『 』と『 』
今話で『<無魔力の忌み子>と<土の大精霊>』編が終幕となります。
また<ヴォイド・ノーバディー>視点の話となります。
その点を踏まえた上でお楽しみ下さい。
「――さぁてと、まさかこの私が顕現する展開になってしまうなんてね。本来この流れは世界にとって許されざる禁忌なのだけども、<大魔女>が先にその手を使った以上、私が出張らないと問題は解決出来そうにないから少し張り切らないといけないみたい。面倒だけどやるしかないか」
私は<大魔女>のことを軽く見つめるとどこからともかく出現させた真っ黒に染められた杖を振るいます。
「取り合えずあっちに飛んで遊ばせ」
すると<大魔女>の姿がパッと消え去りました。
「これである程度の時間稼ぎができそうね。ならまずは――」
意外と余裕しゃくしゃくに見えるかもしれませんが、この私が動ける期限はそう長くはない。すべきことを素早くこなさねばならない故、早足で目的地へと向かいます。
「こんばんは、初めまして。早速で悪いんだけど力を貸して下さるかしら?」
私なりに屈託や曇りのない子供特有の笑顔を浮かべたつもりでしたが、声を掛けたその相手は驚きの余り顔を青ざめさせておりました。
「な、何者ですか、あなたは!? <無魔力の忌み子>……ではありませんよね?」
「今そんなことはどうでもよくありませんか? そもそもどうせ神の一人でもある<地神>にとっても私の名――『 』を認識出来ないのでしょう? なら名乗るも何もないですよね?」
「は、はぁ……?」
「と・も・か・く! さっき言った通り手助けをお願いしていいかしら? あの<大魔女>もどきをどうにかするには私一人だと骨が折れる……って実際問題この身体は既に数ヵ所骨が折れてるから言葉を言い改めるなら、骨折り損にしたくないのよ。おわかりになります?」
「骨折も大概ですが、むしろ何故それで済んでいるのです? 最後にあなたが受けた一撃、あれは確実に致命傷だったでしょう?」
どうやら<地神>は私が未だ健在なことを不思議がっているご様子。
私はその問いに端的に説明できるよう首に掛けた御守りを突き出します。
「確か『精々一回防ぐくらいが限度』でしたっけ? どうやら想定とは違えど<地神>の言う通りになってしまいましたね」
「! まさかキューレイの護符があの土壇場で機能を発揮したと!?」
「えぇ、これのお陰で最悪の事態を避けられ、そして私が姿を現せた。喜びなさい<地神>。私の登場で最悪が最善に変わりますよ」
堂々とした態度を見せ<地神>を安心させたつもりでしたが、彼女はまだ疑心暗鬼気味でした。
「……その自信は一体どこから湧くのです? あなたが<無魔力の忌み子>……でないのは紛れもない事実でしょうが、その生半可な傲慢さは必ずやその身を滅ぼしますよ? ――丁度、このわたしと同じ様にね」
そうボヤいて<地神>は自身の――物理法則を一切無視したひん曲がり方をしているもはや右手とは呼べない身体の一部を見つめます。
私は明らかに戦意を消失している<地神>の手元に杖を当てます。
「こうすれば私の力を少しは信用して下さいます?」
その言葉と共に杖をなぞった瞬間、<地神>の右手自体が歪み、そして捻れ始め、
「え?」
<地神>の手が元通りになったのです。
そんな光景を目にした<地神>は驚きの余り、変な声を漏らします。
「な……なぁ~!? なんですか、これは!? 一体どんな原理で……」
「ふふ、そう難しいことではありません。ただ相手が破った空間を元に戻し修復させただけですから。そんな訳で私はあの<大魔女>――いいえ、< の大魔女>『 』の力の影響を受けずに立ち回れます。なので私が<地神>と同じ轍を踏むことはありませんよ」
「? 今なんと仰りました? 途中聞き取れなかった単語があったのですが?」
「残念ながらそれについても説明は不可能です。何せ彼女『 』も私と同じく世界から存在を抹消された同類なのですからね。それに例え話せたとしてもそもそもこうやって悠長に話してる暇も無いですし。現に――」
私はまるで未来を見据えてるかのように<地神>の真横付近に杖を構えておきます。すると、正にそこの空間が裂け、その中から手が伸びます。
「相手はこうやって的確な敵意をこちらへ向けてますし」
咄嗟のことながら全く慌てた様子を見せず、私はその手を乱暴に押し退けます。
「あー、はいはい。只今こちらの空間は閉店中ですよ~っと」
突如飛び出してきた手を空間の奥に追いやった私は、傷跡を縫合するかのように相手がこじ開けた亀裂を閉じます。
この一連の動作については特に問題ありませんが、いつまでも後手後手に回るのはうんざり極まりない。
私は溜息交じりに、この場にいながらも終始空気と化していたもう一人の少女に目線を配ります。
「――もうそろそろ狸寝入りするのを辞めて下さるかしら、<土の大精霊>?」
「……ッ!」
こんな一言に若干の動揺を見せピクリと身体を揺らす<土の大精霊>に私は言葉を語り続けます。
「今回ばかりは<土の大精霊>の<神器>――”ニョルニーヌ”の力が必要なの。私が相手の猛攻を防ぐからその間に眠らせて。ちなみに拒否権は無いわ、それ以外に選択肢が無いのだからね」
