人生初のお召し物
湯から上がり、<大魔女>アメルダ様は私めの全身をタオルで拭いて下さります。
その後、私めの身体に刻まれた傷を手当てしながらこんなことを尋ねてきます。
「――其方よ、結局湯船で泳がんかったが良かったのかえ? 妾はとっても楽しかったのじゃがな~」
そう言って心底残念そうに口を尖らせるアメルダ様。
そんな姿を見て私めは苦笑を漏らします。
(とてもではないですが言えません。お風呂ではしゃぐアメルダ様を直視できなかったと……。どうやら三百歳を余裕で越えてらっしゃるアメルダ様の精神年齢は相当幼い様で御座います。拍子抜けと言うか何というか……急にアメルダ様に対する警戒心が抜けた代わりに妙な親近感が湧いた気がいたします……)
「? どうした、呆けた顔をしているからに? 湯冷めする前に着替えてしまおうぞ?」
私めが心の中で何を考えているか等露知らず、アメルダ様はそこら辺に積まれているカゴを手当たり次第に開け、中から白色のローブに似た衣服を取り出します。
「良かった、子供用のサイズが一着だけあったわい! 多少大きいとは思うがさっきまで来ていたボロ布よりは幾分かマシじゃろう」
私めは受け取ったローブを着込みます。アメルダ様のご指摘通り、多少大きいですが誤差の範囲です。
「……さて、風呂は卒なく終えたが問題はここからじゃの~」
アメルダ様何やら神妙な顔付きで顎に手を添えます。
一体何を考えてらっしゃるのでしょうか? そう私めが思ったその時です。
「ぐりゅるるるぅ~」
と私めの腹から盛大な音が鳴り響きました。
「やはり空腹になってしもうたか……。本当なら飯を作ってやるべきじゃが、残念ながら妾が台所に立てば闇鍋が完成すると専らの噂での、流石に料理は振舞えぬ。良し、そういうことなら外食をするとしよう。そのついでに其方の生活で必要となるあれやこれやも同時に調達しようぞ? 結局あっちこっち連れ回すこととなってしまうがそれで構わぬか?」
私はただ首肯をお返しいたします。そうして私めとアメルダ様は再び街へと繰り出すのでした。
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とは言え、もう一度街に向かうと申しましてもお風呂上がりの白ローブのまま外に出る訳にも行きませんでしたので、アメルダ様はもう着ない衣服の袖と丈をバッサリと裁断し私めに授けて下さいました。
「案の定ダボダボじゃが少しの辛抱じゃ。まずは一着、其方に合った服を見繕う。そうすれば周りからの視線を気にする必要も無くなるでの」
そう提案したアメルダ様はまず初めに私めを街の服屋へ連れて来ました。するとハキハキとした態度の女性店員が私め達を出迎えます。
「あっ、アメルダ様! いらっしゃいませ! もしかしてまた着ていたローブの修繕に参ったのですか?」
「いや、今回はこの娘に見合った衣服を譲って欲しくての」
「え? えっ~!? 誰ですか、このお嬢様は!? アメルダ様、まさかいつの間にお子様を授かっておられたのですか!?」
「妾の子ではないわい! 訳あって引き取ることになっただけじゃ。ほれ、冗談は良いからさっさと用意してくれい……」
「うわ~、嘘嘘! まさかアメルダの元にこんな可愛い子がやって来たなんて信じられません! これは最高級に似合う服をお渡ししなければ……ッ!」
何やらやる気に満ち溢れる店員のお姉様は様々なお衣装をあれやこれやと私めへ持って来ます。
「どれもお似合いですね~! ちなみにお嬢様はどの様なのがお好みで?」
服の好み、と申されましても私めには判断し兼ねます。何故なら今までボロ布しか着たことの無い私めでは何が素敵な衣服か漠然とし過ぎているからです。
どうしていいかわからずあたふたとしておりますとアメルダ様が助言を下さります。
「ただ単純に着たいと思った物を選ぶだけで良い。恐らくどれも似合うだろうから安心せい」
そうでございますか……。
私めは言われた通り、何となく目に留まった一着を指差します。それは白と黒を基調とした何とも不思議なお洋服でした。
「――ゴシック服ですか。それはお目が高い。私自身一番オススメしたい品でしたから」
「ふむ、実は妾もそう思っておったわ。少し趣は違うがメイド服みたいで可愛らしいの」
「ではお買い上げで?」
「無論じゃ。……ちなみにこれから着せたいからタグ切りを頼むぞ?」
「かしこまりました」
どうやら私めの我儘が通ってしまわれた様です。こっそりと商品タグを拝見すると、用意して下さったどの服よりも高額でした。それには私めも冷や汗を流します。
やはり別のモノにしようとゴシック服を脇にどかそうとしましたが……
「値段のことは気にするでない。言わばこれは其方にとって初めてのオシャレじゃ。ならその記念として、堂々と着てくれた方が逆に助かるわい」
そう言われてしまったら従う他手立てはありません……。私めは選び取った服を買って頂く様、頭を下げアメルダ様に懇願し、そのまま更衣室でゴシック服とやらに着替えた私めはアメルダ様と共に店を後にするのでした。




