神に認められた少女
「――お目覚めですか、<無魔力の忌み子>?」
現実とは異なる謎の空間で<ヴォイド・ノーバディー>さんと会話をした後、意識を取り戻した私めに声を掛ける人物がおりました。
「あ、貴女は……?」
そこにいたのは家事手伝いの様相をなさる細身の女性――<地神>イアの姿があったのです。
一時は敵対した間柄。
どうしましょう……と額に緊張感を走らせる私めに<地神>イアは待ったを掛けます。
「落ち着きなさい、<無魔力の忌み子>。我々はもうあなた達と事を構えるつもりはありませんから」
「その言葉を信じろと言うのですか……?」
「なら言い方を変えましょう。わたし達にはもう誰かと争う気力や余力は皆無です。何せ我々の本拠地はもう既に崩壊し切っております。故郷が粉々に壊れることで生じる悲壮感は【コミティア】出身の方々にも通じるところがあるでしょう?」
「え……? は……? 貴女達の故郷って【アンダグラーダ】のことを言っているのですか?」
「それ以外にないでしょう?」
シレッとサラッと告げられた衝撃の事実に言葉を失ってしまいます。
(あんな巨大な都市がいきなり破壊され尽くされるなんて……。その原因を作ったのは十中八九他でもなく――)
「――アメルダ先生を止めるのはそんなに大変なことだったのですか?」
その問いに<地神>イアはまるで思い出したくない苦々しい記憶を呼び覚ましたかの如く、とても不機嫌そうな表情をなさります。
「大変だ、なんて規模ではありませんでしたよ、全く……。それでも被害が【アンダグラーダ】とその近辺だけで済んだのは奇跡だったでしょう。あの<ヴォイド・ノーバディー>とかいう謎の女がいなければ、もっと深刻な状況になっていたでしょうね」
どうやら本当に<ヴォイド・ノーバディー>さんが尽力なさって下さった様です。
それに加え、地底都市で眠っていた者達を護りつつの攻防戦だったらしく、ちゃっかりその点でも被害が抑えられたとか。
「ということは、人的影響は?」
「はい、ほぼゼロでしたよ。それに加え【アンダグラーダ】にいた大多数のニンゲンは<姫>によって眠らされていたので、幸いにも<大魔女>の暴走は目撃されずに済みました」
それでも【地底都市】の中枢を機能停止まで追い込んだのは事実。それだけでも熾烈な戦いがあったことが容易に想像がつきます。
「……ともかく、あの騒動から約1ヶ月は経過しましたから、もうそろそろ気持ちの整理をしないといけませんね」
「いっ!? 1ヶ月!? もしかして私めはその期間ずっと……?」
「えぇ。その間、あなたは一切目を醒ましませんでした。あなたが起きるのにそれくらいの時間を要すると<ヴォイド・ノーバディー>が言っていましたから、その間見守らせて頂きました。……ちなみにその傷の調子は如何です?」
<地神>イアは寝ている私めの腹を指差します。そこには夢の中でも確認した、まるで引き裂かれたかのような傷跡がありました。
見た感じとても痛々しい感じではありますが、不思議と痛みや痺れはありません。
その旨を伝えるとイア様はホッと胸を撫で下ろします。
「それは良かった。わたし達を庇い受けたその傷の損傷は酷かったというのに、<ヴォイド・ノーバディー>はその身体に鞭を打って強引に動かした。正直傷は塞がれ血は止まりましたが、気が気でありませんでしたよ。全く……どうしてあなたばかり無茶を強要されねばならないのです?」
どこか苛立ちを露にするイアに対し疑問が浮かび上がります。
「え、えっと、どこにそんな怒る要素があるのでしょうか……?」
「何を言っているのです? 仮にもあなたはわたしと姫……いや、ノムゥの命の恩人です。あなたの覚悟と意思をしかと受け止めました今、あなたのことはもう矮小の存在だと卑下することは出来ません」
「えっ? 命の恩人だなんて大袈裟な……」
「単純ではありませんよ、わたしとノムゥにとってはね。もし仮にわたしがあなたの立場だったら、あの場で身を挺することなんて絶対に出来なかったでしょう。つまり、あなたは神にすら不可能な偉業を成し遂げたということです。根拠はそれで十分では?」
別にこの結果を予想してイア様やノムゥを助けた訳ではないというのに、向こうが勝手にこちらを持ち上げるものですから、どうにも腑に落ちません。
そんな動揺を他所にイア様は安心し切った顔をなさります。
「ともかくあなたが無事でよかったですよ。あの<大魔女>と同じ結末を辿るのでは?と気が気でありませんでしたから」
「!? そういえばアメルダ先生は今どうなさっているのです?」
その質問にイア様は奥歯を噛み締めます。
「……それについては自身の目で確かめて下さい。ですが、決して絶望せぬ様に。あぁする他手立てはありませんでしたし、結果論的に一番穏便に済みましたからね」
「そ、そんな……。一体何が……」
私めは先生に降りかかった不吉の気配を感じ取り、背中に冷たい汗を流すのでした。




