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強襲

 デカ猫の能力の理屈は何一つとして理解できない。

 けれども一つ確かなことがある。デカ猫はワタシが知る限り、最も速い俊敏(しゅんびん)の持ち主だということだ。

 そう。大雑把に世界の中心付近にある【コミティア】から世界の端に位置する【焔魔地帯(えんまちたい)】に体感時間数秒で到着出来るくらいにだ。

 しかし、本来地道に進むべき過程を裏技さながらにすっ飛ばせば、それ相応の負荷が掛かっても何らおかしくない。残念ながらワタシ達一行はそのツケを支払う羽目となった。


「――うっはぁ~あ! 急な速度で移動したから脳がズキズキする~!」

「ケボッケボッ! サ、サンディ様! こういったことになるのなら事前にお伝えください! うぅ……少々吐き気が……」

「そうよ、そうよ~。はやる気持ちもわかるけど、あんなせっかちに行動する必要はあったのかしら~?」


 エメルダちゃんと<大賢者>の文句も無理はない。それでも最短最速で【焔魔地帯】に向かった判断に間違いは無かった。どうやらワタシの予感は的中みたい。


「<大賢者>、デカ猫……警戒なさい。恐らくもうワタシ達の存在は感知されてるわ。いつ奇襲されても対応できるように身構えておきなさい」


 ワタシの一言に、<大賢者>とデカ猫の表情が一瞬で変わる。

 それでも<大賢者>は半信半疑のようで、


「まさか……とあしらってあげたい所だけど、こういう時の<陽光の剣士>の勘は良く当たるのよね~。もしかして<火の大精霊>が事前に待ち構えていることを想定していたりしたのかしら~?」

「当然確信じゃないけどね。でも何となくわかるのよ、()()()()()()()()ね。そういう(やから)は基本さ――」


 ワタシが言葉を言い切る前に、デカ猫が小さく(うな)る。


『お話し中申し訳ありません。ここは何だか危ない匂いがします。周囲の環境がそうさせているのか、はたまた<火の大精霊>がそうさせているのか。ともかくここから移動します』


 デカ猫の忠告に思わず息を呑むが、一理ある。


「それもそうね。噂通り熱い場所だけど、比較的涼しい場所もあるかもしれない。ならまずは避暑地的な場所でも探しますか」


 その提案に全員が同意したことのを確認したデカ猫は歩を進めた。




 ●




「――こりゃワタシの見込み違いだったかな? どこかに現地民が掘った穴倉とか地下空洞があると思ったけどそんなの一切見当たらないわ」

「そりゃそうでしょ~? 元々【焔魔地帯】は人がいられるような場所じゃないんだから、暑さを和らげるなんて発想にもならないわ~。ここで『熱い!』だけで済んでる<陽光の剣士>と<無魔力の()み子>が異常ね~」

「でもそれはアンタの予測通りじゃない? やっぱり魔力に恵まれないワタシとエメルダちゃんはこの場所に耐性がある。……それでも、相当暑いのに変わりないけど」


 ワタシは持ってきた水の容器をまた一つ開封し、そのまま口を付ける。

 後ろのエメルダちゃんも同様に、全身流れっ放しの汗を布で拭い続ける。すると彼女はこんなことを尋ねてきた。


「そもそも【焔魔地帯】とはどういった場所なのですか? 見た所、火山のようなものが多いように見受けられますね?」

「その通り、ここ【焔魔地帯】は火山群で有名よ~。そしてもう一つ、ここが特別な理由は<神>の一柱たる<炎神>ヴァ―ルの住処(すみか)なんだわ~」

「<四大精霊>の近くには<神>がいる。……やはりここにも神様が?」

「えぇ~。でも、今は不在という報告を受けてるわ~。何せ彼女が最初の被害者――<火の大精霊>が起こす神刈事件の一人目の犠牲者とされてるの~」

「<火の大精霊>――フーリはどういった気持ちで親当然である<炎神>様に牙を()いたのでしょうか?」

「そんなの知っちゃこっちゃないわ。理由がどうあれ、<火の大精霊>が世界をハチャメチャにしてるのは事実。これ以上平穏を(おびや)かすなら許す気は無い」


 ……なんて言ったものの、<火の大精霊>はどこにいるのかしら? このまま歩き回るのは消耗が激しいから、早い所仕事を済ませたいわね。


「デカ猫、アンタがさっき感じた違和感は今でも?」

『えぇ、まだ消えていません。逆に強まっています』

「それについては同感。何だかこんな環境の中でも寒気が――ペクッチッ!」


 ワタシはこの場にそぐわない何とも間抜けで呑気なくしゃみをしてしまう。その拍子に気と視界が一瞬だけ途切れる。――その時だった。

 突然背後から熱と轟音が破裂する! 思わず振り向くとそこには巨大な火球が迫って来ていた!

 どうやらワタシはとんでもない失態を犯してしまったようだ。コンマ数秒の隙も相手は見逃さかったらしい。

 不味い! これでは一巻の終わりだ!


「――なぁんて、思ってたりする?」


 ワタシはニヤリと笑うと、デカ猫の背中から一気に跳躍。そして右手で"陽光の剣"を抜刀し、後ろから迫る火の玉を一刀両断する。


「ありがとう、まんまと誘いに乗ってくれて。探す手間が省けたわ」

「…………」


 結果、二つに裂けた球の間に降り立つワタシは雄々(おうおう)しい態度で、件の討伐対象――全身が朱く燃え盛る<火の大精霊>と対峙(たいじ)するのだった。

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