『ルフたんかーわいぃ! るふふふふ~ん!』
歌姫<ルフ>が突如として失踪したという報せは瞬く間に【天空城】全域を駆け巡り、それと共に騒動の火種となり、今正に空前絶後の大事件として巷を騒然とさせました。
そんな事案に対して最も早くかつ冷静に対処を始めたのは他でもない、<歌姫>ルフ親衛隊隊長ことフルル様で御座いました。
急遽集めた総勢百名以上の隊士の前でフルル様は拡声器を通し、声を張り上げます。
「は゛い゛隊士の゛皆さ゛ん゛お゛疲れ゛様て゛~す゛。お゛察し゛の゛通り゛、喉を゛ヤ゛ッて゛て゛聞き゛取り゛す゛ら゛い゛箇所も゛あ゛り゛ま゛す゛か゛こ゛愛嬌て゛お゛な゛し゛ゃーす゛。て゛な゛訳て゛早速、<歌姫>ルフ親衛隊の゛緊急会議を゛始め゛て゛い゛き゛ま゛し゛ょう゛か゛。議題は゛……こ゛と゛さ゛ら゛に゛言わ゛な゛く゛て゛も゛わ゛か゛る゛て゛し゛ょう゛。我ら゛か゛最推し゛て゛あ゛る゛ル゛フ゛か゛行方不明と゛な゛り゛ま゛し゛た゛。こ゛こ゛て゛改め゛て゛状況を゛整理す゛る゛せ゛」
フルル様は優秀な隊士達が集めた情報を今一度以下の様に説明し始めます。
ルフが最後に目撃されたのは、彼女の最終公演が執り行われた会場の中にある楽屋。丁度関係者が目を離したほんの五分程度の間に、ルフの姿は無くなったそうです。
「室内や゛ル゛フ゛の゛私物か゛一切荒ら゛さ゛れ゛て゛い゛な゛か゛った゛こ゛と゛か゛ら゛、強制連行や゛窃盗の゛類て゛は゛な゛い゛か゛と゛思わ゛れ゛る゛か゛、い゛か゛ん゛せ゛ん゛こ゛の゛世の゛中は゛”魔術”な゛ん゛て゛物か゛蔓延って゛る゛か゛ら゛ル゛フ゛を゛抵抗無し゛て゛黙ら゛せ゛る゛こ゛と゛な゛ん゛て゛造作も゛ね゛ぇた゛ろ゛う゛な゛。そ゛の゛こ゛と゛か゛ら゛導き゛出せ゛る゛あ゛ーし゛個人の゛見解は゛二つ゛。一つ゛は゛何ら゛か゛の゛事件に゛巻き゛込ま゛れ゛た゛。二つ゛目は゛ル゛フ゛自ら゛か゛自主的に゛脱走を゛試み゛た゛か゛。そ゛の゛と゛ち゛ら゛か゛に゛せ゛よ゛、<歌姫>ル゛フ゛か゛姿を゛消し゛た゛こ゛と゛に゛違い゛は゛な゛い゛。こ゛の゛事態を゛と゛う゛受け゛止め゛る゛か゛は゛聞く゛ま゛て゛も゛な゛い゛な゛?」
フルル様のその問いかけにその場に集まった隊士全員が咆哮を上げます。
その反応にフルル様は納得し首を縦に振ります。
「た゛ろ゛う゛な゛。正直こ゛の゛問題は゛ル゛フ゛の゛愛好家団体て゛あ゛る゛あ゛ーし゛達た゛け゛か゛悲し゛む゛様な゛話し゛ゃな゛い゛せ゛。<歌姫>ル゛フ゛の゛消失は゛こ゛こ゛【天空城】全体の゛損失と゛み゛て゛い゛い゛た゛ろ゛う゛。た゛か゛ら゛こ゛そ゛……」
フルル様は今まで見せたことのような真剣な面持ちで隊士達を見渡すと、ハッキリこう告げました。
「<歌姫>ル゛フ゛の゛安否を゛全力て゛確保せ゛よ゛!」
「「「「「おおおぉぉぉ~!」」」」」
フルル様のたった一つの号令に隊士達はまた雄叫びを上げ、特に何かを指示せずとも各々の考えで散り散りに移動し始めます。
その一連の流れを目の当たりにした私めはフルル様の手腕に感嘆の声を上げてしまいました。
(な……なんということでしょう……。たった一言発しただけで、百以上にも及ぶ方々を思いのままに扇動してしまいました……)
親衛隊の隊長ということから集団の頭を張っているということはなんとなく理解出来ましたが、まさかここまで大規模だとは思ってもいませんでした。実はフルル様って凄い人だったりして?
