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『緊急招集命令』

※これから数話は<陽光の剣士>サンディ目線で物語が展開されます。よろしくお願いいたします。

 ここはこの世界の中枢を担う都市【神都(しんと)】の中央にそびえ立つ大宮殿と呼ばれる由緒正しき建物の中。

 そこは普段であれば地位や身分の高い者しか立ち入れられない言わば神聖で(おごそ)かな場所なのだが、そんなの知っちゃこっちゃないと言わんばかりに大理石状の通路の真ん中をずかずかと進む。

 道中、そんなワタシの様子を見遣(みや)った職員や警護の人達がすれ違い様にギョッと目を見開き、たどたどしく脇道に()れる。果たしてワタシが今被る被り物が仰々しくて怖いのか、はたまたその被り物をするワタシ自身の威厳に(おのの)いたのかは定かではないけれど、何はともかく現在のワタシは殺気立っていることに違いはなかった。

 内心『威圧しちゃってゴメンなさいね、文句は<アイツ>に言って』と平謝りしつつ、目的の場所に辿り着いた。


「……さぁて、どんな言い訳が飛び出て来るかしら? ワタシに()()()()を叩き付けたことを後悔させてやるわ!」


 ワタシは目の前の扉を叩くなんてことはせず、代わりに豪快に蹴り破ってやった。

 まるで任侠(にんきょう)のカチコミ。そんな強襲に室内にいた女はピクリとも驚く素振(そぶ)りは見せず、逆に……


「あらあら、そんな血相(けっそう)を変えてどうしたの~? 取り合えず落ち着いたら~? 美味しいお茶菓子を用意するからどうぞ、<陽光(ようこう)の剣士>~」


 待ってましたと言わんばかりに件の女――頭と全身を布で覆った<大賢者>が呑気(のんき)にワタシを招き入れたのだった。




 ●




「――単刀直入に聞くわ。このふざけた依頼書は一体何?」


 部屋に入るや否や、椅子に腰掛けるなんてことをする前にさっさと本題を切り出し、一連のイライラの元凶たる<大賢者>の眼前に一枚の紙を叩き付けてやった。

 そこに書かれていたのは『緊急招集命令』の文字。公的な手続きを経た上でワタシ宛に提出された立派な公文書(こうぶんしょ)である。

 それを目の前にした当の<大賢者>はキョトンと首を傾げる。


「何って言われても、そのまんまと言う他無いわ~」

「ワタシが言いたいのはそういうことじゃない! こんなふざけた物をワタシに送って何がしたいの!? もしや、ワタシをおちょっくてるの? ……悪ふざけのつもりなら許さないわよ?」


 ワタシは獅子(しし)の被り物の奥から眼光を光らせ、それと同時に右脇に差した得物(えもの)――<陽光の剣>に右手を添える。『返答次第では斬るのも()さん』と言わんばかりの気迫を放つが、<大賢者>は特に臆することはなく淡々と事情を話し始める。


「少しばかり説明不足だったかもしれないわね~。本当はわざわざ『緊急招集命令』なんて大それた物を用意することなく、<陽光の剣士>に直接お願いしたかったんだけど、それじゃあ面白味ないじゃない~? そのお陰で現にかの<陽光の剣士>をあたふたさせれた――」

「…………」

「あはは、冗談よ、そう睨まないで~。……<陽光の剣士>にひんしゅくを買うのは百も承知で、こうしないといけなかった状況を察して欲しいわ~」

「正直、アンタの考えなんてどうでもいいんだけど? この文書はただの一枚の紙だけど、その強制力は計り知れないことくらい知ってるわ。こいつを受け取った以上、ワタシはそれに従う他無い。つまりアンタはこの<陽光の剣士>をアゴで使う気満々ってことよね? ……もしかしてそこまでする程の何かがあるとでも?」


 ワタシの問い掛けに<大賢者>の布で隠された目が光ったような気がした。

 ワタシは<大賢者>の底知れなさに思わず身震いをする。


(やっぱり本性が掴めないヤツ……。どうやらワタシはそんなコイツに一枚喰わされたみたいね)


