表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/421

<無魔力の忌み子>エメルダと主従契約関係.②

 今回の話はヴァルキィー視点で展開されます。

 その点ご了承の上、お楽しみください。

「はい、準備完了よ! エメルダちゃん、行けるかしら?」


 エメルダちゃんに()()()()()()の”天使の羽”を装着(そうちゃく)し終えた私はエメルダちゃんを担ぎ上げます。


「えっ!? 本当にこのまま放り投げるつもりですか!? 全く心の準備が出来ておりませんが!?」

「そんなの必要ないわよ! 怖がるんじゃなくていっそのこと空の旅を楽しんでらっしゃい!」

「嫌嫌嫌~ッ!? 辞めて下さぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁ~……」


 エメルダちゃんの絶叫(むな)しく、空へと放たれた彼女は見事、


「う、浮いてる~!?」


 空中で滞空することに成功したのでした。

 予想だにもしない現実に驚きを隠せずいるエメルダちゃんに私は胸を張ります。


「ほら言ったでしょ? 何の問題もないって! 感想はどう?」

「初めてのことですから言葉では言い表せません!」

「それは良かった。でも感動してる暇は無いですよ! <風神>ゼピュローヌはとても情け容赦ない性格! 引退し使い道のなくなった<歌姫>ルフを今すぐに抹殺してもおかしくありません! 目的地の場所はその羽に事前に組み込んでいますから、まずは【天空城】に降り立ち、すぐにルフを探し出して下さい!」

「わ、わかりました! で、では行って参り――ってうわぁああぁッー!?」


 私の助言に従い、すぐさま身体の向きを上空へと向けたエメルダちゃんでしたが、その瞬間、まるでその()()(はば)むように、彼女の目の前で向かい風が吹き荒れたのでした。

 私はその自然現象に舌打ちを鳴らします。


「やはり()()()()()()()()()……ッ!」

「な、何!?」


 突然の突風に(あお)られながらもなんとか姿勢を保つエメルダちゃんの目の前に竜巻が現れたかと思うと、すぐにそれは人間の形に変わっていきます。


「ふふ、行かせませんことよ、<無魔力の()み子>。ポセインとイアを懐柔(かいじゅう)させたその手腕に敬意を(ひょう)し、この場で存分に叩き潰して差し上げますわぁ!」


 そう言って、派手で奇抜(きばつ)な緑色の髪を風で大きく揺らしている女性――<風神>ゼピュローヌが高笑いを上げたのでした。




 ●




 オホホホホ!、なんて貴族お嬢様みたいな高笑いを上げるゼピュローヌを目の前にし、エメルダちゃんは呆然と立ち尽くしてしまいます。

 自身の名を名乗らずとも、エメルダちゃんは<風神>に比肩(ひけん)する神と二度対峙(たいじ)している。きっとその威圧感には身に覚えがあることでしょう。だからこそ、


「エメルダちゃん、全力で逃げて!」

「えっ! あ、はい!」


 慣れない羽で身動きが上手く出来ないのは百も承知。それでも絶対に勝てない相手である以上、わざわざ戦う必要はない。

 私はそんな彼女を支援すべく、どこからともなく出現させた弓の射撃で援護に回る。

 それでも本当の意味で風を掴むような話である。いくら弓を引こうとゼピュローヌに攻撃が当たることはなかった。


「無駄、無駄、無駄ですわぁ! 何人(なんぴと)たりとも、このゼピュローヌ様の身体に傷一つ付けることなんて不可能でしてよ! これでもあたくしは多忙の身。こんな正に子供とのじゃれ合いはさっさと終わらせるに限りましてよ?」


 一切困った様子など見せない余裕しゃくしゃくの素振りを見せるゼピュローヌは指を小さく折り、目で(とら)えられるくらい巨大で数多い鎌風(カマイタチ)を発生させます。


「はい、何の面白みも無くお終いですわ。顔合わせ数十秒でさようなら♪」


 ゼピュローヌはそれら全てを一切の遠慮無くエメルダちゃんに向け射出。


「――――」


 為す術無くエメルダちゃんがその風に飲み込まれようとした|瞬間、


「――させないよぉ」


 突然地面の土が噴出し、一つの壁のようにそびえ立ち、ゼピュローヌとエメルダちゃんとの間に割って入り、先の風の刃を防ぎます。


 まるで救世主のように登場したその者の名をエメルダちゃんは声高々に叫びます。


「ノムゥ!?」

「やっほぉ~、<無魔力の忌み子>。無事起きれたみたいで良かったねぇ」


 ノムゥと呼ばれた栗毛色の少女はこの緊張感にそぐなわい大きな欠伸をし、眠そうに目を(こす)ります。それでもゼピュローヌから注意を外すことはしていませんでした。


「何ですの? 誰かと思えばイアの()()()()ではありませんか? たかが<精霊>(ごと)きが邪魔しないで下さります?」


 ゼピュローヌはの乱入等意にも介さず淡々と風を発生させ、彼女が建てた土の壁に連続で打ち付けます。


「「……?」」


 数発の風が撃ち込まれても()()()壊れる兆しを見せない<土の大精霊>の土壁にゼピュローヌだけではく私も眉をひそめます。

 そんなゼピュローヌの不可解そうな表情を見て<土の大精霊>はしたり顔を返します。


「驚いたぁ? どうして本来風の弱点属性である土属性が撃ち負けないか疑問に思ってるでしょぉ? それについてはボクもビックリィ。”主従契約”を結ぶとボクの力自体も底上げされるんだねぇ。だからこそ、こうして格上の相手の”風属性魔術”にも押し負けないみたいなのさぁ」

