<風の大精霊>の真実
【天空城】の全く人の気配がしない路地裏にひっそりと佇む廃墟じみた劇場。
その中で私めとフルル様は、
「あ、あ……改めましてこんにちは……。う、う……<歌姫>ルフやってます……。い、い……以後お見知りおきを……」
「…………」
とてもおどおど、そして弱々しく小声で自己紹介をした少女。そうして明かされた正体がとても信じられず、絶句してしまいます。
それでも何とか気を取り戻した私めは、今一度確認するように少女の言葉を反芻しました。
「……本当に貴女が<歌姫>ルフなのですか? 申し訳ありませんが、さっきの引退公演で歌っていた人と同一人物だとは到底思えません」
確かに身長や身体の出で立ち、そして髪――私めよりも深くて濃い緑色の髪――だけを見れば、全く違うとは言い切れないでしょう。しかし、ルフは身バレ防止の為か目元だけを仮面で隠しておりましたし、もっと言えば公演で見たルフはもっと活発で見た人全員を元気にするような雰囲気があり、大変失礼ではありますが目の前にいるルフと名乗る少女とは百八十度受け取れる印象が異なります。
少女の話が真か嘘かを見抜こうとしたその時、隣に立つ女性がその答えを示します。
「信し゛ら゛れ゛ね゛ぇーか゛と゛思う゛か゛、こ゛の゛子の゛話は゛事実た゛せ゛。正真正銘、彼女か゛ル゛フ゛本人て゛間違い゛な゛い゛よ゛」
「例えそうだったとしてもすぐには信じられません。何せ明らかに舞台上のルフと別人ではありませんか?」
「そ゛り゛ゃ演技し゛って゛か゛ら゛な゛。所謂こ゛れ゛か゛ル゛フ゛の゛素って゛訳」
「じ……じ、実はそうなんだ……。げ、げ……幻滅させちゃったかな……? も、も……もしそうならごめんね……」
「そうなのですね、その点についてはもう疑わないでおきます。――その代わりに一点確認させて下さい」
私めは<歌姫>ルフとフルル様を交互に見つめ、こう切り出します。
「そちらの<歌姫>ルフは私めを見て確かに呼びました。<無魔力の忌み子>と。しかもその発言をしたのは他でもない、私めが追い求める<風の大精霊>と同様の力を持つ歌手……。そのことから導き出せる結論は一つ。――貴女が<風の大精霊>ルフですね?」
私めの指摘に<歌姫>ルフは肯定でも否定でもない言葉を返します。
「そ、そ……それについては半分正解で半分不正解だよ……。せ、せ……正確には<風の大精霊>ルフはあーし個人だけを指す名称じゃない……。も、も……もう一人゛<風の大精霊>ルフを名乗れる人物がいるんだ……」
「ッ!? つまり<風の大精霊>は二人いると!? 誰ですか、それは!?」
「だ、だ……誰も何もないよ……。だ、だ……だってもうそこにいるし……」
<歌姫>ルフが指差した先をわざわざ見るまでもないでしょう。
「……薄々その可能性もあるとは思っていましたが、まさかその通りだったとは」
私めの冷静な分析に対し、件の相手はいつもと変わらないダミ声で返事をします。
「ス゛マ゛ン゛ね゛ぇ、騙す゛様な゛真似し゛て゛。……そ゛う゛さ゛、あ゛ーし゛の゛<歌姫>ル゛フ゛親衛隊隊長、フ゛ル゛ル゛は゛仮の゛名に゛過き゛ん゛。そ゛の゛真の゛正体は゛他て゛も゛な゛い゛、そ゛こ゛の゛<歌姫>ル゛フ゛の゛姉に゛当た゛る゛<風の大精霊>の゛片割れ゛な゛の゛さ゛」
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「さ゛て゛と゛、と゛こ゛か゛ら゛説明し゛よ゛う゛か゛ね゛ぇ。……と゛言って゛も゛、あ゛ーし゛達は゛子猫ち゛ゃん゛の゛事情や゛状況は゛な゛ん゛と゛な゛く゛聞い゛て゛ん゛た゛。同し゛<四大精霊>の゛よ゛し゛み゛て゛あ゛る゛テ゛ィーネ゛と゛ノ゛ム゛ゥか゛ら゛な゛」