 ワタシは辛酸を舐めた顔をしつつも、()えて<大賢者>の思惑に乗っかることにした。


「もしかして上層部連中が最近騒ぎ出してる<神>の討伐報告と関係してるのかしら?」

「ご名答~。<陽光の剣士>にはこれからその元凶である<火の大精霊>を討伐して欲しいのよ~」


 十中八九そんな所だろうと踏んでいたワタシは<大賢者>に疑問を投げ掛ける。


「何でワタシがそんなことを? 他に適任者は居ない訳?」

「結論から言うと<陽光の剣士>は対<火の大精霊>の候補者の中で最も優先度が低いわ~」

「はぁ? 何よそれ? 要は誰もやりたがらない面倒事を押し付けられたってこと?」

「話は最後まで聞いて欲しいわ~。他の候補者は行方知らずだったり、どうしても手が離せなかったり、力があっても信用に足らなかったり、戦える状態じゃなかったりするから、唯一動ける<陽光の剣士>にお願いした次第よ~」


 それは結局丸投げされたのと同じでは?、と不機嫌になりつつ一応他の候補者のことを聞いてみた。


「まず一人目は最有力候補の<勇者>様よ~。相手が【獄園(ごくえん)】の力を使うと報告されている以上、彼女以上に適任はいないわね~」


 <勇者>。その人物は暗黒の瘴気(しょうき)で満ちた大地――千年前世界を覆った深淵(しんえん)が今なお残る地獄の勢力図を狭める所か、逆に押し退けたとされる伝説の英雄。


「でも知っての通り、彼女は生きているのかはたまた死んでいるのかすらも判明してないくらいどこで何をしているかわからない存在から、元より候補からは外れたわ~。そして二人目は、我が【神都】出身の大魔導士――またの名を<聖母>と呼ばれる偉大な魔術師よ~」

「あぁ、あのバァさんか。それについては納得ね。でも確か……」

「その通り~。元々【コミティア】からの救援要請に応じて移動していた最中(さなか)急遽(きゅうきょ)傷付いた神様を救うべく、世界を股に掛けることになったからどうしても手が離せないわ~。そんな<聖母>は代わりに自身が学園長を務める<学院(カレッジ)>の最高戦力たる四人の生徒、通称<四聖騎士>を推薦したけども、彼女達はまだ学生の身だし、それに【神都】の命令すら無視するじゃじゃ馬っぷりを披露されてね、彼女達についても望み薄だわ~」


 そして<大賢者>は最後の候補者を挙げようとするが、それについてはワタシが代弁してやった。


「どうせ最後の一人は<大魔女>でしょ? 無理よ、アイツまだ居眠りこいてるし。例え<聖母>のバァさんの力抜きで運良く目覚めても、病み上がりじゃ使い物にならないでしょうね。……ってことはやっぱり消去法でワタシが出張(でば)らないといけないじゃない? はぁ……だる……」

「とか言いながら、内心乗り気な感じね~。やっぱり可愛らしい<無魔力の忌み子>にカッコいい姿を見せられるから俄然(がぜん)張り切ってるのかしら~?」


 正にその一言は急所に的中し、柄にもなくむせてしまった。


「ブボォ!? バ、バカ賢者、一体何をほざいてやがる!? ワ、ワタシはただ、あの子が一人で無茶しない様に見守りつつ応援してあげたいのであって……。それにエメルダちゃんを巻き込んだのはワタシとアンタのせいじゃない?」

「それもそうね~。<無魔力の忌み子>に<四大精霊>の面倒事を押し付けたのは我々の落ち度に()る物なのは確かだわ~。だからこそ最後まで支援してあげるのが筋ってものよね~」


 そう言って<大賢者>は指を鳴らすと、その姿を白いウサギに変えて、図々しくもワタシの肩に乗っかりやがった。


「しょうがない、<陽光の剣士>だけに任せるのは何だか申し訳ないから、今回はこの<大賢者>も直々(じきじき)に付いてってあげるわ~。感謝なさい~」

「えっ? 結構です。どうそここでぬくぬく紅茶でもしばいてなさい」

「さぁ、そうと決まれば善は急げよ~! 出発進行~!」

「は・な・し・を・き・け・ぃ!」


 ワタシはこめかみに怒り模様を浮かべつつ、仕方ないと言わんばかりに部屋を後にするのだった。

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