「…………」
そうは言っても返答無しの<土の大精霊>。
これでは埒があかないと若干の苛立ちを覚えつつも、冷静を保ちつつ口を開けたその時です。
いきなり<地神>が声を荒げます。
「……いい加減にしなさい、<姫>――否、ノムゥ!」
「!?」
体裁上<土の大精霊>の上位に値する<地神>の一喝。それが効かない筈もなく、<土の大精霊>が勢いよく起き上がり正座をしてしまいました。
また大地の神の怒りに呼応するかの如く、その一言毎に地面すら震え上がります。
「事は一刻と争うというのに何呑気に寝ぼけているのです! ふざけるのも大概にしなさい!」
「は、はいぃい!」
<地神>の怒号に<土の大精霊>は完全に気圧されて自然と背筋を伸ばします。
ありゃりゃ、これは完全にお冠ね。くわばらくわばら……なぁんて思って距離を取るのも束の間、
「あなたもあなたです!」
激昂の矛先を私にも合わせてきたのです。
「なんですか、いきなりしゃしゃり出て来ては意味不明なことばかり口にして! 名乗りを口パクで済ますなど言語道断ですよ!」
「そうキレないで下さいよ、そもそも名乗れない深~い事情があると散々言って――」
「関係ありません! ……そもそもわたしは許せないのです。憎きニンゲンに――誰よりも無力でボロボロでありながらも、自分の身を挺してまで己が信念を貫くなんていう低俗な姿を晒す<無魔力の忌み子>エメルダに助けられたことが嫌で嫌で仕方ありません……ッ!」
いかにも<無魔力の忌み子>を嘲笑するような発言を述べる<地神>ですが、その目元には小さな涙が潤んでいたのです。
きっと<地神>は傷付くばかりの<無魔力の忌み子>に命を救われてしまったことを憂いているのでしょう。
「その羞恥心、よぉーくわかります。だからこそ悔しいですよね? あの<無魔力の忌み子>ばかりがカッコいいなんて、なんともみっともないでしょう?」
「知った様な口を利かないで下さい。わたしはただ<神>の一人としてニンゲンから受けた恩をそのままほったらかしにしたくないだけです。勿論癪ですが、あの<大魔女>の姿をしたアレをどうにかするまでの間だけあなたに協力するとしましょう」
そう言って『あくまで<無魔力の忌み子>にばかり良い顔はさせたくない』と強めに付け足した<地神>はまたもや蚊帳の外気味の<土の大精霊>の腕を引っ張ります。
「そういうことですので<姫>の頑張りが肝となります。今だけでいいので本気を出して下さい」
「えぇ~!? どうしていつの間にかボクも戦力に数えられてるのぉ~!? やだぁやだぁー! あんな化け物をまた眠らせるなんて真っ平御免だいぃ!」
私と<地神>に詰められる意味は理解していても最後の決心だけが下せず、しばらく駄々をこねる<土の大精霊>でしたが、
「……ねぇ、<無魔力の忌み子>――なのかどうかは知らないけど――はどうしてそんなに頑張れるのぉ? どう考えたって寝て見て見ぬ振りをした方が幸せなんじゃないぃ?」
ふと私に問い掛けてきます。
その質問に対し私は、
「私は<無魔力の忌み子>本人ではありませんのではっきりと答えられないけど、恐らく性根の部分は似てるだろうから代弁してあげましょう。……きっと勿体ないと思ってるのよ」
「? どういうことぉ?」
「つまりさ、眠って現実逃避する事よりも、歯食い縛って辛辣な運命に立ち向かった方がこの世に生きているという実感を得られるんじゃない? だってそうでしょ? <無魔力の忌み子>はここ数年でやっと人生初の幸せを謳歌出来るようになった。その輝かしい未来を見す見す手放すことは私だったら到底無理ね」
「……やっぱり変なのぉ。寝るより楽しいことなんてあるぅ?」
「それはただ<土の大精霊>が井の中の蛙大海を知らずなだけよ。そんな<土の大精霊>に朗報。<無魔力の忌み子>と”主従契約関係”を結べばあら不思議! そこには<土の大精霊>の知らない大海原が拡がっているではありませんか! ……なんてね」
クスクスと楽しげに微笑む私はこう言葉を締めます。
「とにかく、<無魔力の忌み子>は誰も想像し得ぬような世界を創ると断言するわ。その大波の先頭に乗れるなんて<土の大精霊>はツイてるわね」
「何それぇ? ホント意味不明だよぉ」
「今は理解出来なくていいわ。何せ――」
『もう少し先の話になるだろうから』と心の中で呟くと共に、さらにもっと彼方の運命に思いを馳せます。
(――この介入によって因果は確実にズレたでしょうね。それが吉と出るかハズレと出るかは正に<無魔力の忌み子>次第といったところかしらね)
……なんて今考えてる暇はない。まずは目の前のことを着実にこなさねば。
「さぁ、来なさい、『 』! その腐った根性、弟子である<無魔力の忌み子>に代わり、この私が叩き直してあげますよ!」
そうしていつの間にか眼前に立ち尽くしていた『 』との死闘が始まったのでした。
今話にて『<無魔力の忌み子>と<土の大精霊>』編終幕となります。
ここまでのご愛読ありがとうございました。続きもお楽しみに。




