”魔力欠病症”
<地神>イア様が徐に口にした<大魔女>アメルダ先生の現在の状況。その雰囲気は何とも重々しく、何か大変なことが起きていることを予感させるものでした。
「――先生の元へ駆け付けなければ……ッ!」
私は居ても経っても居られず、未だ抱き付いて<土の大精霊>ノムゥを払い除けるとベッドから飛び出します。ですが、
「うっ……ッ!?」
何故か上手く身体に力を入れられず、一歩も歩けぬまま転倒してしまいました。そんなお恥ずかしい場面にイア様は呆れ果てます。
「もうお忘れですか? <無魔力の忌み子>は約一ヶ月寝たきりだったのですよ? 当然筋力が衰えているに決まっているでしょう? はぁ……しょうがありませんねぇ……」
イア様はどこか面倒そうにぼやくとパチンと指を鳴らすといきなり地面が盛り上がり、徐々に人型を形成します。それには見覚えが――先の【地底都市】にて見かけたもので確か名前は……。
「”土製人形”……。もしかして【地底都市】にいたのは全部……?」
「えぇ、ワタシが造った物です。そして命令を下していたのもね。そう正にこんな風に。”土製人形”よ、『この少女を運びなさい』」
『オオセノママニ』
「ひょえっ!?」
鶴の一声ならぬ主の一声に従った”土製人形”は私めを軽々しく持ち上げ肩に担ぎます。
「な、何をするのです!?」
突然のことに暴れますが、当人のイア様本人はキョトンとなさります。
「何って、<大魔女>の元へ向かうのでしょう? その身体じゃどうせまともに歩けないでしょうから、特別に”土製人形”に乗せて連れて行ってあげます」
「あ、ありがとうございます……」
「御礼は結構です。……ですが、その代わりに覚悟していて下さい。<大魔女>の悲惨な姿を目の当たりにすることを」
さっきから終始変わらぬイア様の緊張感に、私めは思わず固唾を飲み込んだのでした。
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ズシンズシンと歩く度に音を鳴らす”土製人形”。そしてそれに乗っかる私め。その光景は周囲から見ればいささか数奇でしょう。
図らずも羞恥心を抱きますが、そんな折とあることに気が付きます。
「そういえば街の皆様はみんな起きられていますね」
「えぇ。元は姫の術でしたから彼女に解除をお願いしました。今ではもうニンゲンを眠らせた方が幸せ、なんて考えはノムゥにはもうありません。それでも自分が居眠りすることは辞めませんが。全く困ったものです……」
「はは、心中お察しします」
「ともかく、そんなこんなで目的地に到着です。この中に意中の<大魔女>がいます。さぁ行きましょうか」
イア様の先導の元訪れたのは【コミティア】唯一の医療施設である小病院。
二年前の隕石落下事故で全壊しながらも何とか必要最低限の機能を取り戻し、以前よりも小規模ながらも街の人々を助けるここに先生がいらっしゃるということはつまり……
「これがイア様が仰ったお覚悟の意味ですか?」
「えぇ。わたしは法律や規則のこと以外に疎くニンゲンの病気については管轄外ですから、実際に観てもらった方が早いと判断しました」
そのまま私め達は病室内の一室に通されます。そこには一人の患者が――見るからに重篤な者を扱うが如く、顔や全身に紐が繋がれている女性の姿があったのです。
「――――」
私めはこの見るも無残な惨状に言葉を失います。
イア様はそんな私めを横目で流しつつも淡々とした口調で告げます。
「医師が言うには、これは”魔力欠病症”と呼ばれる症状らしいです。つまり今の<大魔女>は、”魔術師”の生命活動の基幹である”マナ”を適度に取り込み循環させれておりません。この状況が続けば恐らく最悪の事態になってもおかしくないでしょう」
「その理由はやはりあの人外な魔術のせいですか?」
「はい。あまりあの<ヴォイド・ノーバディー>の言葉を鵜呑みにしたくはありませんが、彼女が言うにはあの時の<大魔女>は<大魔女>であって<大魔女>ではなかったのだとか。ならこの結果にも合点がつきます」
自分にも扱え切れぬ力は時に毒にも成り得る。そう付け加えるイア様に続け様問い掛けます。
「治す手段については?」
「そればかりはどうにも。元より魔女は常人とは違う”マナ”体質を身に宿している。措置をするのなら同郷である魔女にしか不可能でしょう。今はそんな魔女の中でも<聖母>と呼ばれる治癒に特化した者を【神都】から呼び寄せている最中です。ですが、もし仮に手を施される前にまた暴走をしようものなら、再度止める手立ては存在しない。あなたとてあの惨劇はもう二度と起こしたくは無いでしょう? ならエメルダはエメルダで<大魔女>を正気に戻す為に動かねばなりません」
「言っている意味は判りますが、具体的にどうすれば……?」
私めの疑問にイア様は表情を一切変えず応えます。
「そう構えずとも、今までと変わらないことをまたするだけですよ。いつも通り<四大精霊>――癒しの力を持つとされる<風の大精霊>と主従契約関係を結べば良いのです」