「”主従契約”!? それはまだ――って、えっ!?」


 <土の大精霊>の言葉を受けたエメルダちゃんは驚愕(きょうがく)し、(おもむろ)に左手の親指にはめられた指輪を見つめます。

 ここからでも良く見えるくらい、その指輪から茶色の光が宿っていたのが(うかが)えました。


「こ、これってまさか私めと契約を? いつの間に……。私めはともかくとしてノムゥにそんな素振りは一切なかったような……」

「お(かた)いなぁ。ボクはただ見させて貰いたいだけだよぉ。エメルダが『誰も想像し得ぬような世界を創る』所をさぁ」

「? 何ですか、それは? 私めは一言もそんなこと言っては……」

「知ってるぅ。だからもう一つの理由を言うよぉ。あの時、ボクは寝たフリをしてたけど、ちゃんと見てたんだぁ」


 ふと<土の大精霊>がエメルダちゃんを真っすぐ見据(みす)えると、真面目な顔で頭を深々と下げたのです。


「――ボクとアイを助けてくれてありがとう」


 短いながらも誠心誠意こもった感謝の言葉を述べたノムゥは続け様にエメルダちゃんにこんな願いを(たく)します。


「だからこそお願いだよぉ、ボクやディーネにした時みたいに、()()()のことも救ってあげて!」


 いきなりのことに動揺を隠せずにいなかったエメルダちゃんでしたが、すぐにはっきりと首を縦に振りました。


「任せて、ノムゥ! その為に、私めは今こうして空中に立っているのだから!」

「エメルダァ~!」


 エメルダちゃんの言葉に感銘(かんめい)を受け、目元を(うる)ませるノムゥの耳に、


()()()()()()()()()()()()()()()()


 と冷淡な言葉が入り込みます。

 その一言にその場にいた()()()()の全員が絶望に打ちひしがられます。


「甘い、甘いですわぁー。たかだかほんの少し能力値が上がったくらいで調子に乗って。……まさか、アレがあたくしの本気だとお思いで?」


 刹那、ゼピュローヌの魔力が一気に膨れ上がったかと思うと、さっきまで全くビクともしなかった<土の大精霊>お手製の土壁が一瞬で崩落。そのままゼピュローヌの風がエメルダちゃんのすぐ側まで迫ります。


「この世を去る前に覚えておいて下さいまし。絶対領域に至る<神>は誰にも止められない。だからこそ、この場においてあたくしに敵う者は皆無――」

「――と、(えつ)(ひた)ることこそ甘いのですよ。同じ<神>からの助言として有難(ありがた)く受け取りなさい」

「は? って、ぐぁあ~!?」


 いつの間にか土の中から先の土製の壁……とは比べ物にならないくらい大きな巨人が立っており、ゼピュローヌを殴り飛ばしたのです。

 私はその人物に覚えがありました。


「イア! どうしてここに?」

「それはそこの<姫>と同じく、命の恩人に報いる為です。<無魔力の忌み子>、ゼピュローヌはわたし達三人で足止めをします。だからあなたは早く成すべきことをしに行きなさい。そして今一度証明してみせなさい。<大魔女>がいなくともあなたにしか導けない可能性をね」

「…………。かしこまりました……ッ!」


 数秒逡巡(しゅんじゅん)したエメルダちゃんは奥歯を噛み締めつつ、遥か上空へと昇っていきます。そんな彼女を見送ると、


「イア~! 話に聞いていた通り、<無魔力の忌み子>にほだされたばっかりにつまんなくなりましたわね。そんな彼女を庇い立てするのもそうですが、今まで属性相性的に絶対に勝てなかったあたくしに(きば)()くなんて!」


 いつの間にかここに戻っていたゼピュローヌに挑発されたイアはさも平常心で答えます。


「あなたはきっとこう言いたいのでしょう。勝てない、不利、無茶、不可能だと。ですが、今のわたしにはそんなの興味ありません。――世の中にはいるのですよ、そんな下馬評をひっくり返す()()鹿()()がね」

「何が言いたいのです?」

(じき)にあなたも痛感しますよ。……ですがまぁ、それはここでわたし達に()かされなかったらの話ですがね」

「あ゛?」


 ちょっとそれは言い過ぎじゃないの、イア?、と心の中で冷や汗を流しますが、残念なことにその一言はゼピュローヌの怒りの沸点を穿(うが)ちます。


「そこまで言うならやってみなさい、このクソカス共!」


 ほれ言わんこっちゃない。共と(ののし)られた手前、きっとそれは私も含まれているのでしょう。


(はぁ、勘弁して下さいよ……。私を振り回すのはあの<勇者>だけで十分なのですが?)


 これでも私、高貴な<天使>なのですよ? そんな不満たらたらの感情が表に出ていたかは定かではありませんが、頭の中に”念話魔術”が送り込まれます。


『ヴァルキィー、申し訳ありません。わたしが手助けをお願いしてしまったせいで面倒事に巻き込んでしまって』

『……不要ですよ、今更(いまさら)そんな謝罪は。私はただエメルダちゃんの助けとなるべく手を差し伸べ、正しき道へと導いたまでです。この行為に<天使>がどうとか、<神>直々(じきじき)の命令だったからとかは一切関係ありません。差し詰めこの動機は同僚(どうりょう)のキューレイと大差ないでしょう』

『そうですか』

『ほら、そんなことより構えて下さい! お相手はどうやら本気の様ですよ? 勝ち目は薄くとも(あらが)う他道はないですからね!』


 そんな愚痴を呟きつつも、仕方ないと諦めてしまったことを認めつつ、私は今一度弓を引くのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