集う神達
今回より新章スタートです。
※一人称は<風神>ゼピュローヌ視点のものとなります。その点ご理解の上、お楽しみください。
「う――――」
目を醒ますとそこは満天の夜空が拡がる空間でございましたわ。しかしながらその光景は現実の物ではありませんことよ。言わば意識のみが行き来できる精神世界と言った方が分かり易いかもしれませんね。
いつの間にかこの場所に放り込まれていたあたくしは、色々な意味を込めつつ嘆息を漏らしました。
「……本当につくづく無様ですこと」
「シャッシャッシャッ! 目覚めて開口一番呟く言葉がそれかよ!? 何だい何だい? それは自分に対する戒めか? それともアタイ等に向けた侮蔑か? あぁん?」
そう喧嘩腰に絡んで来たのは、腰から下半身がエラになっている半身半魚のポセイン。
本来その身体の大きさも態度と同様にデカいのですが、今回についてはあたくし達と大差無い位に縮まっておりましたわ。
(恐らくそれだけ消耗したということですわね。ふふ、いい気味だこと)
あたくしは手に持った扇子を仰ぎつつも、愉悦に満ちた表情を浮かべます。
「全面的に後者……とお答えしたい所ですが、そこまであたくしは浅はかではありません。意味合いの割合としては1:9とでもお考え下さいまし」
「おいおい! それはほぼ煽ってるってことじゃねぇか! ったく、性格捻じ曲がり過ぎだな、相変わらず……。誰のお陰でその命繋ったと思ってんだい?」
「大方想像がつきますわ。――だからこそ屈辱でこの身が張り裂けそうですことよ……ッ!」
あたくしは内情で湧き上がる怒りで扇子を真っ二つに叩き割る。
その様子をポセインがドン引きで見つめると、
「取り合えず元気そうで何よりです、ゼピュローヌ」
そんな声と共に一人の女――ニンゲン世界で言う所の家事見習いの装いをした<地神>イアが現れる。
イアは普段通りの澄ました顔で感嘆の言葉を述べましたわ。
「いやはや流石は”癒しの力”の持ち主。<歌姫>ルフの歌声は瀕死寸前の<神>すらも復活させるとは」
「……元々想定していた力ではありませんことよ? 本当であればルフの”魔術”は多くのニンゲンを妄信的に魅了させ、そのまま意のままに操れるというのに、彼女がしたのはただのお遊びに過ぎません」
「それでもポセインの言った通り、命からがら助かったのは事実でしょう? 後で礼を言っておきなさい。形式上は彼女の親なのですからね」
「親? 面倒ですわ。あんな出来の悪いのが子というのなら最初っから――」
あたくしがそう言い掛けた刹那、ポセインとイアに本気で睨まれる。
二人共あたくしと同じく手負いだというのに、<神>の威厳だけはしっかりと保っているということなのでしょう。
あたくしは流れに従う形で自然と萎縮してしまいましてよ。
「はぁ……だからといって反抗的な態度をされるのは我慢なりませんわ。親の言うことを聞けない子供の扱いには困ったものですわね。そうは思わなくて、イア?」
あたくしは、あたくしと同じ様に<四大精霊>の力を悪用しようと画策していた<地神>の方を向く。すると彼女はまたもや平然とした感じで応えましたわ。
「姫――基ノムゥは、親の言いなりではなく友人との友情を優先したに過ぎません。元よりあなたとわたしは傲慢だったのですよ。<四大精霊>はあくまで意思のある存在。だからこそそんな彼女達を操り人形の如く操ろう等、そもそも無理だったのです。子の我儘も許すのもまた親の役目なのでしょうね」
「だから――」
好きで親になったつもりはありませんことよ?、なんて言い返そうとしますが、また圧を掛けられるのも御免でしたので、ここはグッと堪えざるを得ませんでしたわ。偉いですわ、あたくし!