そんなことを考えている内に、あっという間に集まった隊士達は全員居なくなっておりました。最終的に残ったフルル様も意を決し、行動を開始します。
「さ゛て゛と゛、こ゛れ゛て゛取り゛敢え゛す゛は゛時間稼き゛出来た゛し゛、そ゛ろ゛そ゛ろ゛あ゛ーし゛達も゛行く゛と゛し゛ま゛す゛か゛。子猫ち゛ゃん゛、付い゛て゛来な゛。約束通り゛ル゛フ゛の゛所に゛連れ゛て゛って゛や゛る゛せ゛? 」
「? 連れて行く? 探す、ではなくてですか?」
「あ゛ぁ、そ゛う゛た゛。隊士達に゛は゛済ま゛ね゛ぇと゛思う゛か゛、実は゛あ゛ーし゛知って゛ん゛た゛よ゛、<歌姫>ル゛フ゛の゛行方を゛な゛」
「それはどういうことです?」
私めの至極真っ当な疑問に、フルル様はシレッとこう応えました。
「……実は゛元々こ゛う゛な゛る゛様に゛ル゛フ゛と゛手筈を゛組ん゛て゛た゛ん゛た゛よ゛。つ゛ま゛り゛全部、あ゛ーし゛と゛ル゛フ゛の゛計画通り゛って゛こ゛と゛な゛の゛さ゛」
●
ここは【天空城】のとある市街地のさらに奥にある路地裏の一角。
明らかに人気の無いこの場所の一角にある、古びて錆びた建物の前に私め達はいました。
そんな怪しい場所を目の当たりにし、私めの背中に冷たい汗が流れ落ちます。
「ここは……?」
「今は゛も゛う゛使わ゛れ゛て゛い゛な゛い゛元劇場さ゛。元々無名な゛歌手達に゛貸し゛て゛い゛た゛経緯か゛あ゛った゛ん゛た゛か゛、セ゛ピュロ゛ーヌ゛社長か゛芸能活動の゛元締め゛を゛や゛り゛始め゛た゛時か゛ら゛カ゛チ゛カ゛チ゛な゛統制か゛図ら゛れ゛、こ゛う゛い゛った゛舞台の゛役目は゛自然と゛無く゛な゛って゛い゛った゛の゛さ゛。そ゛れ゛て゛も゛こ゛こ゛に゛は゛縁か゛あ゛って゛ね゛。ま゛た゛<歌姫>な゛ん゛て゛呼は゛れ゛る゛前の゛ル゛フ゛も゛良く゛お゛世話に゛な゛って゛た゛ん゛た゛せ゛」
そういったこともあり、ここを集合場所に指定したと語るフルル様。
……相変わらず話の筋が見えませんね?
「ともかくここにルフがいらっしゃるということですか? フルル様の言い方だとこれは事前に仕組まれていたことだということですが、その意図は一体?」
「そ゛れ゛に゛つ゛い゛て゛も゛全部け゛し゛め゛と゛し゛て゛説明す゛る゛か゛ら゛少し゛待って゛て゛く゛れ゛。ま゛す゛は゛ハ゛レ゛な゛い゛内に゛さ゛っさ゛と゛中に゛入ろ゛う゛」
今一度周囲を見渡したフルル様はなるべく音を立てないように建物の扉を叩きます。
するとその奥から何ともおどおどしくてか細い声が返ってきました。
「あ、あ……合言葉をどうぞ……」
「ルフたんかーわいぃ! るふふふふ~ん!」
え!? なんですかそれ!?
フルル様が発した聞いているこっちまでが恥ずかしくなりそうな一言に思わず驚愕してしまいます。
合言葉ということですからわかりにくくするのは百歩譲って理解出来ますが、そこまで歯が浮いてしまいそうな物にしなくとも……。
内心本当にそれで合っているのかと疑ってしまいましたが、どうやらそれは正しかったらしく扉が小さく開きます。
「は、は……入って……。と、と……隣の君も一緒に……」
「! 私めもですか?」
「そ゛り゛ゃそ゛う゛さ゛。子猫ち゛ゃん゛と゛共に゛訪れ゛る゛の゛も゛想定の゛内た゛か゛ん゛な゛。――こ゛の゛先に゛子猫ち゛ゃん゛か゛求め゛る゛モ゛ノ゛……否、人か゛い゛る゛せ゛。ま゛さ゛か゛怖気つ゛い゛た゛な゛ん゛て゛言わ゛な゛い゛よ゛な゛?」
まるで私めを試すフルル様は一切恐れることなく建物の中に入っていきます。
(ここまで来て逃げる選択肢はないでしょう。……これはもう行くしかありませんね)
私めは意を決し、フルル様の後に付いて行きます。
こうして建物内に入った我々を出迎えたのは意外な人物である――
「ま、ま……待ってたよ……。さ、さ……さっきの公演振りだね……。ど、ど……どうだったかな、<無魔力の忌み子>……?」
先程引退公演を終えたばかりの<歌姫>ルフだったのでした。




