界が(かす)れ遮断される。


(ぁつ、これはマズい……ッ!)


 ほんのコンマ数秒でも意識が中断されることは命取りだということはついさっき確証済みである。

 例え(あらかじ)め予測し事前に構えられたとしても、アイツの急襲(きゅうしゅう)は軽く無い!

 ちょっと目を離した隙にいつの間にか姿を消した――正確には凄まじい速さでこちらに近付いた――相手の突進に備える。その後、ワタシと<火の大精霊>の剣が衝突し合い、(つば)()()いに発展する。


「アツイアツイ! アツイってばぁあ! ちょっとその火照(ほて)った身体のままこっち来ないでくれる!?」


 ここ【焔魔地帯(えんまちたい)】は普通に立ってるだけでも嫌気が差すというのに、それに加えこの人体アツアツ女に接近されたらそりゃもうさながら岩盤浴状態である。岩盤浴を体験するならもっとちゃんとした所で落ち着きたいな!


「あぁ、もう! しゃらくさいぃ! あっち行きなさい!」


 我慢ならず<火の大精霊>を突き放す。そして再び距離を取り合う。

 こう何度も迫られたらこっちの身体が保たないんだけど?、と言った具合に大きく息を吸う|(ちなみにこうして肺の中に入れる空気は熱くて(たま)らない)と、<火の大精霊>はクスリと嘲笑する。


「……あれだけ挑発していた割に余裕が無さそう。……本当はフーリのことを脅威に思ってる」

「んな訳ないわ、ちょっと熱くて調子が出ないだけ。逆にアンタくらいの相手だったらこれくらい手を抜いてあげた方がいいんじゃない?」

「……この期に及んでまだフーリのことを下に見てるの? ……ならさっき言われた言葉をそのまま返す。……その慢心・油断こそが生死を(わか)つことを証明しよう」


 相変わらず口調は穏やかな癖してその中身は全然穏便じゃない。突如(とつじょ)としてフーリの周囲の空気が蒸発し始める。


(こりゃ少しばかり調子に乗り過ぎちゃったわね。<火の大精霊>の眠れる本質はこんな感じかー……)


 すると、背中にドッと脂汗が噴出する。これはきっと暑さのせいじゃない。それと同時に口からは苦笑が漏れる。


(えぇ、えぇ、そうですとも! ワタシはアンタに虚勢を張ってました! ちゃんと、()()で接するべき相手だと考えてましたとも!)


 ワタシは汗で滑る"陽光の剣"をしっかりと握り直し、そのまま居合の体勢を取る。

 そうしている内に<火の大精霊>が持つ剣の元に業焔(ごうえん)の如き”マナ”が集合する。最終的に細身の剣が大剣の様を成すにまで至った。


「……見よ、これが<神器(じんぎ)>”焔王(えんおう)”の力だ」


 <火の大精霊>は見るからに巨大な大剣を軽々しく振るう。

 ゴォッという爆音と一緒にとてつもない熱量と焔の刃が襲い掛かり、空気が裂ける。

 実際に触れずとも肌が焼け落ちそうな勢いでありながらもワタシは一歩も引かなかった……否、引けなかった。何せ後ろにはエメルダちゃん|(とついでに<大賢者>とデカ猫)が控えてる訳だから、ここで<火の大精霊>の力を防ぎ切るしかない。


(相変わらず損な役回り……。でもまぁ、これが<陽光の剣士>の成すべきことなら全力でやるっきゃないわね!)


 ワタシは即座に精神を統一。そして、


『”陽光を(つかさど)るマナよ、我に悪しき焔をも打ち払う力を与えたもれ”』


 魔術詠唱をした(のち)、右手で"陽光の剣"を抜く。


「――”(れつ)一閃(いっせん)”!」


 相手が神の焔の力を振るうならこちらは太陽の加護が与えられた光の力を振るうまで。

 ワタシの方からも発せられた"陽光の剣”の一振りが”焔王”と衝突する。

 その瞬間、周囲に熱気と光が(あふ)れ爆風が発生。

 チラリと背後を向くと、デカ猫が必死で踏ん張っていたのが見れた。なら後ろの三人については心配無いだろう。


「…………」


 爆発の余韻(よいん)が収まるのを待つこと数秒。徐々に薄れ行く光と粉塵(ふんじん)の奥から<火の大精霊>が感嘆の声を発す。


「……驚いた、<神器>の一撃すら防ぐなんて。……その要因は<陽光の剣士>自体の力? ……いや、違う。……その剣が特殊なんだ」

「あんまり相手に情報売りたくないんだけど、この際そんな配慮はどうでもいいわ。その推察通り、ワタシは何てことない無魔力当然の剣士に過ぎない。でもアンタの攻撃を二度もいなせたのはこの剣の特性あってこそよ。その真相については……やっぱ教えるの辞めよ! なんでわざわざ敵にお節介すんの、ワタシは?」


 危うく余計なことを喋ってしまいそうになったおいたが過ぎる口を塞ぎつつ、咳払いを一つして気を取り直す。


「ともかくまぁ、この剣を攻略しない限りアンタはワタシに勝てっこないわ」

「……それはそちらも同じ。……今の所<陽光の剣士>自身に恐怖を感じない。……そうか、フーリは勘違いしてた。……<陽光の剣士>が強いんじゃない。……あくまで”陽光の剣”()()が厄介なんだ」

「…………」


 <火の大精霊>の言葉が心にチクリと刺さる。その不愉快の原因は正しく図星を突かれたからに他ならない。

 それでもワタシは怒りを覚えなかった。逆に自虐的に笑ってしまう。


「そうよ、その通りよ。ワタシなんて所詮(しょせん)ちっぽけな存在だ。ワタシ個人には一切の価値はない。そもそもな話、<陽光の剣士>――()いては<聖天十二神王せいてんじゅうにしんおう>なんてモノになってしまったあの時から、ワタシの人生はメチャクチャだわ……」


 ワタシはあの時から脳裏にこびり付く過去を恨めしく忌々しく思い、奥歯を強く噛み締めるのだった。

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