「そ、そ……それに病に伏してる<大魔女>様のことも知ってるよ……。だ、だ……だからあーし達の助力を求めてここまで来たんだよね……? で、で……でもごめん、力を貸したいのは山々なんだけど、今は協力出来そうにないんだ……」
「もしかしてそれは”癒しの力”が弱まっているからでしょうか?」
「こ゛明察! あ゛る゛意味て゛あ゛ーし゛達は゛二人て゛一人の゛一心同体。こ゛う゛し゛て゛身体を゛分け゛る゛の゛と゛同時に゛、<風の大精霊>の゛特性も゛分割し゛て゛ん゛た゛せ゛」
だからこそアメルダ先生を救う為の”癒しの力”は現在本領を発揮できない模様です。
「い、い……一応二人を一人に集約する術はあるんだけど、声の力の大半はお姉ちゃんに託してて……」
「ん゛て゛肝心の゛あ゛ーし゛の゛声か゛こ゛れ゛た゛か゛ら゛例え゛そ゛う゛し゛た゛と゛し゛て゛も゛期待薄な゛の゛は゛わ゛か゛って゛貰え゛る゛な゛?」
「そうなった原因はやはり<風神>ゼピュローヌ様にあるのでしょうか?」
「あ゛ぁ。あ゛の゛シャチョーさんか゛全て゛の゛元凶と゛言って゛も゛過言し゛ゃな゛い゛」
「そ、そ……そしてその呪縛から解放される為にあーし達もあーし達でとある人物に希望を託すことにしたの……。そ、そ……それが君だよ……」
私めが<四大精霊>の力を求めた様に、<四大精霊>もまた私めの力を求めたということでしょうか? その理由は一体?
そんな疑問に答える形でフルル様が話を進めます。
「兎に゛も゛角に゛も゛あ゛ーし゛達は゛早急に゛強く゛な゛る゛必要か゛あ゛ん゛た゛。さ゛っき゛も゛言った゛通り゛、あ゛ーし゛達は゛と゛ん゛な゛こ゛と゛か゛あ゛って゛も゛、シ゛ャチ゛ョーさ゛ん゛の゛魔の゛手か゛ら゛逃れ゛る゛必要か゛あ゛る゛。そ゛れ゛て゛も゛<神>の゛一人に゛喧嘩売ろ゛う゛って゛ん゛た゛か゛ら゛、そ゛れ゛相応の゛力か゛必要た゛」
「だ、だ……だから、あーし達は君と”主従契約関係”を結んで、能力の底上げをしないといけない……。そ、そ……その恩恵についてはもう知ってる……?」
「はい、ノムゥから教えられました。だから私めと契約をしたいと?」
「そ、そ……そういった事情があるからこそ、君が【天空城】を訪れたのは幸運の他ないんだ……。し、し……心配しないで、<大魔女>様のことは絶対に何とかするからさ、その代わりにあーし……否、フルルに力を貸してあげて……」
「フルル様に? それはどういう意味です?」
疑問を投げかけるみたく隣のフルル様を見つめると、彼女も彼女で納得がいっていないかのように奥歯を噛み締めておりました。
「ル゛フ゛……半身の゛あ゛ーし゛か゛言う゛の゛も゛あ゛れ゛た゛け゛と゛、そ゛れ゛て゛構わ゛な゛い゛の゛か゛い゛? 散々口を゛酸っは゛く゛し゛て゛言って゛る゛か゛、<風の大精霊>と゛し゛て゛残る゛へ゛き゛な゛の゛は゛――」
「も、も……もう決めたことだから……。そ、そ……それにこんな能無しはこの子の隣に立つ資格は無いよ……。た、だ……だから、残るべきなのはフルルの方だよ……。そ、そ……そういう訳だから後は二人に任せるね……。じゃ、じゃ……じゃーね……」
「ル、ルフ!?」
ルフは話途中でありながらも、そそくさと部屋の奥へ行ってしまいました。
「……フルル様、これはどういうことです?」
「戸惑っち゛ま゛う゛の゛も゛無理ね゛ぇか゛。話の゛流れ゛的に゛別った゛身体を゛一つ゛に゛集結す゛る゛って゛こ゛と゛は゛分か゛る゛か゛い゛? そ゛り゛ゃつ゛ま゛り゛よ゛――」
ほんの少し前からバツが悪い感を出しているフルル様はいつも通りのダミ声ではない冷徹な口調でこう呟きます。
「二つに一つの精神――あーしかあーしのどちらか片方の人格が完全に消失することに他ならんのさ」




