<流星祭>
※当第八話『<流星祭>』における一人称は<忌み子の少女>ではなく、<大魔女>アメルダ視点となります。その点、理解の上お読み下さるようお願いいたします。※
「やれやれ。お腹を存分に満たし、枯れる程の涙を流したかと思うと、それに疲れたからか今では心地良い寝息を立てておるわい」
妾は胸元でスヤスヤと寝ておる<無魔力の忌み子>の少女を優しく撫ででやる。こうして触っても全く起きる気配を見せぬわ。それだけ疲労が蓄積していたのじゃろうな。
妾はそんな少女から視線を外し、店の女性店員に声を掛ける。
「すまぬな、閉店時間をとっくに過ぎておるのに居座ってしまって」
「全く問題無いですよ! ……それにしても大丈夫ですか? 遠目から見ておりましたが、相当泣きじゃくれていましたよ? もしかして何か事情がおありで?」
「心配は無用であるぞ。この娘は少しばかり辛い目に遭っておっての、そのせいで人並みの生活を送れんかったらしい。だからそんな不遇な人生を不憫に思った妾が引き取ることにしたのじゃ」
「そうだったんですね。それにしてもそのお嬢さんはとても運が良い。面倒を見るのが<大魔女>様でしたら途中で育児放棄されることもないでしょうから。ですがその場合、どちらが養われるかは分かりませんがね」
クスクスと笑う女性店員に妾は少し立腹する。じゃが妾が<無魔力の忌み子>を側に置いたのは不慣れな生活のサポートをさせる為じゃから全く間違いじゃない。なのでここでは敢えて反論を返さぬでおこう。
……そんな折、女性店員は多くの紙を特定の形に折り込んでいる様じゃった。
「一体何をしておるでの?」
「あぁこれは、今度の<流星祭>に向けた準備です。その時に提供するからあげやフライドポテトを入れる袋になるんですよ」
「おぉ、<流星祭>か。もうそんな時期かえ?」
<流星祭>。それはこの街に降り注ぐ流星に想いを馳せる一大イベントじゃ。しかもそれはただの祭りではあらぬ。惑星の周期傾向と流れ星の発生頻度からして十年に一度しか開催されぬのじゃ。だからこそ<流星祭>が催される時は世界各国から多くの観光客が訪れ、三日三晩飲めや騒げ騒げやの大賑わいとなる。
そんな<流星祭>は滅多に起きぬ物珍しきイベントではあるのじゃが、数百年生きておる妾にとってはなんら不思議でもなんでもない出来事という認識じゃった。
とは言え全く興味が湧かぬ訳でもない。<流星祭>が開催されておる間はこの妾ですら心踊る。
「流石の<大魔女>様も<流星祭>は楽しみですか?」
「そうじゃの~。もう何十回も見ておるが、一度として同じ光景にならぬから毎回飽きずに済んでおるのじゃ。……それに今回はこの娘がおる。じゃから従来よりも一層面白い思い出になるかもしれぬな」
「そうですね! それでしたらこちらをそのお嬢さんに」
「? 何じゃこれは? ……ん? 引換券?」
女性店員はシ~と人差し指を口元へ持っていく。
「本当は祭の時に行われるスタンプラリーや屋台ゲームで配る予定なんですけど、今回だけ特例として渡しちゃいます♪ その券でこの店の好きな料理や飲み物と交換出来ますので是非ご活用下さい」
「……その気遣い痛み入るのじゃ。なら遠慮なく使わせて貰うかの」
「はい! 当日お待ちしておりますね!」
妾はそんなやり取りをしていても全く起きる気配を見せない<忌み子>の少女を肩に担いでやる。
「そろそろお暇しようかの。其方も知っての通り妾では十分な食事を用意できぬ。じゃから当分の間はご贔屓にさせて貰うが良いか?」
「構いませんよ。それなら逆に色々な食べ物を食べさせてあげてください。そっちの方がそのお嬢さんにとって喜ばしいことでしょうから」
「ならよろしく頼むのじゃ」
そう感謝の意を込め頭を下げた妾は笑顔で店を後にするのじゃった。
●
<忌み子>の少女を起こさぬ様細心の注意を払っておった妾はやっとこさ屋敷に到着した。
取り合えず寝かせてやらねばならぬが、さてどこが使えるかの~……。
それなりの大きさを誇る屋敷じゃ。当然のことながら使える部屋も多い。それも余りある程にの。じゃがその部屋全てに清掃が行き届いておる訳ではない。
妾が苦手なのは料理や洗濯だけではなく、勿論掃除も含まれておる。以前雇っておった世話係が夜逃げしてから約一ヶ月。その間部屋の手入れは一切されておらぬ。わざわざ確認せんでもホコリやクモの巣だらけであろう。
(流石にそんな不衛生な所で一晩明かさせる訳にはいかぬわ……。せめて少しでも清潔な所に寝かせてやりたいの)
そういうことなら妾が使っておる書斎に連れて行くかえ。あそこなら多少綺麗さが保たれておるからの。
じゃが他の場所よりほんのちょっとマシなレベル。小さな少女にとって適した環境とは言い難い。
(なら明日は最低限生活出来るだけの場を整えなければの。こればかりは嫌いだの面倒だの言ってられん。少しばかり気を引き締めなければな……)
妾がそんな決意を固めた時じゃった。はるか上空で眩い光がつぅー……と流れて行った。
――<流星祭>はもう間近。その流星を目の当たりにした妾はそう思いつつ屋敷へ帰るのじゃった。