それでも図らずも心がモヤモヤする中、ポセインが呑気に口を挟みますわ。
「アタイもディーネには自由に生きて欲しいと思うが、<神>に反抗心剥き出しにするのはまた別の話だろ? イア、まさかそれも自由意思だなんてほざかねぇよな?」
「当然です。かの犯人には然るべき対処をすべきです。例え命が奪われなくともわたし達<神>が一度倒されたのは事実。世界情勢は確実に混乱するでしょう。……ちなみにお二人に質問ですが、決して手を抜いた訳ではありませんよね?」
「ったりめぇだろ? 目覚めて間もなく本領を出せない上に<神器>がなかったとはいえ、こちとら<神>の一柱だぜ? あの嬢ちゃんが襲って来た時は容赦なく返り討ちにする……つもりだったんだがな」
あたくしもポセインに同調する様に首を縦に振りましてよ。
「横に同じですわ。……ですがあの少女――<火の大精霊>フーリは明らかに異質ですことよ? 他の<四大精霊>と……否、一個体の生物として」
「二人にそう思わせるのはやはり【獄園】由来の”黒き焔”ですか……。ここにきてまた【獄園】関係のイザコザですか? どうにも耳が痛い話です」
「それ故に解決案が限られるのがヤバいぜ? 【獄園】の力が相手とありゃ、対抗出来んのは<勇者>……おっと、イアの前でその名は禁句だったな」
ポセインが口を滑らせたことを特に咎めなかったイアは続け様に案を提示します。
「なら<大魔女>……も無理ですね。彼女も彼女で意識不明の危篤状態ですし。ちなみにゼピュローヌ、<風の大精霊>ルフなら<大魔女>を治せたりしませんか?」
「変に期待させるつもりはありませんから、はっきり申し上げますとほぼ見込みはないでしょう」
「マジかよ? 死に掛けのお前さんを助けたのにか?」
「ポセイン、いいですこと? ルフの”癒しの魔術”は回復ではなく活性と言った方が正しいですわ。つまり、意識さえ残っていればいくらでもそれを鼓舞して持ち上げることが可能でも――」
「逆に安定せず捉え処のない意識に干渉するのは難しいと?」
「そういうことですわ」
だからこそ未だ意識が無いとされる<大魔女>は救えないと結論付けると周囲の空気が一気に重くなりましたわ。
するとポセインは困った顔で叫び声を上げます。
「ならどうするんってんだい? もしかして<無魔力の忌み子>のお嬢ちゃんに独りで頑張れ~!、なんて無責任なこと言わねぇよな?」
「それ以外にどうなさるというのです? というかそれが彼女の本望ですわよね? なら本人がどうにかするのが筋なんじゃありませんこと?」
「酷ぇな、おぃ!? まぁ言いたいことも分かるけどよぉ、応援するって決めた手前、無下に扱いたくはないぜー」
「とは言え、ゼピュローヌの言い分も一理あります。<四大精霊>との契約はエメルダに与えられた試練そのもの。ある意味でここが正念場と言えるでしょう」
「しかしながら、例えそうだったとしても到底勝ち目なんて無いのは明白ですわ。そもそも相手は<神>にすら反逆する<神刈>。我々<神>すら手に余る相手に対して、魔力を一切も宿さぬ小娘をぶつけても結果は火を見るより明らかですよね?」
「「…………」」
またしても現実を突きつけるとポセインとイアは両者共静まりましてよ。
(何故ですの!? どうしてこう気まずくなるのです!? あたくし間違ったこと言いまして!?)
何だか息苦しさで参りそうになったその時です。何ともか細い声が空間の奥から飛来してきましたわ。
「……ならそのエメルダとやらに武力を与えてやれば済む話」
「! あ、あなたは!?」
そういえば彼女のことを一切忘れておりましたわ。
<四大精霊>の元には必ず<神>の存在がある。だからこそ居てしかるべきなのですわ、<火の大精霊>フーリを生み出した<炎神>こと――
「ヴァ―ル!」
がこの中で一番ボロボロの姿で登場したのでした。




